#18 真の旅立ち
俺は、ゴッドゲームを止める。
ミアを親元、つまり魔王に返して、他のプレイヤー達を説得する。何なら先に説得して協力を仰ぐ手も考えられる。
その結果、俺達は帰れなくなるが。
俺以外のプレイヤー達が首を縦に振る保証なんて勿論ない。それでも、
「シロ? ねぇシロってば!」
人魔不可侵協定、か。
そんな平和的な考えの魔王もいるんだな。
ルシュガル=ザンダリオン……
ミアの父親の名。
よく見ると
そのルシュガルを撃破、つまり殺す事でゴッドゲームはクリアとなるらしい。
「シロ~!」
俺には出来そうにないな。ミアに出会ってなければ、こんな気持ちになる事はなかった。
だが、俺はミアと出会い、仮にも命を助けて、短い間ではあるが一緒に旅もした。
これだけ関わったミアの父親を殺すなんて、俺には無理だわ。
「シロってば! ん~っもう! えいっ!」
————激痛っ!!
「痛っっでぇっ!?」
噛まれたっ!!
「な、いきなり何するんだっ! 痛ぅ……」
「いきなりじゃないし! ずっと呼んでたのに、無視したのシロだしっ! シロ~? お……」
「お腹空いたし、だろ?」
俺はミアの言葉を遮るように言った。するとミアは意表をつかれたのか、「はうっ」と言葉を詰まらせた。心なしか頬も赤く染まる。
そんなミアの大きな瞳に俺の冴えない顔が映り込む。寝起きの俺は前髪が少し目にかかっていた。
いつもオールバックにしてるから、あまり気にしてなかったが、いつの間にか伸びたな。
俺は前髪をぐっとあげて床から起き上がる。
やっぱコレが落ち着くな。視界も良好。
するとミアは「あっ…」と声をもらす。
「ん? どしたよ? ほら、行くぞ?」
やっぱ床で寝ると身体が痛いわ。
それはそうと、今日も一階のキッチンからいい匂いがしてきた。
ミランが朝食の準備をしてるみたいだな。
「ミア、俺達も降りよう。」
「わ、わかったし。」
……
リビングに降りるとミルクが忙しなくパタついていた。
「あっ、おはようございますっシロさまっ!」
いないと思ったらミランを手伝っていたのか。ミルクのやつ、中々やるな。
ちょこまかと忙しなくお皿を運ぶミルクはテーブルに降り立ち小さな胸を張る。そしておしりのラインを気にするような仕草を見せては、背中の羽をパタッと羽ばたかせた。
うん、いつものミルクだ。
「ミルクも女子力を磨こうと思いまして! シロさまの為にいい女になっちゃいますっ!
はっ! お手伝い、お手伝いっと!」
ミルクは張り切ってキッチンへと飛んでいってしまった。落ち着きないよか、ほんと。
で、ミアはミアでどうした?
「お、おい、いつの間にエプロンなんか……」
「私だって女子力あるし!
シロは大人しく座って待ってるし!」
お、お前の女子力は全てアポーの果実に全振りだと思うんだが?
とりあえず椅子に腰掛けると対面に座ったバスターが何やら憎たらしい表情で俺を見る。
「どうだ? あのエプロン! 可愛いだろ?
ミアッち小柄だからミランのでも着れると思ったぜ~! ちぃとばかしお胸が苦しそうだけど、それもまたシロッち好みなんじゃねーの?」
「お前の仕業かバスター……まぁ、座って待ってるよりはいいか。」
「シロッちって、意外と鈍いのか?」
何を訳のわからない事を。
……
そして、楽しい時間は終わり、旅立ちの時、つまりは別れの時間がやってきた。
「……行っちゃうの……? せっかく仲良くなれたのにさみしいよ。」
ミランはミアの手をしっかりと握って俯いてしまった。自慢の尻尾もすっかり下を向いている。
手を離してくれないミランに少し困惑した表情を浮かべていたミアだが、優しくその手を握り返してはミランの目線に合わせるように少しだけ屈んでみせる。
そして目を見てゆっくりとした口調で、
「大丈夫だし、また、会えるし。ね?」
その口調はとても丁寧で、優しい声だ。
俺は少し驚いた。ミアがほんの少しだけお姉さんに見えてしまった。まぁ、実際そうなんだが。
ミランは涙を拭い小さく頷いたが、我慢出来ずにミアの胸に顔を埋めては泣いてしまった。
懐いてたからなぁ。たった数日の滞在だったが、ミランにとっては凄く長い時間に思えたのかも知れないな。
そんな妹をやれやれといった表情で見ているのは兄のバスター。悪いな、といった顔を俺に見せては苦笑いするバスターに俺は言ってやる。
「いいさ、気にするな。お前も泣いていいんだぜ、バスター?」
「ば、馬鹿言うなっての! 男が簡単に泣くかよってんだ!」
とか言って、ちょっと瞳が潤んでるじゃないか。全く暑い、暑苦しいやつだよお前は。
しかしそこがバスターの良い所だな。
「元気でな、バスター。」
「お、おお、お、おうよ!」
「あれあれ? バスターさんっ? 泣いてるんですかっ? あれあれ?」
「よ、よせやい! 男は泣かねぇって!」
すると向こうからバスターの幼馴染、ナタリアが急いで駆けつけてくる。今日もいい尻のフリをしているな。
そんなナタリアは乱れた息を整えると大きな猫目で俺を見つめては言った。
「良かった、間に合ったみたい…シロ君、それにミアちゃんにミルクちゃん…アタシの占いによるとこの先の旅、『黒』に注意って……い、意味は分からないんだけど気になって。」
占いか。確か妖精の羽を示唆したのもナタリアの占いだったんだよな。——黒、プレイヤーの黒か。
それとも、また別の黒、か。
「黒だな。何となくだが思い当たる節はあるよ。忠告ありがとうな。気を引き締めて行く事にする。」
さて、そろそろ出るか。
ヨロシク号の燃料は満タン、ビジネスバッグに食材も補充した。ミラン特製のサンドイッチも大量に頂いた! 準備は万端だな。
まずは、プレイヤー捜し、か。
王都みたいな大きな街ならプレイヤー達がいる可能性も低くはないはず。情報収集も出来るだろうし、アイテムなんかも補充可能だろう。
俺はヨロシク号のエンジンをかける。
そしてアクセルを踏み、車を発進させた。
バックミラー越しにバスター達が見える。
その姿がどんどん小さくなり、街の赤い大風車も遂には見えなくなってしまった。
また、見えるのは見渡す限りの平原だけ。
ナタリアの言う通り、俺がやろうとしている事は簡単ではない。プレイヤーとの衝突もあり得る。黒のプレイヤーが首を縦に振らずに俺達を襲ってこないとも限らないんだからな。
それでも俺は、
ミアを或るべき場所へ帰す。
こうして俺の異世界での旅は、
本当の意味で幕を開けるのだった。
暫く走った頃、
対向から大層な馬車が近付いてくる。その馬車は物凄い速度で軽バンのスレスレを通り過ぎてはそのまま走り去って行った。
「ぬあっ、危ないな…」
それにしても、
立派な馬車だったな。馬が三頭もいたぞ。
……
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