#6 ピエロとの接触
オレはただ、ゴッドゲームをクリアして元の世界に帰りたいだけだ。別にあのガキのことはどーだっていい。オレは……アイツの為に……
「ネロさま! あそこに二人が見えるですの!」
チーノの指さす先に目を向けてみると確かにピエロとガキの姿が見えた。北へ向かっている。ガキは抵抗しているみたいだが。
「ネロさま!」
「待て、もう少し人目につかねー場所まで移動してからだ。面倒はごめんだからな。」
オレは慌てるチーノを肩に座らせて二人の後を追う。暫く歩くと人気の無い殺風景な平原まで出た。ここなら人目を気にせずやれそうか。
そう判断したオレは何やら話し込んでいる二人の前に出た。当然ピエロは驚いている。仮面で表情が見えなくとも、その動揺が伝わってきやがる。
『あな、たハ……』
「はっ!? 嘘……っ……この人っ……は、離すし! シ、シロのところに帰るしっ!」
ガキが騒ぎ出したか。しかし何かおかしい。
……何が、おかしい?
「貴方! シロに酷いことをした……っま、またあの時みたいに酷いこと…しに来たの!?」
そう、コイツはオレをもっと前から知ってる筈だ。だというのにコイツはあの白いやつの事しか口に出さねー……最初に攻撃した時もそうだ。
オレが魔王を殺しに来た事には一切触れて来なかった。何故だ?
オレの思考にピエロが割って入ってくる。
『何か御用デ? わたくし、色々と忙しいのデござぃまス。』
ち、やっぱいけ好かねーなコイツ。
『わたくし、こちらのミアレア姫を連れ魔界へ帰らねばなりません故、邪魔はしないデいただきたいのでスが?』
「ちょ、離すし! 私は姫なんかじゃないし!」
ガキがピエロの頭を殴る。ピエロはそれに怒ることなく堪えているようにも見える。
しかし問題はそこじゃない。このガキ、まさか記憶をなくしているのか? すると肩のチーノが小声でオレに「恐らく……そうかと。」と囁いた。
クソ妖精、コイツは俺の心が読めるのか。まぁいい。ピエロが何をしようとしているか知らねーけど、そこのガキに興味が湧いた。
「おい、ガキ!」
「ガ……ガキじゃないし!」
「ガキだろが。……選べ、そのピエロに付いて行くのか、オレに付いて来るのか。」
「どっちも嫌に決まってるし! シロ! シロ~! ……うぅ~離すし! もうっ!」
ガキはピエロの腹をひたすら殴りながら叫ぶ。ピエロは痛みに耐えながら言った。
『ぐホっ……ひ、め……! あなたはま、魔界っの次期っまおぐぁっ……ゲハ……』
ん? このガキが次期魔王? だと?
このピエロ、ルシュガルを始末して自分が魔王になろうって魂胆ではなかったのか。しかしこんなガキに魔王は無理だ。
いや、待て……もしこのままガキが魔王となれば……今度こそゴッドゲームのクリア条件を満たす事が出来るんじゃ……
「離すし離すしはーなーすーし!」
ガキはピエロの腕に噛み付きやがったみたいだ。ピエロは堪らずガキの手を放した。いきなり拘束が解け勢いよく転がる。
で、オレの足元で止まった魔王の娘は涙目でオレを見上げる。
……まさか、死を覚悟したのか……?
「もぅ……駄目、……っ……シロ……」
いや、さすがに殺さねーっての。そんな事を考えてガキを見下ろしているとピエロがほざく。
『姫を返していただきたいのですガ?』
オレは地面で死を覚悟しちまったガキの首根っこを掴みぶら下げ自分の脚で立たせてやる。
ガキはオレを見上げているが、オレはそれを無視してピエロにこう返してやる。
「オレ、お前気に入らねーわ。だからよ、このガキはオレが預かる。大事なクリア条件になってくれるかも知れないしな。」
『な!? や、約束ガ、違いますヨ!?』
「約束だぁ~んなもん破るためにあるんじゃねーかクソピエロが。取り返したいなら力ずくで取り返してみ……ろぁぁっ⁉︎」
——激痛!!!!
クソが!? コイツ噛み付きやがった!?
「勝手に話を進めないし! シロ、助けてシロ~!」
「あーーっシロシロうるせー!! 黙らねーと今すぐここで殺すぞ!」
「……あぅっ……ぅ……」
よし、何とか黙りやがった。とりあえず目の前のクソピエロをボコっとくか。
……
※ワンサイドゲーム中……暫くお待ちください※
……
「さっすがネロさま! 凄いですの~、一瞬ですの! 最強のプレイヤーなんですのよーー!」
地面の砂を舐めるピエロの帽子の周りを飛び回るチーノは偉そうに勝ち誇っている。ガキ、魔王の娘はピエロを瞬殺したオレを心底驚いた表情で見上げては、震える唇で言った。
「……シ、シロだって、これくらい……」
「あぁん? シロってあのサラリーマンか?まぁ、このピエロくらいなら軽く倒すか。チーターのオレに一太刀喰らわしやがったくらいだしな。それは認めてやる。だが、お前はそのシロってやつのところには帰さねー。聞きたいことが……」
「……はぁっ……ゔぁぅ……」
「お、おい……どうしたガキ?」
チーノはタブレットを取り出し状況を確認している。しかし簡易ステータス以外表示不可能らしい。
汗が……こ、これは……傷を負ってる?
この傷が痛む、のか?
「ゔぁぅっ…はぁっ……はぁっ……シロ……」
そう言ってガキは倒れちまいやがった。
「大変なのですわ! ネロさま!」
「ち、世話かけさせやがって……チーノ、ここから近いのは王都か? それとも……」
「この先に旅人用のロッジがありますですの、この地図に表示されている……こ、ここですの!
歩いて数分といった距離ですの!」
激しく羽を回転させて落ち着きのないポニーテール妖精がタブレットの画面をオレに見せる。
仕方ない、とりあえずそのロッジに向かってみるか。熱が凄いことになってやがるな。とりあえずは横にしてやるか。
何でオレがこんなガキのお守り……
……ガキの……お守り? クソ……クソクソくそがっ! こうしている間にも……
「……ネロ、さま?」
「ク……悪い。そのロッジに案内しろ。ガキを楽な姿勢にしねーと。」
「はいっ! 勿論ですの! ふふっ」
「な、何を笑ってやがる……」
オレは倒れたガキを背に言った。
「いえいえ、何でもありませんのよ? ふふっ」
ったく……コイツには敵わねーな。
勘違いするなよ魔王の娘……これはお前に対する償いとか、そんなんじゃねー……
ゴッドゲームクリアの為だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます