#24 固まる決意



「……朝、か。」


 どうやら俺はベッドの上だ。あの後の記憶がないがミアがここまで運んでくれたのかな。

 いや、それは無理だろう。多分、町の人を呼んで宿まで運んでくれたんだ。


「……~、&=0~」


 足元から亡者の呻き声が聞こえる。


「っ~\<°○いた……」


 視界は良好。


 傷もとりあえずは塞がったみたいだ。腕も動く。脚も、少し痛むが問題ない。

 システムがゲームとは言え、宿で一晩休むだけでこれだけ回復してしまうとは。

 不思議な気分だな。


「〒=°#…か、……い……た……」プルプル……


 俺はゆっくりと身体を起こし足元に絡みつきプルプルする亡者に視線をあてる。


「お、な、か、すいた……」くぅ~……


 なんて事だ。ミアがペシャンコに!?

 そ、そうか……俺が気を失ったせいで、何も食べずに干からびてしまったのか。

 って、ペットかミアは!?


 ミアの頭の上には萎びたアホ毛にしがみついて、これまた項垂れてしまったミルクの姿も確認。ミルクに至っては既に魂が抜けかけている。


 とりあえず、何か食べさせてあげないとな。


「ミア、ミルク?」


「はぅ……あ! シロ! シロシロしっ!」

「シロさま!? シロさまシロさまっはぁー!」


 す、凄い圧だな、おい!?


「わかったわかった、今何か食わせてやるから……そんなに取り乱すなって……」



「良かった! シロが無事で……心配したし!」

「シ~ロ~すぁ~むぁ~っ! うえぇ~ん!」


「お、おい、そんなにくっつくなって!?」


 予想外の言葉に少し戸惑いながら、俺は二人の頭を撫でてやる。いつものようにお腹空いたって言われるだけだと思ってただけに正直驚いた。


 ミアの目の下にはクマが出来ている。俺が気を失っている間、ずっと起きててくれたのかな。


「ありがとな、ミア、ミルク。」


 とか感慨にふけっているとミアは思い出したかのように手をお腹に当て、


「シロ〜、お腹空いたし?」


 うん、それでこそミアだな。


 俺はビジネスバッグから大量のまふもふバーガーにポテト、その他諸々の食材を取り出しテーブルの上にこれでもかと並べてやる。

 ミアは目を輝かせ俺を見る。ミルクもさっきまでの抜け殻状態が嘘のように部屋を飛び回る。


「皆んなで食べるか。遠慮せずに好きなだけ食べていいからな。」


「でもシロ……お金。」


「子供がお金の心配なんかするな、気にせず食べればいいんだよ。ほれ、まふもふバーガー。」


 ミアはちゃっかり俺からハンバーガーを受け取りながらも不満そうに頬を膨らませた。


「こ、子供じゃないし!」


「ん? あぁ、そうだな。」


「……ふぇ?」


 ミアは首を傾げたが俺は見て見ぬ振りをした。


 楽しいものだな。こうやって皆でワイワイ馬鹿な話しながらご飯を食べるのって。

 お、ミアがまふもふし始めたな。この食べっぷり、いつ見ても爽快だわ。


 まふもふまふもふまふもふ!


 だが、こう悠長にもしてられないな。

 またいつネロが襲ってくるかわかったものじゃない。それにユウヒもゴッドゲームのクリアを目標に行動している。これは想像以上に困難な道を選んでしまったみたいだな。けど……


 まふもふまふもふまふもふっ!


 後悔はない。ユウヒを説得して、ネロを黙らせればいいんだろ。なら、やる事は一つだ。


「……もふっ……シロ?」


 魔物狩りでも何でもして今より強くなる。LVもそうだが、何よりスキルの使い方や立ち回り、根本的な剣技の鍛錬もしないと。

 アダマスブレードは凄い剣だ。だが、それは使いこなしてはじめてその効果を発揮する。


「シロ~?」


 あの変形する白刃を上手く利用すればもっとテクニカルに相手を翻弄出来るはずだ。あの厄介な魔方陣の間を上手くすり抜ければ刃は通る。

 だが、

 それには覚悟も必要だ。


「シロ? ねぇ、シロ?」



 人を斬る、その覚悟も必要なんだ。


 でないとネロには勝てない。チートを使った圧倒的な強さを前に、生半可な覚悟じゃ駄目だ。

 一撃で跡形もなく消してしまうくらいの勢いでやらないと、次こそは本当に殺される。


「シロ!」


「ぬあっ!? お、おかわりか?」


 ミアは首を横に振る。

 そして、徐に小さな口を開いた。



「私も、強くなりたいし。」



 はい?


「シロ、私も強くなるし! 私がもっと強ければシロがあんな目に遭うことなかったし……」


「ミア、気持ちは嬉しいんだけど。」


 ミアの唐突な言葉に戸惑っていると、ポテト片手にミルクが羽をパタつかせた。


「シロさま、昨日の夜、ミアと話してたんです。ミルク達がせめて自分の身を守れるくらいになれれば少しは負担を減らせるんじゃないかって。

 ……見て下さい、あの真っ直ぐな瞳を!」


 ミアは立ち上がり俺を真っ直ぐに見つめる。


 すると、


 俺の目の前にウィンドウが表示され文字が浮かび上がった。


「こ、これは……!?」



 ◆なんと、魔王の娘がたちあがり、

 なかまになりたそうにこちらをみている!◆


 ◆なかまにしてあげますか?◆


 >はい

 いいえ



「シロさまっ、これは正式にミアが仲間になろうとしている証拠です! はい、を選べばミアと一緒にパーティを組むことが出来るんですよ!

 そうすることでシロさまの稼いだEXPを二人で山分け出来るのです! つまり、ミアも強くなれるってことですよっ!」


「マジか。」


 ミアとパーティを組む。

 それなら弱いミアでも経験値を稼ぐことが出来るってことか。だが、闘わせるのは……


 ふとミアを見ると、熱い眼差しを送り続けている。ミアは本気で強くなりたいと思ってるんだ。


 その気持ちを蔑ろには出来ない、か。


「シ、シロ……私、がんばるし、だから!」


「……仕方ない。わかったよ。だが、危ないからあまり前に出るなよ?」



 俺は、『はい』をタップした。



「ミア、改めてよろしくな。」


「シロ! うん、よろしくだし!」


「ミルクも忘れないで下さいっ! しっかりガイドしちゃいますからっ!」



 俺のメニュー画面でミアのステータスを確認出来るようになったようだ。

 因みにLVは3、まずは同行からだな。


 女の子を闘わせるのは不本意だが、ミアが強くなること自体は悪いことではない。もし今回みたいに魔物に襲われても、自分で対処出来るのと、むざむざやられるのとでは話が違うからな。


 危ない時は俺が守ればいい。


 ミアを家に帰してやるまで、俺が守る。それは今までと変わらない。ミアの前で、二度と砂を舐めてたまるか。


 俺は決意を新たにまふもふバーガーに食らいついた。うむ、美味い! まずは腹ごしらえだ、腹が減っては戦はできぬって言うしな。


 予定変更、


 まずは魔物狩りをしてLVの底上げから始めよう。行動するのはその後だ。

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