#15 バスターの幼馴染
あれから車を走らせること数時間、途中休憩を挟みながら夜通し運転した俺の眠気はピークに達していた。
ついさっきまで暗かった空も少しずつ明るくなり、この世界に再び朝が訪れた。
「シロッち、すままねぇミランの為に。」
「き、気にするなよ……はは、眠いの通り越して逆にテンション上がってきたし?」
ミアとミルクは後部座席に移動して眠っている。ミルクが谷間に挟まってニヤケ面をしているのは言うまでもない。
そんな中、バスターは寝ずに道案内をしてくれていたのだ。隣で話してくれているだけでも、眠気はかなりマシになった。
夜通し妹の話をしていたバスターの表情を見ていると、その溺愛っぷりがひしひしと伝わってきてちょっと羨ましかった。
俺は一人っ子だし、そういった経験が無かったからな。
今はややこしい妹が二人も出来た気分だが。
……
暫く走ると綺麗に舗装された道が目の前に広がりはじめる。そろそろ到着かな。
ヨロシク号、頑張ったな。後でガソリンをたんまりと補給してやるからな!
そんな考えを巡らせながら運転すること五分、俺の視界に町らしき影が映る。いや、街、と言った方がしっくりくるな。
カーネリアンは勿論、ジェムシリカよりも大きい立派な街並みは俺の知るところの貧民街とは少し違ったイメージだった。
街へ入ると背の高い煉瓦と木材を組み合わせて建てられた建物が所狭しと並んでいる。
中央広場には大きな赤い風車が建っていて、外国にでも旅行に来た気分だ。
まぁ、外国どころか異世界なんだが。
ジェムシリカもいいが、このブロンガイトの街も風情があって悪くない。
いや寧ろいいとまで言える。
しかし不可解なことが一つ、
「あまり人がいないな。」
「あぁ、まだ朝だからな。この街に住んでるのは殆どが子供なんだ。一番歳上が自分と幼馴染の二人だけでよ。まぁ、もう少しすりゃ子供達がはしゃぎ出すぜ?」
「そうなのか。え、でも親は? 大人達はどうしたんだよ?」
バスターは振り向かず遠くを見つめながら、小さく呟く。
「……帰って来ねぇ。十年前から、自分達は十年前からずっと自分達だけで生きてきた。
国に騙されて出稼ぎに出た大人達は誰一人として帰って来ねぇどころか、働いて送ると言ってたお金すら一度も届いてねぇんだ。
それから自分達は自給自足の生活を続けながら、今まで生きながらえてきたんだ。」
そうか……十年前、獣人への弾圧が激化したことで……俺が思っていたよりも事態は深刻みたいだ。
何が全ての民だ。獣人は民じゃないのか?
胸糞悪い話は何処にでもあるんだな。
親達は大方強制労働を強いられているか……売られて奴隷になっているか。
この話はこれ以上掘り下げるのは辞めておこう。
何よりバスターが辛そうな顔をしてる。コイツは年長者として必死に抗って生きてきたんだな。
「むにゃ、シロ? ご飯まだぁ?」
ミアか……夢の中でも飯か。
そろそろ起こすか。
……
「お疲れさん、ヨロシク号。後でガソリン補給してやるから、とりあえずバッグの中にいてくれ。」
俺はビジネスバッグにヨロシク号を保管した。バスターは一々大口を開けて目を丸くしている。
寝起きのミアは少しばかり機嫌が悪そうだが、今はそれよりミランのことが最優先だな。
それはそうと、ミルクは朝から元気だ。上機嫌に俺の肩に乗って背中の羽をピンと伸ばしてはパタパタさせている。
その時だった。
「バースーター?」
バスターの尻尾がピンと伸びる。そして恐る恐る振り返ったバスターの表情は悪魔でも目の当たりにしたかのような形相に。
俺も恐る恐る振り返ると、そこには声の主であろう女の人が腕を組んで立っていた。
赤いサラッとしたショートヘアに猫耳、尻尾、スラリとした細い身体。
白い大きめのシャツにショートパンツ姿の猫耳は不機嫌そうに俺達を睨み付けてくる。
「ナ、ナタリア……!?」ガクブル
な、なんだこのバスターの怯えっぷりは?
この女、ナタリアって何者なんだ?
その瞬間、バスターの鼻に猫パンチが炸裂したのが見えた。ブピューーッと鼻血を噴き出したバスターは地面に膝を落とし悶絶する。
「ぐぎゃぁっ……」
ミアは「あっ…」と小さくこぼし目を閉じる。痛そうだな、とか思ったのかな?
「こ、これはまた派手に鼻血が噴き出しましたね……シロさま、回復してあげた方がいいのでは?」
「お、おう……」
俺はメガヒールでバスターを回復させた。それを見た猫耳、ナタリアは驚いた表情でつり目がちな瞳を見開いている。
そして復活したバスターを睨み付けては声を荒げるのだった。
「そ、それはそうと! バスター、アンタはこの大変な時に何処に行ってたの!
ミランの体調も芳しくないっていうのに、アンタが側にいてあげなくてどーするの! アンタのことだから、アタシの占いを見て妖精さがしに行ってたんでしょ? その妖精の羽ってのはね…」
「だ、だからその……光属……」
バスターはナタリアの言葉を遮るように言った。ナタリアは、あれ? といった表情で首を傾げて俺達に、というかミルクに視線を向けた。
そして……ズブシャ!
「アンタやっぱり妖精を捕まえて来てんじゃないの! まさか羽をもぎ取ってないでしょうね!?」
再び鼻血は帆を描く。あれは痛そうだ。
「どぅぎゃぁっ!? だ、だから違うっての! 話はさいごまで聞けって! 痛ぅ。」
……
鼻血を垂らしながら説明すること数分、ナタリアは事情を把握したようで俺達に謝罪した。
「ご、ごめんなさい……わざわざ来てくれたというのに見苦しいものを見せてしまって。
アタシは【ナタリア】よ。すぐにミランの所へ案内するわ。付いて来て?」
ナタリアはそう言ってスタスタと歩いて行ってしまった。一言で言って、いい尻をしている。
と、そんな事を考えている場合ではなく、
「シロッち……行こう……ぶぴゅ……」
「お前、大丈夫か?」
俺達はリズム良く尻を振って歩いてくナタリアの後を追った。そんな俺達を見たミアは俺の服を引っ張りながら何故か膨れている。
お腹でも空いたのかな?
「エロし!」
何言ってんだか。
ミアは、ふんっ、と横を向いてしまった。そんなミアの肩にミルクが降り立ち、小さな羽をパタッと羽ばたかせる。
そして二人して俺を睨み付ける。
俺、なんかしたかな?
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