#10 アダマスブレード
俺のフランクフルトを……ミアが……
落ち込む間も無くさっきの若者がこれまた息を切らして走ってくる。
「勇者様~、準備が整いました!」
う、その勇者様ってのやめてくれないか。
こうして若者と共に鉱山へ向かった俺達は噴き出す黒い液体の調査をすることにした。と、言っても調査はミルクがやってくれるみたいだけど。
たまには仕事してもらわないとな。
その間、俺は瓦礫の片付けを手伝う事に。町の男達は止めたが、破壊したのは俺だし手伝わせてくれと頼み込んだ。しかし、こんなに身体を動かしたのはいつ振りだろうか。
ミアも小さな瓦礫を上機嫌に運んでいたが、間も無く転倒……膝を擦りむいてしまった。
全く、よく転ぶな。
「ゔぅ、痛し……」
「しょうがないな、ほら、メガヒール。」
俺は因みに光属性。回復魔法には困らない。
メガヒールという上位回復魔法でミアの傷を回復させると、傷はゆっくり塞がっていく。
こりゃ回復薬とは桁違いの力だな。ちょっとした傷ならこれで何とかなりそうだ。
こんな作業が三日続き、運動不足の俺の身体はガチガチの筋肉痛に襲われていた。
遅れて発動するタイプのやつだ……これはメガヒールでも治せない。
それはそうと、鉱山の作業場も綺麗に舗装されて元通りになった。噴き出していた黒い噴水も落ち着き、それを溜め込む場所も新たに組み上げた。
何というか、凄い働きっぷりだ。俺みたいなスーツ仕事と違って、現場で働く男達ってやっぱ凄いよな。尊敬するわ。
初日で脱落したミアは町で女の人達とお昼のおにぎりを作ったりして貢献してくれた。すっかり気に入られたみたいで仲良くやってるようだ。
それはそうと成分調査にあたっていたミルクによると、予想はビンゴ。
そこで俺はありったけの樽を用意してもらい、ビジネスバッグにガソリンを保管した。俺が掘り当てたものだからと、名前は俺が付けることになった。
何も思い浮かばないから結局ガソリンと名付けることにした。
かなり大量に保管したし、これなら当面ガソリンの心配はないだろう。なんだか上手くことが進み過ぎてこわいくらいだけど、これも異世界ならでは、かな。
邪龍との闘いでは一時どうなるかと思ったが、これで目的のガソリンは確保出来た。
そういえば、おんどりゃおじさん、じゃなくてアダマの親父さんとの約束も今日だったな。
楽しみだ。世界一の鍛治職人が打った一振りの剣、そんな高価なもの貰っていいのか?
……
空は満点の星空だ。今日は月も出ていてそれを眺めているだけでも酒が進む。
そう、俺達は邪龍の撃破と鉱山の作業場の再稼働を祝って宴と洒落込んでいた。
俺は筋肉隆々の男達に囲まれ、この世界にきて初めての酒を一気に呑み干す。
周りからは、いい呑みっぷりだと喜ばれてしまった。つい美味くて調子に乗ったな。
しかし、いいものだな。こんな生活も悪くない。グラスが空くとすぐに美人のお姉ちゃんが酒をついでくれる。社長にでもなった気分だ。
ちぃとばかし、視線が気になりますが、ここは気付かないフリをしておこう……って、き、来た!
「ちょっとシロ~! なんでさっきから目を逸らすの? そんなにお酒が飲みたいなら、私が手伝ってあげるしっ! えいっ!」
ミアレアは酒瓶を手に取り俺の口に差し込んだ。
「おおー! 勇者様いいぞー!」
「ラッパ飲みとは恐れ入った!」
大盛況だが俺はそれどころじゃなくてだね? ぐお、流石に空が回転し始めたぞ!
うわっ! 月に顔が浮かび上がって?
違った。俺の顔を覗きこむアダマの親父が月と重なってただけか……ビックリした……
迫力ある顔のおかげで一気に酔いが覚めた。
「アダマの親父さん?」
「おんどりゃぁっ!!!! 中々の飲みっぷりじゃぁねぇか! 儂とも付き合ってもらうぜぇゴルアァ!
おっと、それより、酔いつぶれちまう前に。」
アダマは一振りの短剣を俺に差し出した。
黒い
刃渡十センチ程のかなり短い代物だが、
「抜いてみな、おんどりゃ。」
俺はそれを手に取り、漆黒の鞘を抜く。すると驚いた事に刀身が刃渡四十センチほどに伸びる。
真っ白に光り輝くその刀身は刀に詳しくない俺でも、とんでもない代物と認識出来た。
「こ、こりゃどういった構造に?」
「コイツはなぁオーロベルディでとれたとんでもなく貴重な形状変化能力のある鉱石、
【エンジェリックオール】を練り込んだ世界で一つの宝剣、といったやつだ。」
エンジェリックオール、その特性のおかげで携帯時はかさばらずコンパクトに、戦闘時には刀身が伸びて立派な片手剣となる。
この親父、とんでもない天才だったみたいだ。
凄さはそれだけではなかった。
エンジェリックオールには意識をリンクさせる事で自由に形状を変化させる機能まで備わっている。
これを応用すると、
例えば魔物相手なら躊躇なく斬属性で斬り伏せ、人が相手の場合、打属性に切り替えて打つといった闘い方も可能だ。
正直、この機能は嬉しい限りだ。出来れば人を斬るなんてことはしたくないしな。
練習次第で、もっと色々出来そうだ。
「ありがとう、アダマの親父さん。
大事にするよ。この……」
「…アダマスブレード、それがそいつの名だ。」
瞬間、盛り上がっていた宴会の場が静まり返った。これはいったい…
すると、アダマが沈黙をきるように、
「今夜は呑み明かそうぜおんどりゃぁっ!」
その一声で宴会は再び盛り上がりを取り戻し、その夜、俺は記憶がなくなるまで呑み明かしたのであった。
……
朝……か? 頭がクラクラするぞ、時間は?
まだ夜中か。どれくらい呑んだ? 駄目だ、記憶ねーな。
ここは……宿だな。誰かが運んでくれた、のか……ベッドがフカフカで気持ち良い……枕、まくら、
……あった……
ここの枕は柔らかくて気持ち良いな……
あたたかい……
…
後で聞いた話だが、鍛治職人が己の名を刻むのは生涯最期の作品のみだそうだ。
それはつまり【アダマスブレード】が
親父さんの最期の一振りだったということだ。
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