#4 ネロvsルシュガル
胡散臭いピエロに魔王の居場所を吐かせたオレは魔王と正面から対峙した。
ルシュガルの奴は、オレ達が何者かを知っているような口ぶりだ。
オレは御構い無しに無数の魔法陣を展開した。さっき作ったばかりのチートスキルだ。自動迎撃、自動防御、勿論マニュアル操作も可能、その上いくら撃ってもMPの枯渇すらしない。
正直このスキルだけで倒せるだろう。
「……どうしても、ここで死にたいか。お気に入りの場所だったのだが……ミアレア……この場所が汚れてしまう事を許してくれ。」
ルシュガルはしがみつく娘の手をそっと離して頭に馬鹿でかい手のひらを置いた。魔王の娘はルシュガルを見上げている。
「……パパ様?」
「ミアレア。」
ルシュガルはミアレアと呼ばれる魔王の娘の額に指を押し当てる。
いったい何をしてやがる……?
するとすぐに魔王は立ち上がりオレを睨みつけた。恐ろしい圧がオレに押し寄せてくるのがわかる。これが……魔王の力か。……だが、
放つ。
漆黒の粒子砲はあっけなく魔王の肩を貫いた。傷口から真っ赤な鮮血が噴き出し、貫いた粒子砲は後方の木を次々と薙ぎ倒しては消えた。
「パパ様っ!?」
放つ、放つ! 二発目、三発目とオレは粒子砲を放った。魔王の腹、左脚を順に貫いて、再び後ろの木を薙ぎ倒す。
さぞかし驚いたことだろうな。だが、これがチートってやつだ。チートで倒せないゲームの敵はいないんだよ……お前がいくら強くても。
飛び散る血が周囲を真っ赤に染め上げる。魔王の娘は尻もちをついて腰を抜かしたのか立ち上がることも出来ないようだ。
だが、その娘には血の一滴もかかりはしない。何故ならコイツは……自分よりも娘にバリアを張りやがったからだ。
「ぐがぁっ……」
ルシュガルは膝をついた。背負っていた籠も無惨に大破してキノコが地面に散らかっている。そしてそのキノコはすぐに真っ赤に染まる。
凄いな……オレの力なのかこれは……魔王でこの様かよ……やれる……殺れる!
撃って撃って撃ちまくった。全方位から囲むようにして間髪入れず粒子砲を放ち続けてやる。
なす術なく全身を撃ち抜かれたルシュガルのHPゲージが0になった。
……終わりだな。後はトドメを……
「やめるし! もう……やめてぇっ!!」
バリアが解除されたか。魔王の娘がオレの前で両手を広げている。邪魔だな。殺すか……?
「ミア……レア……っ……だ、大丈夫だ……パパは……魔王だから……な」
「パパ様!」
「ミアレア……パパには奥の手がある……かなら、ず、この神の使徒を始末して……むか……えに行く……だから先に、行っ……待ってろ……」
「パパ様、そんな傷で……でも、そうだし! パパ様にはあの技が! パパ様! 必ず迎えに来るし! 私、待ってるから!」
魔王の娘は疑いのない瞳でルシュガルを見上げていやがる。そんな娘を片手で抱いた魔王は空中に歪みを発生させる。歪みは直径一メートルくらいの穴になる。
「パパを信じて待っててくれたら、好きなもの何でも買ってやろう。約束、だ。」
「うんっ! わかったし!」
魔王ルシュガルは娘をその穴へ放り投げた。穴に吸い込まれていく魔王の娘の表情は一片の曇りもない笑顔だった。
ルシュガルの言葉を信じ切ってやがるのか。全く、おめでたいガキだ。
希望なんて、微塵もねーのに。
「……がはぁっ……ま、たせ……たな……」
「あぁ、思わず欠伸が出たわ……で、その必殺技とやらは出さないのか?」
「そんなものは……ない。いや……もはや使えない……無念だ……お前の力量を測れなかったのが……我の敗因、か……」
魔王ルシュガルは力無く地面に膝を落とした。
「違うな。お前の敗因は娘を守ろうとした事だ。じゃなけりゃ、もうちょっとは長生き出来ただろうな。……結果は同じだが。」
「我も魔王……最後は…魔王らしく散ってみせよう! ゔああぁぁぁぁっ!!」
ルシュガルは拳を握りしめ全ての力を込めるように雄叫びを上げた。そしてその拳を振りかぶってオレを討たんと距離を詰めてきた。
オレは……それを魔法陣で弾き、
そのまとめた魔法陣全てから粒子砲を放った。放たれた極太の粒子砲は魔王ルシュガルを捉えてそのまま後方の見晴らしまで良好にした。
「変な人間ドラマ見せやがって……くそ……」
胸糞悪い……だが、これで帰れる……はず。
……
そう、その筈だったんだ……しかしオレは帰れなかった。それからというもの、眠る度にオレは同じ夢を見るようになった。
魔王の娘に殺される夢だ。何度も、何度もあのガキに殺される。夢の中で何度も、だ。
そしてつい最近、白いのを排除しようと攻撃を仕掛けたが……そこにその娘がいやがった。
何故あの白のプレイヤーと魔王の娘のガキが一緒にいやがったんだ。意味がわからねー。イライラする……その前はユウヒとか言う女も取り逃がすし……チートスキルがあってこの様じゃ笑い者だ。
……
……もう、朝か。
オレは小さな村を出る。無駄に巨乳な妖精チーノと二人で。移動手段は徒歩。
オレは通りすがりの馬車を止め、そのまま馬車を強奪した。少し脅かせば簡単に馬車を差し出してくれやがった。他愛もない、便利な世界だ。
「ネロさま? どこに向かいますの?」
「……殺しも飽きた。少し気晴らしに王都にでも行くか。」
「わぁ! ネロさまっ、王都ですの! ネロさま! チーノは王都のスイーツ店に行きたいんですの!」わくわく!
「あぁん? スイーツだ?」
「そうですの~ん! このチノレットで検索したら王都に有名なスイーツ店があるって! チーノは……チーノはスイーツに目がないですのーー!」
「……おい……」
「だから、だからチーノはネロさまと一緒に……あ……す、すみませんですの。また調子に……」
「スイーツか。たまには糖分補給しねーとな。行くぞ、道案内しやがれ。」
「はう? は、はいですの!」
こうしてオレ達は王都に向かった。
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