#11 ミルク取られちゃったし
痛い……頭のタンコブと、顔の引っ掻き傷と、その他諸々が痛いってんだよ……
悶絶とはこの事か。
酔っ払ってベッドに潜り込んだ俺が枕だと思っていたソレはミルクを谷間に挟み込んで眠るミアだったのだ。
そう、ご想像どおり、俺はゴミ虫が如く蹂躙され今に至る。
「シ、シロが悪いんだし……こ、この前もパンツ盗んだし。」
いや、パンツの件は完全に誤解ですけど。
「シロ、私はお腹空いたし!」
コイツの頭の中は半分以上が食う事で占拠されているようだな。
とりあえずメニューを開く。アポーの果実を加工して、ハンバーガーのバンズに使う小麦で食パンを生成っと。
「ほらよ、ジャムを塗った食パンだ。俺のオリジナル料理……って痛っっ!」
パンごと俺の手をかじるとか、全くどんな食い意地してるんだミアはっ!?
……
と、まぁ、食事を済ませた俺達はジェムシリカの町を散策する事にしたのだが、
こんなに悠長にしていていいのかな。
ま、俺は別にゴッドゲームとかどうでもいいけどな。そういえば……
「なぁミルク、ゴッドゲームを誰かがクリアするとどうなるんだ?」
俺の質問に前を飛んでいたミルクが振り返っては自慢のおしりを突き出すようにして言った。
「その場合、生きている参加者全員が元の世界へと帰ることになりますね。魔王を倒せなかったプレイヤーの方々にも記念として天界ストラップが贈呈されます。
でもでも、シロさまは絶対無敵ですから魔王を倒して願い事叶えちゃえばいいんですよっ!」
生きている……ね。
うむ、願い事ね。そんな事言われてもあまり思いつかないんだよなぁ。それに、レベルが高いといっても邪龍には一度殺されてるんだ。
要は上手く力を使えなきゃ駄目って事だろ?
それに他の奴らの固有システムとかジョブアビリティも気になる。属性だって違うかも知れない。
「ねぇ、シロ?」
「ん、なんだミア?」
「お腹空いたし。」
ついさっき朝食食べましたよね? ほんとによく食べる。見ていて清々しいくらいにな。
「お前達はそこのベンチで待ってろ。何か適当に買ってきてやるから。」
「わぁーい!」「ありがとうございます!」
さてと、この店はいつも行列が絶えないな。ここのフランクフルトは美味いから仕方ないか。
それはそうと、この町はいい。
赤煉瓦の壁に緑の三角屋根の建物がズラリと並んでいて、活気もいい。それに南の方角にはモーシッシ大森林、西を向けばオーロベルディ鉱山と景色も悪くない。
半日かければカーネリアンの温泉にも行ける。
うん、住むにはもってこいだな。
魔王の討伐ね。
他の連中は今頃どうしてるんだろうな。
魔物倒してレベル上げとかしてるのかな、それとも俺みたいにのんびりと過ごしてるのか。
いずれにせよこの町にずっと留まるわけにもいかないんだろうな。そろそろ先に進んでみるか。
と、やっと俺の番か。
「えっと、フランクフルト三つ下さい。」
「あら勇者様、いつもありがとうね。はい、フランクフルト三つね。一つはおまけにしとくね。」
俺も魔物倒してG稼いでおかないと。いつまでも所持金がもつとは思えない。
ミアレア戦の獲得Gショボかったしな。
レベルは急いで上げる必要はないが、結局地道に闘って稼がなきゃならん。
G、異世界でもお金は大事、か。
フランクフルト食べたら町の外でスキルの練習も兼ねて魔物退治といきますか。確かモーシッシ大森林の深部に魔物が生息していたはず。
「シロ~! たいへんだし~!」
なんだミアか。
「たいへん大変っ! ミルクが!」
「ミルクがどうかしたのか? お前ら、また喧嘩したんじゃないだろうな?」
ミアは首を横に振り乱れた息遣いを整えるように大きく深呼吸する。そして町の入り口を指差して言った。
「ミルクが男の人に取られちゃったんだし! ほら、あそこのっ!」
確かに白いフード付きのマント男が入り口のモニュメントを通り過ぎていくのが見えた。
……って、ミルク?
ミルクがいない!?
ミアは俺を見上げて「追いかけなきゃ!」と催促している。
ここにきてやっと俺は事態を把握した。
あの白マントがミルクを連れ去ったみたいだ。
しかし何故そんな事?……いや、今は考えるより追うのが先だ。
心配そうに慌てているミアの手を握り、俺はその赤髪を追って走った。
くそ、何処に行った? ここから身を隠すとなると……鉱山? いや、あそこには働く人がいるから……となると、やっぱり森かっ!
「ミア!」
「えっ!?」
俺はミアを抱き上げメニュー画面を開いた。そしてスキル大天使の翼を発動させる。
よし、
「しっかり掴まってろ?」
「えっ!? わっ! きゃっ!? と、飛んでるしぃ!?」
目を丸くして落ちないように俺のシャツに掴まるミアは身体を小さく丸めている。
構わず町全体を見渡せるくらいの高度まで飛んだ俺は目を凝らし男を探した。
いた。やっぱり森か。
確かにマントの男がモーシッシ大森林に入って行くのが見えた。
俺はミアと自分の身体でビジネスバッグを挟みこみ落ちないように固定した。そして、
「ちょっと……! シロ!? 待っ……」
ミアが何か言ってるが今はそれどころじゃない。ミルクは大事なガイドだ。この世界について知らない事ばかりの俺には必要な存在であってだな。
何より、共に旅する大事な仲間でもある。
俺はミアの身体をギュッと抱きしめるようにして急降下、一気に森の入り口へ降りたち大天使の翼を解除した。
そして木の影に隠れ森の奥に視線をやる。
……男の姿はないか。
しかし、まだ新しい足跡がいくつか残されている。これを追っていけば。
「よし、ミア、ここからは歩いて追うぞ? って、どうしたんだよ? 涙なんか浮かべて。」
——激痛っっ!!
くそっ、いきなり噛み付きやがって!?
「シロのばかばかばか!」
泣くなって……あ、もしかしてミアって、高い所苦手なのかな? 木に引っかかってた時もあの高さで放心状態だったし?
うん、多分そうだな。この今にも泣き出しそうな顔を見れば大体わかるってやつだ。
「悪かったよ……ほら、行くぞ? お前の友達を助けてやらないと。」
俺はミアの手を握った。ほんのりと汗ばんだ小さな手のひらは俺の手をゆっくりと握り返した。
「う、うんっ! 行こう!」
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