#3 苦悩のネロ




「ネロさま……?」


「……。」


「ネロさま? どうかしましたの?」


 オレの視界にチラホラと妖精が映り込む。オレはそんな妖精、チーノの言葉を無視して考えに耽っていた。落ち着きのないチーノはそんなオレの肩に乗り黙った。


 黙った、のだが、数秒でまた口を開く。


「ネロさま? まだあの娘の事を?」


「はぁ?」


 思わず声を上げた。それに驚いたチーノはオレの肩から転げ落ちてしまった。

 立ち上がったチーノはオレを見上げ、


「ネロさま、あの白のプレイヤーと闘ってから少しおかしいですの。ネロさま、もしかしてあの魔王の娘に引け目を感じて……」


「だ、黙れっ……!」


「だ、黙りませんのよ! ネロさまは魔王の娘に引け目を感じているから……無意味な破壊行動を取っているだけじゃ……」


「黙らねーと殺すぞ。」


「……チーノをっ……こ、ここ殺したら……ネロさまだって、ただでは済まないのですわ!」


「ち、やけに突っ掛かるじゃねーか。まぁいい……女に守られてるあのサラリーマンみたいなやつが滑稽でやる気が失せただけだ。

 次は殺す。あの娘も、ついでに、な。」


 チーノは難しい表情でオレを見上げる。しかしオレは目を合わさない。

 オレは今、小さな村の宿にいる。近くには港町があるが、あそこには白いのがいるし面倒だ。仕方なく辺鄙な村で寝ているだけだ。


 オレは椅子に腰掛けて目を閉じる。すると、チーノの声がする。


「ネロさま、ベッドで寝ないのですの?」


「ベッドは……お前が使え。オレはここでいい。」


 目を開けずにオレが言うと、太もも辺りにチーノが着地した感覚がした。

 変なやつだ。ベッドを使えと言っているのによ。何が楽しくてオレの脚で……


 ……


 ち、寒いな。妖精は……震えてんじゃねーか。この馬鹿が。脳みそに行く筈の栄養を全部胸に取られてるに違いねーな。


 オレはチーノを摘みベッドに寝かせた。仕方ないから毛布もかけてやるか。

 で、また椅子に腰掛けて、今度こそ眠った。


 ……


 ……


 ……



「……ロ、……ま?」



 暗がりでオレの顔を覗き込むチーノがぼんやりと見える。……まだ夜、か……


「ネロさま? 大丈夫ですの? うなされていましたのよ?」


「うなされてた、だと?」


 また、あの夢か。くそっ……


「ネロさま、あの……ありがとうですの。」


「……何がだ?」


「チーノをベッドに寝かせてくれたみたいで。チーノは優しいネロさまが大好きですの。」


 おめでたい脳みそしてるな、コイツ。オレのどこが優しいんだ。馬鹿じゃないのか?

 すると、チーノはオレの肩に乗り小さな身体でオレの左頬を抱いた。ただ、くっついただけだが。

 そして偉そうに言った。


「大丈夫ですの。ネロさまの傷は、チーノが癒しますの。だから、今は眠って。何かいい夢を見てくださいですの。」

「……だまっ」

「黙らないですの。チーノは……ネロさまの味方ですの。ネロさまの痛み、チーノにも伝わりますの。だから今は……チーノの胸で……」


 ち、何がチーノの胸だ。はぁ、こうなったらコイツは止まらないか。

 やりたいようにさせといてやる。

 ……オレはもう少し寝る。





 あの時、オレは確かに魔王を倒した。なのにゴッドゲームは続いている……

 アイツは魔王じゃなかった、のか? 違う、チーノのタブレットにも確かに表示されていた。奴が魔王ルシュガルだった。

 ガイドブックに載っていた名前とも一致していたんだ。それなのに……何故だ?



 思い出せ……あの時何かを見過ごした?



 ……ピエロ……?



 あの、ガキ……?



 …………あの時、オレは……

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