#13 バスターの想い



 俺と赤髪の壮絶な殴り合いもいよいよ佳境を迎えようとしていた。お互いの体力、所謂HPは半分以下、これ以上は命の危険も考慮しなければならない段階まできている。


 地面を蹴る! 一発、二発! おまけにもう一発、赤髪の顔面に打ち込む!

 それでも赤髪は倒れない。


 タフ過ぎるってコイツ!


 俺が一旦距離をとると赤髪は鼻血を片手で拭いながら口元を緩めた。


「へっ、やるなぁアンタ! だけどよ、自分の勝ちだぜっ! 喰らえっ! ゴッドハンド~」


 くそ、あの厨二病技がくる! 次アレを喰らうと割とマジでキツい。

 あの技は今の俺の戦闘センスでは回避不可能。一瞬で懐に入り、強烈なアッパーが飛んでくる。


 アッパー……?


 避けられないなら、相手が屈んだ瞬間にっ!


「クルァッッシュァァァーーーー!!!!」


 きたきたきた、来たぁっ!


「カウンターだぁっ!!」

        ————「ぐがぁっ!?」


 入った! 俺のカウンターが赤髪の脳天を打ち勝負は決まった。


 ……かに見えたが、赤髪はダウンどころか怒涛の踏ん張りを見せ、俺の顎を打ち抜いた!?


 駄目だ……自分の意思と反して視界が揺れる。

 空が回って……俺、倒れた、のか?


 そのすぐ横で何かが倒れ込んだ?


 赤髪?


 そうか、引き分け…………か……



「シロさまシロさま! しっかりして下さいっ! シロさまぁっ!」

「ちょっとシロ? 大丈夫っ?」


 騒ぐなってミルク、それにミアも。そんな顔で覗き込むなよ……別になんて、こと、な……






 …………


「全く、シロさまは何故スキルも使わず殴り合いなんてしたんですかね。」


「し、知らないし……で、なんでこの二人はこんなに仲良くなっちゃってるの? さっきまで喧嘩してたのに意味がわからないんだし?」


「ミルクにもさっぱりです。」



 森での激闘で、俺と赤髪の獣人バスターは同時に意識を失ったみたいだ。で、少し経って目が覚めた俺達は意気投合したのだった。


「自分は驚いたぜ、まさかあの技を喰らって立ち上がってくるなんてよ。しかもなんだ、は自分より歳上だったのも驚いた。」


 バスターは地面に胡座あぐらをかいて俺に言った。俺も同じように座って応えてやる。


「お前が二十歳だとはな。つまりは、俺より六つも歳下ってことか。しかしバスター、お前打たれ強過ぎるだろ?」


「あ、ありゃ根性だっての! 正直、一発目からキツかったんだぜぇ?」


「ははっ、それは俺も同じだ。それはそうと、お前は何故妖精の羽なんかを探してるんだ?

 あ、言ってもミルクの羽はやらないぞ?」


 俺の言葉に身震いしたミルクはミアの谷間へ逃げ込み、そこから顔を出してバスターを睨み付けた。怯えるミルクを見たバスターの表情は何とも言えない複雑な表情だ。


 多分、反省しているんだろう。バスターは悪い奴には見えない。それはミルクだって気付いていると思うし、話だけでも聞いてみたい。


 ミアは谷間のミルクの頭をちょんちょんと突き遊んでいる。

 少しの沈黙の後、バスターは徐ろに口を開く。


「ミランの為なんだ……ミランは原因不明の病で…身体の自由がどんどんきかなくなって。

 今はもう立つことすらままならない、ほんの一ヶ月前までは元気にはしゃいでたのによ……」


 ミラン……さっきも言ってたな。その子の存在がバスターを突き動かしてるってことか?


「あ、そのミランってのは自分の妹なんだ、十も離れた妹でよ可愛いのなんのって。」


 バスターの妹……原因不明の病か。


 バスターのやつ、妹の話をしていると表情が途端に緩くなったな。尻尾まで反応して、

 なんかわかりやすいやつだな。


 バスターの話によれば妹、ミランの病気を治すには妖精の羽が必要だと知り合いの占いでわかったのだと。それを聞いて町を飛び出して来て、がむしゃらに妖精を捜し求めていたようだ。


 しかし変わった髪の色だな、異世界ではよくあるのかな? カーネリアンでもジェムシリカでも赤髪は見たことなかったが。


 俺の目線に気付いたのかバスターは自分の髪を指差して笑う。


「ん、これかシロッち? 赤髪は獣人特有の髪色なんだぜ? おっと、それより自分は謝らなきゃなんねー。そこの妖精に。」


 バスターはピンと立ち上がり、再びミルクに土下座をぶちかました! 何度見ても見事な土下座だ。


「すまなかった妖精!! 妹の為とはいえ……自分は酷いことをっ、このとぉ~っり!

 ゆ、許してくれねーかっ!?」


 するとミルクは暫くその姿を見つめては谷間から飛び出しバスターの目の前に降り立つ。

 小さな羽をパタパタッと羽ばたかせ、小さな胸を張ったスク水の妖精ミルクはバスターに言った。


「か、顔をあげてくださいっ! 事情はわかりましたので。そ、それにミルクは妖精! じゃなくてミルクですっ! ちゃんと名前で呼んで下さいね?

 バスターさん?」


「よ、妖精……いや、ミルクッち。許してくれるのか、こんな自分を?」


 ミルクはバスターに笑顔で返事をする。


 ミルク、お前はほんとにいいやつだ。ペチャパイ呼ばわりされようが、誘拐されようが、すぐに許してあげられるんだからな。


 もしかして、ドMなのか?


「ねぇ、シロ~?」


「ん、なんだミア?」


「私ね、お腹空いたし。」


 話したと思えば飯かよ。

 バスターはそんなミアを見て言った。


「ミアっていうのか嬢ちゃん、ならミアッちだな! と、確かに……腹減ったかも。」


「正式にはミアレアだし? それはそうと、シロ? 皆んなお腹空いてるんだよ?

 空気読まないといけないんだしっ?」


 まぁいいか。俺も柄にもなく暴れて疲れたし、

 まふまふバーガーでも作るかな。


 俺がメニューを開き操作していると、目の前でミアとバスターが期待の眼差しでこちらを見つめてくるんだが。やりづらいなぁ。


 ミアはヨダレを垂らして目を輝かせる。

 バスターは尻尾を振るな……ったく、妹の次は弟まで出来てしまったみたいだよ。


 ミルクはミルクでタブレットなんか取り出して調べ物を始めるし、よし、出来た。


 とりあえずまふもふバーガー二十個完成。ミア一人で十個は無くなるから、これくらいは必要だろうし。後はこのビジネスバッグから取り出せば。


「おおっ! こ、こりゃどういった仕組みだよシロッち!? そのカバン、どうなって!? え? えぇっ!?」


「驚くのはわかるが説明が面倒だからとりあえず食えよ。ほら、こうやって袋をあけてから。」


 バスターは言われるがまま袋を開けてまふまふバーガーと初対面した。

 この上なく尻尾が反応する。


 ……

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