#25 打倒!ブヒンクス!



 当面の目標はミアがこの豚型の魔物、ブヒンクスに勝てるようになることだな。


「このこのこの!」『ブヒヒンッ!』


 あれから三日。町の外に生息する魔物、主に豚を討伐する日々が続いている。


 豚型の魔物、ブヒンクス。

 その名の通り豚だ。ミニブタ程のコンパクトなボディ、濡れた鼻、そして最大の特徴は背中の小さな羽とエリマキトカゲのような縞模様の襟だ。


 何というか……キモいな。


 この辺りのブヒンクスは平均LV20前後だ。


「豚豚ぶたーっ! このこのこの!」


 ミアの通常攻撃は壊滅的な弱さだ。しかし、現在所持スキルは【魅了】のみで、その魅了すらロックがかかっていて使えないときた。

 俺の予想だが、魅了は桜色の瞳で発動するものなのだと思う。つまり今のミアには使えない。

 どちらにせよ、あまり効果なさそうだが。

 体験済みだしな。うん。


 だからこうしてポコポコ殴るしか攻撃手段がない。で、倒しきれないから、


『ブヒン!』

「きゃんっ!?」


 おっと、ミアがブヒンクスの突撃を喰らって地面を転がっていくぞ。


 コロコロと転がってうつ伏せに倒れたミアは例によって例の如く、死を覚悟したようだ。


「きゅぅ……」


 きゅぅ……って、仕方ないな。

 俺はすかさずメガヒールを発動してミアのダメージを回復した。そしてミアの前に立ってビジネスバッグからアダマスブレードを取り出した。


「シロ?」


「ミアは少し休め。腕力皆無のミアがポカポカ殴ってもあまり効果はないからな。」


 ミアにビジネスバッグを手渡した俺はアダマスブレードを両手で構えブヒンクスを見据える。

 ブヒンクスは背中の羽をパタパタとゆっくり動かしながら、飛ぶわけではなく歩いてこちらへ迫ってきた。どうやら羽はお飾りのようだな。


 俺はスローな体当たりをかわし、一思いに剣を振り下ろした。スッと白刃が豚を両断して、見事な食材に変えた。

 嬉しいことにブヒンクスを倒して手に入る食材、

【ブヒンクスの肩ロース】は使い勝手の良い食材として重宝する。


 両断されて消滅したブヒンクスが今回も食材をドロップしたようだな。……どれどれ?


【ブヒンクスの霜降り】


「レア食材、かな?」


「シロ凄いし! そ、それに比べて私は……」


 ミアはわかりやすく項垂れてしまった。


「ミアはミアでよくやったよ。新しいスキルを覚えるまでは仕方ないさ。」


「う……すきる?」


 首を傾げるミア。

 そうか、スキルって言ってもイマイチ意味がわからないのかな。


「スキルってのは技のこと。俺が使う大天使の翼とかメガヒールみたいなやつさ。」


「私にも使えるかな? すきる。」


 期待の眼差しで俺を見上げるミアに後方にいたミルクが言った。


「心配いりませんよっ、ミアもきっとスキルを覚えられます! ミアには魔法の才能があるみたいですし、焦らずゆっくり、ですね!」


「ふふっ、ありがと、ミルク。元気付けてくれてるんだ。ギュッてしてあげるし~!」


「アブババッ!?」


 ミルクは底無し沼へ沈む。そしてその心地よさに酔いしれてヨダレを垂らす。


 ステータス画面、スキル、LV、この辺りのゲーム的システムは転移者である俺達にしかないシステムだ。この世界に住む人々にはその概念は基本的にないとミルクが教えてくれた。

 だから相手のLVはあくまで推定、と表示されるのだとか。


 それはそうと、ミアの体力もそろそろ限界かな。今日は帰って休むか。

 現在、LV6、か。

 こりゃ地道にやるしかないな。


「シロ~?」


 ついでにGも稼げるし、食材も増えるし悪くない。それに俺自身も色んな闘い方が出来るようになってきたし。

 やっぱりLV上げは重要ってことか。


「シロってば~」


 俺は強くならないといけない。

 目的を達成する為にはもっと強く。


 妥協は出来ないか……って、


 ————激痛っ!!!!


 また噛みやがったよ!


「痛いっての! どうしたんだよ?」


「お腹空いたし!」


 でしょうね。聞いた俺が馬鹿でした、と。

 確かに腹は減ったな。



 ……


 宿の一室にて。



「お? ミア、料理の腕が上がってきたか?」


 宿のキッチンから運ばれてきた今夜のおかずはミアが作ってくれたものだ。

 豚の角煮だな。どれ、一口。


 俺は出来立ての角煮に箸をつけた。すると柔らかな豚肉はふわっと二つに割れ、中からはジューシーな肉汁が溢れてくる。これは美味そうだ。

 俺はそれを口に運ぶ。


「ん、美味い! やるじゃないかミア! うん、これは美味い!」


「え、こ、これはそのっ……素材がいいからだし? べ、別に私の料理の腕とかは関係ないと思ったりするし?」


 照れているのかミアは頬を赤らめた。すると小さいサイズで出された角煮を一口食べたミルクも大絶賛する。


「素材だけじゃありませんよっ! これはミアの料理スキルのLVが上がってきた証拠ですね!

 ほら、ステータスを見てもわかるように料理スキルLVが30まで上がってますよ! ミアは意外と料理の才能があるみたいですね!」


「ちょっと~、意外と、は余計だし! ま、まぁ、褒めてもらえると、う、嬉しい、し?」


「ほら、ミアも食べよう。明日も早いし、食べたらシャワー浴びて早めに寝るからな。」




 ……そして、一週間経過。


『ブヒィ!』「きゃん!」


 今日もミアは転がっていく。



 ……二週間経過。


『ブヒィ!』


「当たらないし!」


 ミアの素早さがかなり上がってきたようだ。ミアは豚の攻撃をかわし……


「きゃっ!?」


 勢いあまって転倒、——転がっていく。しかしながら、獲得Gは凄まじい事になってきた。



 そして、LV上げ開始から約三週間の時が過ぎた頃、ミアに変化が。


「落ちろ! めておすとらいくぅ!」


 覚えたスキルはまさかの強力な攻撃スキルだった。その名も【メテオストライク】

 無数の隕石を空から降らす火属性中級魔法だ。


 コテンコテンコツン!


 しかし、メテオ一つのサイズが極めて小さい。ゲンコツほどの隕石はブヒンクスの頭を小突くように降り注ぐ。


『ぶふぁっ!?』


 見た目はともあれ、ダメージは中々だ。


 石つぶてストライク、いや、メテオストライクを喰らったブヒンクスのHPゲージは0になる。


 ブヒンクス、撃破! (初勝利!)


「や、やったぁ! 勝ったし! シロ、ねぇ!」


「あぁ、ちゃんと見てたぞ。よくやったな、ミア。遂にスキルを習得したか。今夜は祝いに寿司だな!」


「すし! すーし!」「寿司ですっ!」


 俺はミアの頭をポンと叩く。ミアは照れくさそうに、でも嬉しそうに屈託のない笑顔を見せる。

 ミルクもこの上なく羽をパタつかせて飛び回っている。今の戦闘でミアのLVは25に達した。


 が、しかし、

 残念ながら俺は一つも上がらないという。元から高いから仕方ないか。

 それはともあれ、戦闘センスはかなり磨かれたはずだ。アダマスブレードの扱いも慣れてきたし。


「シロ?」


 今夜は初勝利を祝ってやるとするかな。この前みたいに暴食しないように気をつけてな。


「ちょっとシロ~?」


 というか、魔王の城って何処にあるんだろ?

 後でミルクにでも聞いてみるか。


「ま、また無視するしっ! もう、ウザしウザしぃ! シロのバカァーー!!!!」


 コツン!!コツン!!!!


「うわぁっ!? 馬鹿はお前だよミア!

 俺の頭にメテオストライク撃ってんじゃねー! 熱いあついって!?」


「わぁ! シロさまシロさまっ! 花火みたいで綺麗ですねーっ!」


「花火は空に向かって撃つものだって! 熱っ!」




 何はともあれ、ミアは見事ブヒンクス討伐という目標を達成することが出来た。


 そろそろ、先に進む時が来たか。他のプレイヤーに先を越される訳にはいかないからな。

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