#9 道化師との遭遇
まふもふまふもふまふもふっ
「おかわり!」
「お、おう。」
まふもふまふもふまふもふっ
凄まじい食欲だ。これで既に四つ目だぞ?
まふもふバーガーはリーズナブルだけどしっかり腹にくるボリューム満点のハンバーガーで人気なのに、それがその小さな身体のどこに入るってんだ。
しかも口が小さくて、まふもふしちゃって。
「お、おかわりっ!」
まふもふまふもふまふもふっ
ミアは一つ食べる度に包んであった包装紙を丁寧にたたみ一箇所に重ねていく。そして物凄い勢いで次のハンバーガーを食べ始める。
「なんだか小動物みたいで可愛いですね~!」
ミルクは何故か嬉しそうに飛び回り俺の肩に着地した。俺はそんなミルクにポテトを一本やる。
ミルクにはこっちの方が食べやすいだろ。
まふもふまふもふ!
それにしても良く食うな、遂に十個完食……
「そ、それくらいにしておいた方がいいと思うぞ、ミア。……お腹壊すぞ?」
「えっ、ミア……? あぅ、し、仕方ないからこれくらいにしておいてあげるし?」
何故に上から目線なんだよ。
で、何を赤くなってんだか。愛称で呼ばれるのに慣れてないのかな?
……
浴室からシャワーの音が聞こえる。ミアとミルクが風呂に入っている間、俺はこの先のことを考えてみた。
ミアは何者なんだろう。
記憶を取り戻すにはどうすればいい?
とにかく明日、町を回ってみるか。
ミアについて何か手掛かりが得られるかも知れないしな。
……
暫くするとミアとミルクが風呂から上がってきた。ミアは宿のバスローブに身を包みスッキリした表情で俺に言った。
「シロ、デザート!」
満面の笑顔?
って、まだ食うのか?
デザートと連呼しながら俺の腕に抱きつくミアレアの胸は死ぬほど柔らかい。
ちびっこいくせに胸だけ立派に育ちよってからに……ちょ、押し付けるなって!?
「わかったから離れろって……ったく、ほれ、アポーの果実だ。ミルクと二人で食うこと。俺は風呂入ってくるから、それ食べたら寝ろよ?」
「はぁ~い。」「はいっ!」
はぁ、妹が出来たみたいだ。
先が思いやられる。
俺は脱衣所の鏡に自分の姿を映してみる。鏡に映るのは冴えないスーツ姿の男の姿だ。
俺はネクタイを外し籠に放り投げた。
籠に……あの……籠にすんごい可愛らしいパンティが放置されてるんですけど……?
これ……
……ミアの……え、つまり、えっと……
見なかった事にしよう。それが一番の対処法だ。よし、俺は何も見ていない。
……
俺が風呂から上がってくると、二人はスヤスヤと眠りについていた。
気持ち良さそうに仲良く眠ってる。
ミアの谷間にミルクが挟まっているのが気になるが……まぁ、柔らかくて気持ち良いのだろう。
なんだかミルクの口元が緩んでる気がするのは俺の気のせいか?
やっぱりこの妖精、変態要素ありだな。
もう寝よう。
……また床か。
静かな夜だな。
さっきまであんなに騒がしかったのに。
「——…」
ん? ミア? ……寝言、か。
……
朝の木漏れ日が部屋にさし、俺の眠りを妨げる。眩しい……だが、もう少し眠っていたい。
なんだか騒がしくなってきたな。
というか、眩しいな。光がチラチラと俺の目の前で往復するようにって……
俺が異変に気付き目を開けた瞬間、眩しい光が俺を襲った。思わず目を閉じて身体を起こす。
目を凝らすと、
朝の木漏れ日を小さな手鏡で反射させて遊ぶミアとミルクの姿が視界に入った。
「あ、起きたし! ほら!」
ミアは嬉しそうに言って俺を跨ぐように立っている。しかし、そのアングルは危険だ。
なんと言ってもバスローブの下は……
所謂プレーンの状態であってだな。
「シロも起きたし、ご飯だねっ!」
ミアは勢いよくジャンプした!
「あ、おい! ミア!? パン、パンツ!?」
バスローブはフワッと舞い上がる。
「…っ!!!!」
あーあ、だから言わんこっちゃないって……
な、何を怒ってるんですかミアレアさん!?
ちょ、待っ!?
「シロ~っ? エロしっ! 変態っ!」
……
くそ……なんで俺が踏まれまくるはめに……
パンツ履くの忘れたお前が悪いだろーが。
「私が寝ている間にパンツ盗んで何してたのシロ!? 酷いよシロ! 変態だし? それって変態なんだからね? エロシロ!」
「シロさまシロさまっ!? こ、こ、これはどういうことか説明をっ! ま、まさか谷間に挟まるミルクを見て発情したのでは?
そ、それなら言ってくれればミルクがっ」
面倒くさいな……非常に面倒くさい。
……
着替えを済ませ宿を後にした俺達は町を散策していた。どうやら町の男達は昨日の鉱山爆発の後処理に追われているようだ。
この町の男達は半数以上が鉱山で働いている。後半数はそこで採れた鉱石を用いて武器や防具を生産して王都へ売りに出したりしているみたいだ。
こうして町一丸で生計を立てているんだとミルクが教えてくれた。
これもタブレットの情報が元なんだがな。
軍用の武器なんかも作ってるなら、いい武器が手に入るかも知れないな。
それはそうと、俺は一夜にしこの町のヒーローになってしまったようだ。邪龍を倒した勇者だとか何とかで町行く人々に散々声をかけられた。
ちょうどいいから、声をかけてくる人にミアの事を聞いて回ったが皆は首を横に振るだけだ。
少し歩いて回ると、小腹が減ったとミアがうるさくゴネ出した。
仕方なく俺は出店に赴くことにした。
二人は町のベンチに待たせて一人で並んでいると、俺を呼ぶ声がした。
振り返ると、ゴツい身体に真っ白なヒゲの強面の男がそこにいた。とにかくデカい爺さんだ。
「お、お、おんどりゃぁっ、兄ちゃん! アンタがあの邪龍を倒したっていう勇者かいゴルアァ?」
掠れたガラガラ声の男は確かに俺に話しかけているようだ。とてつもなく濃いキャラに戸惑いながら俺は返事をした。
「あぁ、そうだけど。でも俺は勇者って柄じゃないけどな。アンタは?」
「おお! やっぱアンタが、おんどりゃぁっ! よくやってくれたなゴルアァ!」
「うわっ!?」
「すまんすまん! 口癖でなおんどりゃぁっ! おっと、儂はこの町で鍛治職人をしとる、【アダマ】ってんだゴルアァ!
町を救ってくれた勇者は何と丸腰だって聞いてな! 良かったら儂に剣を一振り打たせてもらえねーかなゴルアァ?」
周囲の人々がその言葉を聞いた途端、一斉に振り返った。視線が俺とアダマって男に集中する。
人々は口々に何か囁いているようだが。
そんな時だった。向こうから若い男が息を切らし走ってくるのが見えた。
「アダマさーん!」
「おんどりゃぁっどうしたんだっ血相変えてよ! ゴルアァおんどりゃぁ?」
「そ、それがっ…鉱山に落ちた雷で出来た大穴から真っ黒な液体が噴き出していて! なんかヌルヌルしてるんですよ!」
まさか……それってミルクのタブレットが言ってたガソリンと同成分の? 俺はその若者に言った。
「そ、その液体! 俺に見せてくれないか? 俺はその液体を探してここに来たんだ!」
「あ、貴方は勇者様。そういう事なら構いませんよ? 今、馬車が向こうにいるので帰ってきたらまたここに呼びに来ます。」
そう言って若者は忙しそうに去ってしまった。
するとアダマはヒゲをポリポリとかきながらやれやれといった表情で話を戻した。
「騒がしい奴だなぁ……で、どうするよ? 儂に頼んでもらえたら三日で完成させてやるしよ。
勿論、お代はいらねー! これは町からの勇者へ贈る感謝の気持ちと思ってくれや!」
すると周囲から拍手が沸き起こって、人々が口々に言うのだった。
「アダマさんの特注を打ってもらえるなんて! やっぱ勇者様は凄い!」
「世界一の鍛治職人、アダマ=ローレンの剣! 王国騎士ですら数人しか持たない伝説の一振りを頂けるなんて素晴らしいですね!」
この【おんどりゃおじさん】こと、アダマという男、凄い人だったんだ。
でもラッキーだな。
これで武器を買わずに済むし、三日もあれば鉱山でガソリンの補充も出来そうだ。当面は鉱山の修復作業を手伝うことにするか。
俺はアダマと約束を取り付けて、フランクフルトを三本買った。それを持ってミアとミルクの待つベンチへ戻ったのだが、少し様子がおかしい。
二人の前に、道化師がいる。
道化師はどうやらミアに話しかけているようにも見えるが……町のサーカス団か何かかな?
気味の悪い道化師は二股にわかれた三角帽子を被っている。
帽子の先には小さな鈴があしらわれている。
顔は真っ黒な仮面で覆われていて見えない。
笑顔と、泣顔が入り混じった、気味の悪い仮面だ。俺はその道化師に声をかけた。
「はいはい、俺達は行くから話はこれくらいにしてくれるかな? 道化師さん?」
「わぁ! 美味しそうだし!」
喜ぶミアをじっと見て俺の顔を見た道化師は華麗なステップで後退り、
『これはこれは、お連れ様でごさいますカ。いえいえ、わたくし、道化ゆえに子供達をあやしていたのでございますヨ。』
「あーそうか。ありがとな。でも、もういいぞ。」
『そーですカ、残念。それではわたくしはこれデ……また、お会いしましょウ。』
そう言って道化師は溶けるように消えた。
……? 何だったんだ? 異世界って色々変な事が起きてどこまでが常識かわからなくなってくるわ。
コイツらはコイツらで何も考えずに呑気にフランクフルト食ってるし。
消えるの、あまり珍しくないのかな?
とりあえず、さっきの若者が呼びに来るのを待つか。俺もフランクフルト……って、
「おい! ミア、それは俺の……って、もういいや、はぁ。」
「はへる? (食べる?)」
いえ、どうぞ食って下さい。
……
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