#2 魔王ルシュガル=ザンダリオン
『こ、こちらでス……クク……』
「次、その気持ち悪い笑い方をしたらその場で殺すぞ、ピエロが。お前は黙って案内しとけ。オレが魔王を殺した後は勝手にしろ。」
『言われなくてモ。』
胡散臭いピエロが。オレは前を歩くピエロに指先を突き付けて後を追う。妙な真似をしやがったら即刻あの世行きにする為に。
今のオレならコイツの頭を一撃で撃ち抜ける。
オレの肩に座っている無駄に乳のデカい褐色妖精はやけに勝ち誇った顔をしているが、オレはそれを完全に無視する。
「ネロさま、格好いいですの~!」
あれだけオレにコケにされてるのに……コイツは馬鹿だな。間違いなく馬鹿だ。
「ふふっ、ネロさまっ!」
何を笑ってんだ、鬱陶しい。
「チーノは、あの……チーノは何があってもネロさまの味方ですの! それだけは憶えていてほしいのですわ!」
そんなチーノを再び完全に無視しながらオレは先を急いだ。
暫く歩くと道幅が一気に狭くなりやがった。このピエロ、信用出来るのか……?
『御心配にハ及びませんヨ? ほら、この先のエリアで魔王とその娘が呑気にキノコ狩りを愉しんでおられますヨ。』
茂みから覗いてみると、確かに誰かいる。銀色の髪のチビと、同じ髪の色の大男がいやがる。
あのデカいのが魔王、か?
「おい、妖精、ボケっとしてねーでさっさとアイツが魔王か確かめろ! ガイドだろが。」
「はうっ!? は、はいですのっ!」
チーノは無駄にデカい胸を揺らしながら自分の身体より大きなタブレットをどこからか取り出して何やら調べはじめた。
少しするとチーノはドヤ顔でオレの前でパタつきながら口を開く。
「ネロさま! あの方は間違いなく魔王ですの! やりましたですの~、これでネロさまがゴッドゲームを制覇するのは確定ですの!
短い時間……というかあっという間に終わってしまいましたが……チーノはネロさまとい、」
「静かにしろ馬鹿! ……魔王に気付かれるだろーが!」
「す、すみませんですの……」しゅん……
『ゴッドゲーム、とハ?』
「お前には関係ない。」
『まぁ、宜しいでしょウ。あと、お願いがありましテ……魔王の娘、彼女は殺さないでいてほしいのですヨ。』
「ああぁん? 娘ってあのチビか? いいぜ、あんなの殺してもつまらんし、ガキに用もねーわ。あのガキはお前の好きにしろ。」
『グフフ……ありがとうございまス……』
ち……つくづくウザいなコイツは……まぁいい。とっととコイツを殺して、元の世界に帰る。
オレにはこんな事をしている時間はない。早く帰って……あ……
「ネロさま?」
顔を覗き込むチーノの所為で思考が一瞬停止した。まぁいい。
「ここからはお前の勝手にしろ。オレは魔王を殺して帰る。じゃあな、ピエロ。」
『……』
ピエロは何も言わずペコリと頭を下げて姿を消しちまった。あんな奴の事はどうでもいい。
オレは正面から魔王の前に出た。不意撃ちで終わらせても良かったが、この際だから派手に暴れておくのも一興だろう。折角来たんだ、ピエロとのつまらん戦闘だけで帰るのは味気ないしな。
オレ達に気付いた魔王らしき奴は背中に背負った籠にキノコを入れて落ち着いた声色で言った。
「ほう、これは。こんな森の奥の奥で人と出くわすとは。君もキノコを? ここのキノコは肉厚で美味なんでね、たまに取りに来るのだよ。
今回は娘がどうしてもキノコ汁を食べたいって言ってね、ははっ、愛娘に頼まれてしまうと、ついつい妻に怒られてでも連れてってやりたくてね。」
なんだ、コイツは……オーラゼロだな。普通の子持ちのオッサンじゃねーか。背中に籠まで背負って、それでも魔王なのか!?
そんな事を考えてチーノを見ると「間違いないですの!」と胸を張った。
オレはオッサンに言った。
「少し話をしたい。キノコはその後だ。……娘はそこに置いて、こっちで話さないか?」
オレは……ガキの前でコイツを殺すのを躊躇っているのか?
オレの言葉にオッサンはこう返す。
「それは、何故、かね?」
確実に目付きが変わったな。それが本性か、伊達にラスボスじゃねーな。正直、その眼光だけで身体がビリビリしやがるぜ……くくっ、楽しいな。
……これでお終いなのが惜しいくらいに、
「パパ様? この人誰? 知ってる人? 私は知らないし、こんな人、コイツ人間?」
魔王の娘か。邪魔だな、ピエロはコイツを生かしておけと言ってたな。仕方ないか、
「……オレは……」
オレが言葉を発したその時、魔王ルシュガルはそれを遮るように言った。
「……神の使者、かね?」
魔王ルシュガル=ザンダリオン、奴の目は完全に敵意に満ちていた。
オレが神の使者? まさか、コイツはオレ達が来る事を知っていたのか?
「今は娘との大事な時間なんだが……引いてくれる気はないかね? 帰ってキノコを……」
「引けだぁ? ふざけるなよオッサン。オレは帰らなきゃならねー。御託は終わりだ、はっきり言ってやる。オレはお前を殺しに来た。」
言い放った言葉に身体を震わせるガキの視線から目を逸らし、オレは無数の魔法陣を展開した。
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