#49 人と魔族と


 ミアが、死んだ?


 嘘だろ……おい、嘘だ……


「くっそがぁぁぁっ……殺してやる!」


 殺してやる殺してやる!

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!


 無意識だ、俺の身体は無意識のうちに、奴の身体を斬っていた。斬って斬って、何度も何度も何度も、斬った。フォトンを放つ。何発も、無我夢中で放つ、放つ、放つ、放つ、

 白い粒子砲は次々とフールを貫く。

 俺は更に追い討ちをかけるように距離を詰め、変形させたブレードでフールの身体を捉える。

 このままブレードを絞れば、コイツの身体はバラバラに斬り刻まれる。……終わりだ、


「死ねぇぇぇっ!!」



 ……!!


 な、んだ……俺の身体が……何か、に……


 堪らず血を吐いた。地面に倒れたのか、視界が回り砂が映る。腹が痛い、刺されたみたいに……痛い……痛い……痛い……いたい……いだい、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ


「シロさまっ!?」


 いま、の……声……だ、れ? だ?

 視界がボヤける、駄目だ……意識が……











 ……



 ここは……


「シロさま! 良かったシロさまぁっ!」

「パパ! 生きてた!」


 どういう事だ? ここは……王都ではないな。

 ……? ……腕、ついてる……? アレは夢だったのか? 全部夢で、ミアも生きてて、魔神なんてのもいなくて……


 しかしそんな考えは間違っていた。周囲を見回すと、そこには王国騎士達が数人、俺達を取り囲むように立っていた。この栗色の髪の僧侶は……

 ガラントの時の……


「気が付きましたか? 良かった、危ないところだったんですよ? 体中が貫かれて、片腕は吹き飛んで……それは見るも無残な姿でしたから。正直、死体でしたよ……あ、わたしはリーナと申します。」


 俺の顔を覗き込む少女はそう言って安堵の笑みを浮かべる。リーナ……

 俺はそんな少女に、


「そんな、ほぼ死体の俺は、何故完治して?」


 その問いに答えたのはあの男だった。豪華な鎧に身を包んだ第三皇子、ガラント。


「そいつは回復のプロだ。腕の一本くらいなら魔法で何とかなる。……ったく、俺様達が駆けつけてなかったら間違いなく死んでたぞ?」


「……ガラント……皇子?」


「時計塔がいきなり吹き飛んじまいやがって……おかしいと思ったらこれだ。……何があった?」


「魔神……ガラントさんは見てないのか……あの道化の姿をした魔神を……」



 ガラントは首を傾げた。どうやら彼らはフールの姿を見ていないようだが……

 するとミルクが俺に言った。


「シロさまが一度死んだ後、魔神フールは北へと去りました。その後、ガラントさん達が来てくれて……」


 今、殺すまでもないってか……くそ……それより俺が気になるのはミアだ。もう一度周囲を見回すがミアの姿が見当たらない。俺は身体を起こし肩に降りたミルクに問いかけた。


 ミルクは言葉を詰まらせ俯いたが、ぴょんと飛ぶとフリルの頭の上に降りた。そしていつものように小さな羽をパタパタしながら俺を見上げるようにして言った。


「ミアは別室に……リーナちゃんの回復魔法でも目を覚まさないんです……」


 生きている……? ミアは生きてるのか? 俺は咄嗟に立ち上がりフリルの小さな肩を激しく揺らし声を荒げてしまった。

 フリルは驚いた表情で困っていたが、焦る俺の肩をそっと掴むと、笑顔でこたえる。


「大丈夫です、パパ。ミアお姉ちゃんはちゃんと生きていますよ。……パパのリジェネレーションの効果で。」


 続けてミルクが補足する。


「確かにミアはあの一撃でHP0になりました。しかしその瞬間にリジェネの回復が入り危機を脱したんですよ。一瞬でもタイミングが合わなければこんな奇跡は起きなかったと思うのですが……」


 ミアは生きていた。良かった、あの時俺はミアが殺されてしまったと思って、目の前も何も見えなくなってた。本当に良かった……




 俺達が今いる場所、それは北の大地へと向かう先の休憩所の一つだ。部屋が三つある、少し大きめの木造の建物。俺はミアが眠る部屋へ案内してもらい様子を見ることにした。

 苦しむ様子もなく、穏やかに眠るミアだが、意識だけは取り戻さない。綺麗な銀色の髪も、あの時バッサリ斬り捨てられている……


 俺はまた、ミアを守れなかった。俺の力じゃ、この先ミアを守ることは……


 すると、

「何者だ!」と、外からガラントの声が聞こえてくる。俺は慌てて外へ出る。ガラントは光り輝く槍を構え、目の前に立ちはだかる三人と対峙していた。


 龍に跨る大男、同じく龍に跨るやけに艶っぽい女と、ヘンテコな鳥に乗った女の子…?

 何者だ、コイツら。なんとなくだが、雰囲気でわからなくもない、この三人は魔族だ。


 するとその内の一人、大男が口を開く。


「ヴィネ…四魔人将だ。人魔不可侵協定のことがあるが、今は緊急事態と踏んでこうして人間の前に姿を現した。率直に述べよう。

 現在、魔神と化したフールは北のラピスラズリで力を増幅させている。まだ魔神として完全なる進化は遂げていないのだろう。」


 あ、あれで完全じゃない……?


「奴を討つには今しかない。……こちらの不手際でこのような事になり勝手は承知だ。しかしここは世界の為、一時手を取り合えないだろうか?」


 魔人達はそう言って深々とガラントに頭を下げる。ガラントは構えていた槍はそのままで、ヴィネに言った。


「お前達が裏切らない証拠は……?」


「……すまない。それはない。」


「ち……俺様は魔族なんぞ信用はせん。しかし今の状況を打開するには共同戦線もやむを得ないということか。俺様はここで断言してやる。

 この闘いが終わったら、お前達魔族を安全に魔界へ帰してやると約束しよう。お前達が、裏切らないと約束すれば、な。」


 ガラントは槍をしまい、目の前の三人に言った。この男、かなり肝がすわった男だ。そして馬鹿正直なんだな。それを利用して叛逆に備える奴隷を集めさせられていたのかもな……知らないうちに。

 魔人達は顔を見合わせて頷き、


「わかった。感謝する……約束しよう。我々魔族は魔神フールを倒した後、再び人魔不可侵を守ることを。」


「よし、決まりだ。なら、話は早い。俺様達は軍を率いてラピスラズリへ進軍する。」



 魔人達は三人で闘うと言って、空へ消えていった。ガラントは俺に協力を要請する。勿論俺は、その協力を快諾した。

 魔神フールを何とかしないと、ゴッドゲームどころの騒ぎじゃなくなる。この世界ごと破滅に追いやられてしまうだろう。

 ミアは目を覚まさない。なら、俺だけでもやるしかない。



 こうして俺達は、北の果て、ラピスラズリへ向かう事となった。人間と魔族の共同戦線で、魔神と化したフールを討つ為に。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る