#41 守る理由


 今回の討伐任務は無事達成する事が出来た。獲得EXPも申し分なく、ミアのLVは一気に30に到達した。

 Gも大量に獲得出来た上にルーファスさんからの報酬も弾んだ。これにより懐事情も当面は問題なくなった。任務に参加した事により得るものはあった。しかし、


 ミアの容態は芳しくない。回復魔法でHPは回復している筈なのだが。

 身体からは凄い量の汗が噴き出している。今は宿のベッドに横になって少しばかり落ち着いた様子だが、どうもよろしくない。


「シロさま、この傷……」


「あぁ、わかってる。」


 いくら回復しても塞がらない傷が一つ存在する。多分、あの最後の腕に掴まれた時に負った傷だ。

 フェアリーフェザーを使っても駄目だ。


「ミアお姉ちゃん……フ、フリルがもうちょっと頑張って飛んでれば……」


「フリルのせいじゃない。気にするな。」


 俺はフリルの頭をポンと叩き抱き上げる。そして隣のベッドに寝かせて毛布をかけた。


「……パパ?」


「…今日は早めに寝ること。ミルク、フリルと一緒に寝てやってくれ。」


 俺はフワフワとその辺を飛んでいたミルクを摘み取りフリルの枕元に降ろした。

 ミルクは羽をパタッと羽ばたかせる。


「はい、シロさまも無理はしないで下さいね?」


「おう、おやすみ。」



 ……


 ミアは眠ったか。ミルクとフリルと寝たみたいだな。


 あの後、すぐにルーファスさんが駆け付けてくれて魔物の死骸の処理を軍で請け負ってくれたのは助かった。あの時現れた魔物の残党を蹴散らしたルーファスさんの剣技、今でも脳裏に浮かぶ。あの剣、黄金に輝くあの剣は多分だけどかなりの代物だ。

 助かった、ほんとに。

 こうしてミアを安全な場所に寝かせてやるのが少しでも早くなったからな。


 とはいえ迂闊だった。俺が最後の一匹を先に倒していればこんな事にはならなかった筈だ。

 俺が守るって約束したのに、全然駄目だな。

 今のままじゃミアを魔王の元まで連れてくなんて到底無理だ。


              「…シロ?」


「ミア、目が覚めたか。」


「うん……痛っ」


「おい、無理はするな。傷がまだ完全じゃないんだから。」


 起き上がろうとするミアの背中を支えてやると、小さな身体を起こし暗い部屋を見回す。俯いたミアは俺と目を合わす事なく唇を震わせている。


「……シロは……」


「ん?」


「シロは、なんでいつも私を助けてくれるの? なんでそんなに必死に私を守ってくれるの?」


 細い身体をキュッと縮めては三角座りになったミアは、か細い声で俺に問いかける。


「何故って……」


「シロと私って、本当は知り合いだった、とか? 記憶なくなる前は、だ、大事な人だったとか……私、大事な何かを……忘れちゃってるんじゃないかと思ったりしたりするし……」


 ミア、何を言ってるんだ?


「……ねぇ、シロ?」


 ミアは頬を赤らめ俺を真っ直ぐに見つめる。その垂れ目がちな瞳はキラキラと潤んでいた。


「……シロ……シロは、私の何? こ、こ……」


「こ?」9


「……はぁ……もう! バカ!」


 ——激痛!


「痛っ、噛むなって!」


「うるさし! だから、こ、恋人、だったりしたのかな? とか、お、おもっ、たり?」


 ……


 記憶がなくて混乱しているんだな。

 ここはちゃんと誤解を解いてやらないと。


「俺とミアはそんな間柄じゃないさ。ただ、迷子のお前を一時的に保護しているだけだ。」


「……そ、そうなんだ。」


 え? なんで俯くんだよ? 俺、何か変なこと言ったかな?


「寝るし。」


「お、おいミア?」

       「無理。」


「無理って、何も言ってない。」


「もぉ~うるさしウザし! 寝るって言ったら寝るんだし! バカシロ!

 ……バカみたいだし、ふん……」



 ミアは散々俺を殴って向こうを向いてしまった。よくわからないが、怒らせてしまったみたいだ。

 いつもの事だから問題ないか。


 ルーファスさんから明日の仕事は聞いてはいるが、どうしたものか。


 暫くするとミアは再び眠りについた。そろそろ俺も寝るとしよう。

 明日、ミアの身体が万全じゃなかったら俺とミルクだけで討伐任務に出るか。ここなら安全だろうし、フリルもいるしな。





「シロのバカ……むにゃ……」




「寝言か。世話のやける姫様だな。」



 ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る