#40 異形



 辺りを見回してみるとゴツゴツしたいかにも強そうな剣士を筆頭に弓を背負った男、二丁のライフルを背中に背負う髪の短い女の人、その他個性的なギルドのメンバーが揃っている。


 ここ、王都直属のギルド協会本部の会議室には各ギルドの代表者が集まっている。

 集まった理由は知っての通り、最近頻繁に現れる魔物の掃討を国が依頼した為だ。この国のギルドとは、基本的に国の申請を通した団体を指す。軍よりも小回りの効く小数精鋭の部隊として扱われる事が多く、主に犯罪集団の鎮圧や魔物の掃討で活躍しているらしい。


 勿論、国の申請を受けずにギルドを立ち上げる者もいる。そちらは俺達の世界でいう個人事業者みたいなものらしい。


 俺はそんな会議室に招かれたのだ。なんというか、強者達の圧が凄い。


「以前、モーシッシ大森林に出没したという、竜種の亜種、邪龍アジ=ダハーカを討伐した者がいると、この前話したと思いますが、彼がその白き勇者、シロです。

 今回、魔物討伐に同行していただく事となりましたので、この場を借りて紹介を。」


 うわ、めちゃくちゃハードル上がった。


 とりあえず俺は立ち上がり軽く頭を下げて自己紹介をした。会議室内がやけに騒つく。

 口々に何か言っているが、緊張で正直ほとんど聞き取れていない。


 今回の任務は王都から馬車で小一時間の位置にある渓谷だ。そこに架かる橋を魔物の群れが占拠してしまったようだ。

 その魔物を討伐するのが俺達の仕事だ。


 作戦は単純、橋を包囲して一気に魔物の群れを駆逐するだけだ。つまりは力押しだ。

 人数は俺達三人プラス一の四人と、剣士のギルドメンバー三人、後は会議室にいる弓の使い手とライフルを背負った女の人で九人。


 報酬は山分けと決まった。するとゴツゴツした剣士が俺の背中を叩いては言った。


「頼りにしてるぜ、白の勇者様。それじゃ、後でまた会おう。俺は準備があるからな。」


 叩かれた背中の痛みを堪えながら、俺は返事を返す。


「こ、こちらこそ……よろしく。」


 そんな俺を見てルーファスさんはにこやかな笑顔を見せた。いや、痛かったんだからね?


 ルーファスの耳にぶら下がっている月を模った耳飾りが揺れて、乾いた音が鳴る。全く、いちいちイケメンな皇子様だな。



 ……


 俺は待たせておいたミアとミルク、フリルと合流して街の東口へ向かった。先程のギルドメンバー達は既に到着していて馬車の手入れをしていた。

 妖精と女子供を連れてやって来た俺を見てメンバー達は驚いた表情をする。


 そりゃそうだわな。


「こう見えてもそれなりに闘える、問題ない。」


「そ、そうか。お嬢ちゃん、くれぐれも気をつけてくれよな? 人の身まで守ってる余裕はないかも知れねーからよ。」

 剣士は白い歯をキラリと光らせて言った。


「だ、大丈夫だし!?」


 これには流石のミアも引いたか。

 何はともあれ挨拶は済んだ。因みに俺は昨日の内にフリルもパーティーに組み込んだのだが、こちらは戦闘には向かないようだ。

 ちょっとした炎の玉を撃てるくらいで威力は最低ランク。フリルはミアの移動速度補正として活躍してもらう事にしよう。


 フリルで素早く移動しながら、『めておすとらいくぅ』で攻撃。今のところ、これしかパターンはないがな。ミアはMPだけは底なしに多い。ひらすら連発させてればそれなりに当たるだろう。


「俺達はこれで後をついて行く。道案内を頼めるかな?」


 俺はいつものようにビジネスバッグから軽バンを取り出し地面にドンと置いた。勢いで少し地面を跳ねる軽バンを見たメンバー達は目を丸くする。


 こうして俺達は目的地である東の渓谷、

 【メタモルフォーゼ渓谷】に向け馬車と軽バンを走らせるのだった。




 ……


 メタモルフォーゼ渓谷には難なく到着する事が出来た。ルーファスさんの言っていた通り、小一時間ほどのドライブだった。

 そこに架かるメタモル大橋にはウヨウヨと魔物が徘徊していて、ありゃ通れそうもない。


 ブヒンクスみたいな一般的なやつに混ざって少し強そうなやつもいる。

 作戦は変わらず、力押しだ。俺達はそれぞれの配置に着きカウントダウンを開始した。


「3、2、1、……いきます!」


 ライフルの女性が遠距離から一匹のブヒンクスを撃ち抜いた! それをゴーサインに弓を放つ青年。

 弓は空中で分散しては魔物の群れに降り注ぐ! 思った以上に皆んな凄い!


「ゔおおおお! 俺達も負けてられねー! 行くぞテメーら!」


 ゴツゴツ剣士の兄貴は取り巻きのゴツゴツ剣士二人を連れて魔物の群れに突撃していく!

 三人共凄い動きで敵の攻撃をかわしながら次々と魔物を蹴散らしていく。特にあのリーダーは身の丈程の大剣をいとも簡単に振り回し敵を叩き斬っていく! その姿に少し圧倒された俺だったが、これは負けてはいられない。


 メニューを開き、大天使の翼を発動。ミルクを胸ポケットにしまい翼を広げる。

 そしてビジネスバッグからアダマスブレードを取り出し漆黒の鞘を抜く。


「行くぞミルク!」

「はいっシロさま!」


 俺は翼を広げ橋の上に群がる魔物達との距離を一気に詰めては斬撃モードで斬り伏せる! すぐさま他の魔物が攻撃を仕掛けてくるが回避してはブレードを伸ばし貫く。そしてそのまま変形機能を使って周りの魔物もろとも薙ぎ払った。


「やるじゃねーか、勇者様よ!」


 ゴツゴツ剣士はご満悦だ。


「まだまだ、こんなものじゃない! フォトン!」


 放った光のレーザービームは一直線に伸びては後方の敵まで殲滅する。

 修行の成果、実感出来るぞ! 闘い方が板に付いてきたかもな!


 ふとミア達を確認すると空中からひたすらメテオストライクを撃っては回避、MP回復薬を飲む、を繰り返している。これは思った以上にフリルが便利だな。空中ならダメージは殆ど負わずに済みそうだし、俺としても安心だ。


 まぁ、ミアが必死過ぎるけどな……


「め、めめ、めてておすとととらいくぅっ! ……きゃっ、お、落ちる落ちるしっ!」


「だいじょぶだいじょぶ~ミアお姉ちゃん怖がりなんだから~いきますよ~!」


 フリル、少し手加減してやってくれ。ミアレア様は高所恐怖症なんですよ。しかも既に渓谷で高い上に飛んでるから余計ですよ。

 って、言ってもわかってくれないよな。


 頑張れミア。俺にはそれしか言えん。


 しかしどれだけ倒しても中々数が減らない。これはかなりの持久戦になりそうだな。遠距離からの援護にも弾の関係で限度もあるし、剣士の兄貴達もさっきよりは勢いが衰えている。

 顔には出さないが動きを見ていればわかる。


 ここは踏ん張りどころだ。


「シロさまっ後ろ!」


「うおぉりゃぁっ!」


 ミルクの索敵能力も中々だ。伊達にガイド妖精ではないな。俺は残りMPをフルに使い切り周囲にフォトンを放った。

 そしてその隙にMP回復薬を一気飲みして味方全体にスキル【リジェネレーション】を施す。


 これでダメージを負っていた剣士達も体勢を整えられるだろう。

 そんな時だった。フリルが橋に着地してペシャンコに項垂れてしまった。どうやら体力切れだ。


「フリル、良く頑張ったな。下がってていいぞ。ミアはまだいけそうか?」


「ふぇ、パパ〜、後はお願いします~」


「私は大丈夫だし! シロ、一気に決めちゃおう!」


 ミアはメテオストライクの詠唱を開始する。俺はそんなミアの前に立ってライトシールドを発動させる。残りの魔物は目の前の数十匹か。

 ミアの一撃でやれそうかな?


「めておすとらいくぅ!」


 ミアが放った可愛らしいメテオ達が魔物達に降り注ぐ! 見た目と違って良いダメージだ。しかし、一匹だけ撃ち漏らしたようだな。

 俺がその残りに攻撃を仕掛けようとした時、俺の頭上をピョンと跳ねていくミアの姿が見えた。ミアは撃ち漏らした敵の懐に入りトドメの一撃とばかりに拳を振りかぶった。


 しかし、


「えっ!?」


 瀕死だった魔物の背中が裂け、そこから腕が生えミアの振り上げた腕を掴む。腕は空高く伸び、そのままミアを地面に叩きつけた!


「ゔぁぅっ!」


 ミアの小さな身体が橋の上で大きく跳ねる。一撃で八割方のHPが削られる。


「ミア! くそったれがぁっ!」


 俺は異形と化した魔物の懐に入り伸びた腕を斬り捨てる。そのまま胴体を何度も斬りつけ最後にフォトンで跡形もなく吹き飛ばした。

 頭上のゲージは消え、戦闘モードが終了。


 俺は慌ててミアの元へ走り、すぐにメガヒールを発動した。ギルドメンバー達も駆けつけてミアを安全な場所へ移動させてくれた。


「ミア、大丈夫か!」


「ゔっ……痛し……うっ……」


「あれほど前に出るなって……少し楽な体勢になってろ。」


「ごめ、な、さ……」


 軽バンの後部座席に寝かせてやると安心したのか気を失ってしまったようだ。


 やれやれ、今のは流石に冷や汗かいた。


 ミアを心配そうに見つめるミルクとフリルは車に待たせておいて、俺は魔物の残党がいないか確認に出る事にした。


 ……さっきのアレは何だったんだ……?

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