#39 ルーファスの依頼



 俺は久々に、ほんと久々にベッドで横になる。家のベッドとは比べ物にならないくらいフカフカしている。俺が目を閉じた、その時、

 背中に触れる柔らかな存在に気付いた。


 えっと……


 それは俺の背中にピタリとくっついて小さくなった。フリル? 違う、これはミアだな。

 やけに柔らかいアレが俺の背中に押し付けられているから。


「ミア?」

「シャーーーッ!」


 うわっ、威嚇された……!?


「……ど、どうした?」


「いいから、黙ってるし!」


 俺は言われた通り何も言わずに部屋の隅をじっと見つめて時間を潰す。暫くそうしていると、ミアは静かに寝息をたてる。

 どうやら眠ったみたいだな。


 ……


 俺も眠るか。


         「……パパ、さま……」


 ……寝言、か? パパ様ね。魔王も娘からしたらただの親父って事だな。

 さぞかし可愛がられてたんだろう。夢の中では記憶を取り戻して幸せに過ごしてるのかも知れないな。……幸せに、そうだよ。

 それがミアにとって一番幸せな筈。


           「……シロの……ばか」


 ……ミアを魔王に返した後、俺はどうしようか。ゴッドゲームをクリアしようとするプレイヤーの説得が最優先だろうが。

 ソラなら協力してくれるかも知れない。それにユウヒちゃんも話せば何とかなるだろう。

 問題はネロだよ。あのチート野郎だ。


          「おなかすいた……むにゃ」


 夢の中でも空腹か。ミアらしいな。

 魔王がいて俺がいて、お腹空いたって、どんな夢見てんだか。


 俺は静かに振り返りミアの寝顔を少しばかり拝見させてもらった。

 その寝顔を見ていると、考えるのがバカらしく感じた俺は、ミアの毛布をかけ直してやり一人椅子に腰掛ける。結局、ベッドは占拠されたか。


 ミルクは……あぁ、フリルに半分喰われてるが問題なく眠っているようだ。あの状況で起きないってのが信じられないくらいだよ。


 今度こそ眠ろう。今日は少し疲れた。




 ……


 翌朝、俺が目を覚ますと毛布がかけられていた。そして簡易キッチンから何やら美味そうな匂いがする。ボヤけた視界で目を向けると、そこにはぴちぴちエプロンに身を包むミアの姿があった。


「あ、起きたし。朝ごはん、もう少しで出来るから顔洗って出直すし。」


「使い方が間違ってるし。」


 思わず口癖がうつってしまった。ミアはそんな俺を見て少し膨れたが、すぐに料理を再開する。


「パパ、おはよー! 遊ぼう!」


「おはようフリル。朝から元気だな。」


「シロさまシロさまっ!? な、な、何故か下半身がベトベトなんですがっ、も、もしかしてシロさまが悪戯をっ!? いやん!」


 忙しなく飛び回りながらミルクがほざく。

 俺はそんなミルクをつまみ取りメニューを開く。で、着せ替えで部屋着を選択する。

 たちまち大きめの部屋着姿に変身したミルクは大きなつり目がちの瞳をパチクリさせる。


「お前に悪戯するほど、俺は飢えてない。」


「む、シロさまったら。素直じゃありませんね。ミルクの肉体美に興奮したなら素直に言ってくれればいいのに。」


 肉体美とは一番無縁だろ、お前は。



 ……


 そんなこんなで朝食を済ませた俺達は昨日、ルーファスさんから提案された事について話し合った。受けるべきか、否かだ。


 内容は軍とギルドの魔物討伐を手伝って欲しいとのことだ。勿論、報酬も出るし俺とミアなら経験値、EXPも獲得出来るし撃破時のドロップでもGをゲット出来る。

 悪い話ではない。それに正直なところ今は金欠で背に腹はかえられぬ、といった状況だ。


「シロ? お金ないしルーファスの依頼を受けるべきだと思うけど?」


「確かにな。……って、ルーファスさんな。呼び捨てはやめときなさい。」


「シロさま? どうしましょうか?」


 ミルクは俺の肩に着地してタブレットを取り出す。その画面には俺の所持金が表示されている。

 それを見て、受けないとは言えないよな。


「よし、ギルドと協力して少しばかり稼がせてもらうとしよう。ミア、くれぐれも飛び出して邪魔をしないようにしろよ?」


「わ、わかってるし!」


 ミアは頬を赤らめ膨れてみせる。いい機会だし、ここでミアのLVを底上げしておくのもありだ。


 ルーファスさんの話ではここ最近、魔物の出没頻度が増えているらしい。その上、亜種と呼ばれる個体や普段大人しい魔物が凶暴化するなどの問題も多数発生しているって言っていた。

 野生の魔物は所謂魔界との関係性はないのだが、上位の意思を持つ魔物まで出没し始めていて、このままだと人魔不可侵協定に引っかかると頭を抱えていた。


 もし、このまま魔界が攻勢に出るなんて事になると大変な事になる。今回の任務はそんな裏の事情を探る為のものでもあるとルーファスさんは言った。

 これは俺にとっても都合がいい。

 何故なら、魔界との繋がりの糸口が見つかるかも知れないからだ。


「そうと決まれば、支度を済ませてルーファスさんに会いに行くとするか。」



 ……

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