#14 妖精の羽



 まふもふまふもふまふもふっ!


「おかわり!」「じ、自分もっ!」


 まふもふまふもふまふもふまふもふっ!


 す、凄い勢いでハンバーガーが消えていくぞ。


 ミアで既に八個完食、相変わらず凄まじい食べっぷりだ。だが、ちゃんと包装紙を綺麗に畳むあたりが女の子って感じだな。


 それに比べて……弟の方はひたすら食っては包装紙を無造作に丸めて放置している。

 因みにコイツも八個完食で大食い大会はいよいよ大詰めを迎えている。


「シロさまシロさまっ、ミルクはポテトが食べたいですっ!」


「おう、そうか。ほら、熱いから気を付けるんだぞ?」


「はいっ! 優しいですね、シロさま!」


「茶化すなっての。それよりお前、何か調べてたみたいだけど?」


 俺が言うと、ミルクはポテトを一口食べて熱そうに口をホクホクさせた。そしてそれを何とか飲み込むとタブレットを取り出した。


「シロさま、妖精の羽なんですが、ミルクが思うにそれはこれの事かと。」


 タブレットの画面には俺のスキル欄が表示されていた。何これ、ミルクの端末から俺の情報全部見れちゃう感じなのか?

 身長、体重、体脂肪率!? そ、それにあんな事やこんな事まで……おいおい。


 プライバシーの侵害を訴えます。


 と、そんな事より、これは……?


「フェアリーフェザー?」


「はいっ! 訳して妖精の羽です。このスキル、どうやら状態異常の回復魔法のようですよ?

 全状態異常に効果ありですから、もしかしたらその病気も治せるかも知れませんっ。

 たしかバスターさんの妹さんは一ヶ月前に病を患って今は身体の自由も効かないと、それは呪いによく見られる症状なんですよ。」


 そうか、その占いで妖精の羽が必要と出たとはいえ、何も本物の羽が必要とは限らない、か。

 このスキルの事を指していた可能性もゼロではない、とミルクは考えた訳か。


 何を調べていたのかと思えば、つくづくお前はいい奴だな、ミルク。


 俺はミルクの頭を指先で撫でてやる。ミルクは羽をピンとさせて少し驚いた表情をしたが、すぐに気持ち良さそうに頬を赤らめた。


 あれ? なんだか視線が痛い?


「シ~ロ~?」


 え? ミアレアさん? なんでそんなに睨むの?

 ……って、あれ?

 ミルクがこの上ないドヤ顔でミアを見下しているように見える。

 御二方、どうなされたのかな?


「シロのバカ。それはそうと、ミルク? その話、本当なの?」


 ミア、ちゃっかり聞いていたのか。


「もしその病気が呪いによるものなら、このスキルで治せる筈ですっ!

 ガイド妖精の名に懸けて保証します!」


 ミアより一歩遅くハンバーガーを平らげたバスターはパタパタ飛ぶミルクを見上げ尻尾をピンと反応させた。

 そして俺の顔を見て、何かを言いたそうにしているが……ぐっと言葉を呑み込んだように見えた。


 仕方ない弟だ。


「バスター、お前の住む町はここから遠いのか?」


「え、シロッち?」


「助かる可能性があるなら、その可能性に賭けるしかないんじゃないか?」


「来て、くれるのか……シロッち?」


 俺は頷き、ミルクとミアに視線をやる。二人共、意義は無しといった表情で頷いてくれた。


 よし、それなら決まりだ。次の行き先はバスターの住む町だ。


 バスターは三度目の土下座で俺達にお礼を言って真っ直ぐな瞳にジンワリと涙まで浮かべる。

 そうと決まれば、コイツの出番だな。


 俺はビジネスバッグに手を突っ込み……


「ぬぁんだぁっこりゃぁっ!?」


 ヨロシク号を取り出した。いや、これ出すの何か気持ちいいな。スッと出てくるんだよ、重たい筈の軽バンがスッとな。


 バスターは大口を開けて目を丸くしている。


「乗れよ。バスター、お前は後ろな。」




 ……


 こうしてバスターの住む町へ向かうべくアクセル全開で森を抜けた。

 ミルクのタブレットで地図を出し、バスターに道案内を任せて走る事四時間、この地点でやっと半分来たくらいだ。


 バスターの住む町、そこは【ブロンガイト】という所謂貧民街だとバスターは話してくれた。


 話によると、獣人族は国家的に地位が低く数十年前から弾圧が更に激化した。

 その影響で商人の町として栄えていた町も今や見る影もなくなってしまったらしい。


「それもこれも、あのクソ皇子のせいだぜ。」


 クソ皇子、バスター曰くその皇子とはこの国の第三皇子で名は【ガラント=クロスレイ】という。

 ソイツが獣人に対する差別を激化させた張本人らしい。獣人を奴隷として扱ったり強制労働を強いたり、酷い話では売婦として売られることもあると聞かされた。酷い話だ。


 異世界でも現実世界でも差別があるんだな。

 

 胸糞悪い話だ。


 バスターが白いフード付きのマントで耳と尻尾を隠すのも理解出来る。



 ここ、【グラン=カナン王国】

 全ての民の幸せを約束する地として栄える大国の一つで、今俺達のいる国がそうだ。これは異世界説明書ガイドブックにも書いてあった。


 全ての民の幸せ、ね。





 俺達はオーロベルディを越えて更に西へ。


 アクセルを踏み込み果てしなく続く一本道をヨロシク号で突っ切る。俺のスキルでバスターの妹が治るなら、急がないと。


 俺、この世界に来て柄にもなく熱い男になってるような気がする。まぁいいか。


 ここ、異世界だしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る