#5 道化師と魔王の娘



 オレ達は王都に到着した。国の首都だけあってかなり広いな。居心地も良さそうだし少しの間はここにいるか。

 馬鹿妖精もいつになくテンションが高いし。


「ネロさま! さ、さ、早速スイーツを! 食べたいんですの!」


 あー、鬱陶しいな……


「勝手にしろ。どうせ場所は検索済みなんだろーが。」


「勿論ですの! ふんふふ~ん♪」


 ち、一丁前にケツ振りやがって。仕方ねーから付き合ってやるか。



 ……


 スイーツ店には行列が出来てやがった。


 待つ事二時間、オレのイライラは頂点に達していた。だというのにこの妖精と来たら……


「やっとですの! 二時間くらい何て事ないんですの! さ、ネロさまっ!」


 お前はオレの肩で座ってたからな。

 調子のいいやつが。そのテンションの所為でオレの調子が狂ってきちまう。


 オレ達は店員に案内された窓際の席に座る。周りには女子しかいねぇ……クソが、来るんじゃなかったぜ……これじゃオレがスイーツ男子みてーじゃねーかよ! チーノは小さいから側から見れば一人でスイーツ食いに来た猛者だぞ……


 そんな事を考えてるとメイド服の店員がオレ達の席に。まだ呼んでないぞ……?


「季節のパンケーキ、フルーツ盛り盛りアレキサンドライトタワーパフェにレアチーズケーキお願いしますの! お飲み物は勿論カプチーノですの、チーノだけに! あ、ネロさまはどうしますか?」


 コイツが呼んだようだな。


「アイスコーヒー、ブラックで。」


「ネロさまはそれだけでいいんですの?」


「あぁん? お前こそ今の一人で食う気かっての……少し分けろボケ。」


「はいですの!」


 な……店員が笑ってやがる……はぁ……



 ……



「満腹ですの~、満足ですの~!」


 追加に追加を重ねスイーツを堪能した底なしのチーノはやっと満足したようだ。お陰でオレは腹がタプタプでおまけに調子も悪い。

 コーヒーの飲みすぎだな……クソが……


「気が済んだか。なら宿を探すぞ。」


 オレ達はその後この王都で一ヶ月ほどを過ごした。魔物を倒す訳でもなく、プレイヤーを見つけてどうこうする訳でもなく、ただ時間を過ごす。


 ゴッドゲームが終わらないのが何故なのか、いまだに謎のままだ。何かヒントがあれば……魔王は倒したんだ。だが終わらない、つまり、ルシュガルの奴が死んだその瞬間に何らかの現象が起きた?


 その何らかで魔王の称号を失った? ここまで来たら倒したルシュガルが魔王ではなくなったとしか考えられん……なら、誰が魔王なんだ?


 そんな事を考える日々が続き無駄に時間だけが過ぎていきやがる。


 そんなある日だった。

 王都の近郊にあるっていう奴隷市場で事件が起きる。どうやら何者かが盗みに入ったようだ。


 急ぎ足の騎士が言ってやがった。

 馬鹿な事をする奴がいるんだな。奴隷なんざ盗んでどーするつもりなんだか。

 まぁ、オレには関係ねー事、か。


 そろそろ王都を出るか。ここは物価が高い。あまり長居はしてられねーか。

 二日、そうだな、二日後には出るか。それまでは宿で死ぬほど寝る。


「ネロさま?」


「黙れ、オレは一日中寝たい。」


「もう……ネロさま……チーノも寝ますの。」



 ……


 そして王都を発つ時が来た。オレは出来るだけの食材と生活必需品を買ってズボンのポケットに収納した。

 持ち物は全てポケットに入る。流石はゲームってか。

 オレとチーノが王都を出ようとした時、見覚えのある顔がオレの視界に映り込んだ。


「ネロさま! あの子は!」


「あー……魔王の娘、だな。」


「少し様子がおかしいですの!」


 チーノはポニーテールを揺らしながら忙しなく飛び回り言った。


「あれは……ピエロじゃねーか。」


 見た感じ……ピエロに連れ去られた感じだな。あの白いのは何をしてやがる。まさかあのピエロにやられたか?

 いや、アイツは割と強かったよな。ピエロに負けるほど弱くはない。つまりは、


「ネロさま?」


 白いのと別行動をしているうちにピエロが拐った、と考えるのが妥当か。あのクロピエロの奴、魔王の娘に用があったみたいだからな。


「あの……ネロ、さま?」


 まぁ、オレには関係ない。魔王の娘がどうなろうが関係……


「ネロさま! 二人が街の外に! 魔王の娘さん、凄い抵抗しているように見えたんですの。」


「それがどーした。」


「……ネロさま……」


「なんだ、何が言いたい。」


「チーノは……ネロさまに付いていきますの。」


 ち、ウジウジしやがって。答えになってねーだろうが……クソが。

 何でオレが……


「……おい、チーノ。……追うぞ。」


「……へ?」


「追いかけるぞって言ってんだろが。」


「は、はいですの! ネロさま、魔王の娘さんを助けてあげるんですの?」


「助ける? 違うな、あのピエロの好きにだけはさせたくねーと思っただけだ。魔王の娘を奪って、そのまま魔界にでも観光と洒落込むか。」


「素直じゃないですの。魔王の娘さんを助けて魔界に連れて帰ってあげるんですの。ネロさまは優しいから……」


「それ以上言ったら捻り潰すぞ?」


「す、すみません……ですの、ふふっ!」


 何を笑ってやがる。コイツだけは手に負えないぜ。いちいち的を射やがって。オレの何を知っててそこまで自信満々に……


 気に病んでる訳じゃねー、


 償いたい訳でもねー、


 オレはピエロが気に食わないだけだ。魔界に行けば本物の魔王だっていやがるかも知れねー……

 その為に魔王の娘を利用する。それだけの事。


 ……


 それだけの事、だった。



 ……

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