#16 ミアレアの称号
騒がしい、実に騒がしいぞ!
「ミランだよ!」
「ミアレアだし!」
「ミルクですっ!」
「「「イエェェーイ!!!」」」ガヤガヤ!
全員、名前が『ミ』から始まるってだけでこれだけテンションを上げられる意味がわからない。
とはいえ、やれやれだ。
そう、俺は力無く寝込んでいたミランに状態異常回復スキル【フェアリーフェザー】を使った。
結果は見ての通りで、すっかり元気を取り戻してくれた。正直不安だったが、治って良かった。
バスターなんて泣いて喜んでたな。
それだけ妹のミランを心配していたんだろう。あの溺愛っぷりは普通じゃないしな。
それにしても呪いなんて誰が。
「ねぇねぇ! お兄ちゃんっ、一緒に遊ぼ!」
ミランは俺を遊びに誘っているようだ。俺の顔を低い位置から見上げキラキラした瞳で懇願してくるんだが……こんなの、断れるわけがないよな。
バスターの気持ちが今わかった気がする。
俺が笑顔で頷くと、ミランは尻尾を振って喜んでくれる。
やば、可愛すぎるだろ……!
ミランは獣人族特有の赤い髪の女の子。
艶やかなストレートヘアに黄土色の丸みを帯びたケモ耳とモフモフした尻尾が特徴的だ。
この子があのバスターの妹とは、似ても似つかぬとはこの事だな。
「お、シロッち! 頑張れよ~!」
なんだ、バスターは来ないのかよ。
俺はこの後、日が暮れるまで鬼ごっこの鬼をやらされるとは思ってもいなかった。
……
「死ぬ。身体中がギシギシいってる……」
バスターの家の空き部屋をかりて今夜はこの街に泊まる事にした。俺達は皆で食事を囲み、そしてそのまま夜を迎える。食事はナタリアが用意してくれていたみたいだ。
俺は部屋のベッドにダイブした。もう身体のあちこちが痛くて動けそうにない。
こりゃ完全に運動不足が仇となったな。
そんな俺の目の前にちょこんと降り立ったミルクはモコモコパジャマ仕様だ。
「シロさまシロさま! ミランちゃんが治って良かったですねっ! ミルクはシロさまのそんな優しいところが大好きですっ!
シロさまのガイドに選ばれて良かったです!」
相変わらず想いを真っ直ぐに伝えてくるよな、ミルクは。これだけ直球で褒められると何だかくすぐったいな。悪い気はしないが。
「シロさま! 今夜は二人っきりの夜ですよ!」
「ん、ミアはどうしたんだよ?」
「ミアはミランちゃんのお部屋で寝ちゃいました。つまりつまり、ぬふふ、チャンスターイム!」
「いやいや、何その、ぬふふって……」
ミルクは背中の羽を時折パタパタと羽ばたかせ、枕の上を歩きながらチラチラとこちらを流し見ている。えっと、何を求められているのかな?
「シロさまはミルクの殿方ですからね~、最近、ミアのおっ○ぱいばかり見てるの知らないとでも思ってるんですか~?」
「見てねーよ。お前が俺を好いてくれているのはわかるが、ミアは俺のことなんて
【歩くファーストフード店】としか思ってないだろうに。」
「シロさまってアレですね。」
アレってなんだよ、
このエロ妖精は何を言っているんだ。
俺は灯りを消して仰向けになった。すると時間差でミルクはそっと布団に潜り込んでくる。ミルクの身体はほんのりとあたたかい。
気にせず目を閉じた俺は、これからの事を少し考えた。そう、ミアの事だ。
成り行きでこんな場所まで来たが、まだミアの記憶も家族の事も、何もわかっていない。
このまま連れ回すのもどうだろうか。
何か手がかりがあれば……そう、何か……
……なにか
「そうだ!」
俺は思わず声に出した。
その声に驚いたミルクはビクン! と跳ねる。
「お、驚きましたっ……シロさまいきなり何なんですか~? あれ? もしかしてムラムラして?
わかりましたっ! ミルクにお任せく、ぶふっ」
とりあえずミルクの口を指先で閉じた俺は咳き込む妖精に言った。
「なぁミルク? お前のタブレットって、俺以外の人のステータスも見れるのか?」
「……へ? まぁ、同行者でも簡単なステータスくらいなら見ることが出来ると思いますよ?
あの、それが何か?」
ミルクは首を傾げ翡翠色の瞳をパチクリさせる。そんなミルクに俺は続ける。
「それでミアのステータスを開けば、アイツが何者かわかるんじゃないか?」
「……あら。さすがはシロさま。」
盲点だった。何故、今の今までこんな簡単な事に気付かなかったのか。ミルクはタブレットを取り出し電源を入れた。
いつも思うが、それは何処から出てくるのか。おっと、今はそれよりも、
「ミルク、頼む。」
「は、はい……」
ミルクは同行者に分類されたミアのステータスを開く。
◆名称◆ ミアレア=ザンダリオン
◆LV◆ 3 (推定)
◆年齢◆ 14
◆身長◆ 149
◆体重…
……
……
……
◆称号◆ 魔王の娘
え……
……魔王の、娘?
「……シロさま……あの……」
「あぁ、何も言うなミルクよ。」
この事実を知った上で、
俺にこれからどうしろと?
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