#7 オーロベルディの光
…………暗いな。
……
……そうか……俺、死んだのか。なんだ、死ぬ間際に見るっていう走馬灯、まだ見てないぞ?
そもそもあれって本当に見るものなのか?
……静かだ……
ミルクの声も、もう聞こえない、か。
無事かな……いや、無事じゃない俺が心配するのは変だな。
ミルクの事だから……逃げずにピーピー喚いているんじゃないか。それとも……案外サクッと逃げてたりして。出来ればそうであってほしい、
もっとちゃんと考えて闘っていたら……
ボス戦で後先考えずに突っ込んでMP枯渇で、はい負けましたとか、格好悪いにも程がある……
「ーぁっ!!」
……? ……この声は……
「——ぁっ! ……さまぁっ!
しっか——下さ…ーっ! シ——っ!」
光の糸? これは、いったい……
俺はその光の糸に触れた。その瞬間、視界に夜空と俺の顔を見て泣きじゃくる妖精の姿が映る。
スクール水着の妖精は、俺が目をあけたのを見て安堵の表情を浮かべる。そして再び大粒の涙をポロポロと零しながら俺の頬にしがみついてきた。
ミルクの身体はほんのりと熱を帯びている。
「……ミルク、俺は……」
「ううっ……シ、シロさまは死の宣告で死にましたっ、はい……」
「じゃぁなんで俺は?」
「ジョブアビリティでずっ……うっ、シロさまのジョブは【営業マン】です。何度断られても折れない心をアビリティに変換したことにより生まれた【折れない心】というアビリティです。
戦闘中、一度だけ自動復活出来るというシロさま専用のアビリティです。」
自動復活……そうか、その一回が発動して死の宣告を回避出来たってことか。とはいえ、HPゲージは真っ赤で油断は禁物だ。
さて、どうする。
回復魔法もMP枯渇で使用不可能、大天使の翼も勿論使えないときた。あいにくMP回復用のアイテムは持ち合わせていない。
それに、初期アイテムの回復薬も三つしかない。これはあの子に使わないと……
そんな状態で……今の俺に、
あの高さの角を砕く事が出来るのか?
「シロさまシロさまっ! 瀕死状態の今なら秘奥義を発動出来るかと!」
秘奥義?
ミルクの説明によるとプレイヤーのHP10%以下でのみ発動可能な【秘奥義】が存在するらしい。因みに秘奥義はLV77で習得可能だとか。
たしかにメニューに項目が増えているな。
秘奥義、【インペリアル=レイ】か。
光属性の秘奥義の一つで巨大な魔法陣から光の雷を落とす単体に特化した攻撃魔法……
特に魔属性には効果覿面で、稀に即死効果まで付与するおまけ付き。
多分、あの邪龍は魔属性だ。
これに賭けてみるしかないようだな。
俺は迷わず項目をタップした。
すると全てのウィンドウが一斉に閉じ、眩しい光が俺の身体を包み込んだ。
イメージが頭に流れてくる。俺はそのイメージ通り空に向かって右手を振り上げた。そしてその右手を左手で支えるように構える。
空の雲が渦巻き、綺麗に晴れていく。そして雲一つなくなった夜空には巨大な魔法陣が描かれた。
後は完成次第、標的を攻撃してくれる。
「カウントダウンは十秒だ。……よし、ミルク! あの子を連れてここから離脱する!」
「ひ、ひえぇっ! ま、待って下さぁ~い! シロさまったら~!」
魔方陣は間もなく完成か。
俺は地面に投げ出されたビジネスバッグを拾って埃をはらう。
そして、血に濡れた少女を抱き上げとにかく走った。脱出するには鉱山内部の採掘場を通り抜ける他ないみたいだ。
とにかく今は死ぬ気で走るしかない!
すると頭上でとてつもなく激しい爆発音が鳴り響き地響きが起きる!
インペリアル=レイか……!
ミルクはタブレットで邪龍の撃破を確認したようだ。まさか角を破壊してそのまま撃破までするとは驚いた。秘奥義、伊達ではないようだな。
しかしここからが問題だ! 何故なら、
「シロさまシロさま! 大変ですっ! なんだか後ろの方が崩れてきてますっ!」
こういったお決まりの脱出演出が起きると思ったよ! くっそー!
「見ればわかる! ……トロッコ? くそっ乗るしかねーよな! 嫌な予感しかしないけど!」
俺は目の前のトロッコに飛び乗り無我夢中でロックを解除する。
後方から壁が崩れてくるのが見える。
これはマジでヤバいやつだ。
トロッコは物凄い速さで山を降る! 跳ねて! 跳ねて、また跳ねながら! 急カーブを何度も繰り返しては……一気に急降下するっ!
「ぬがぁっ!?」
ミルクが吹き飛ばされないように左手で支えながら屈んでいるとトロッコが再び大きく跳ねた!
光が見えた……!
「わぁっ! 綺麗ですっ!」
視界には赤煉瓦造りの建物が建ち並ぶジェムシリカの光が映る。
その光景は今まで見たイルミネーションの中でも最高のものだった。夜景をこんなに綺麗だと感じたのは初めてだ。
逃げ切れた開放感からか自然と声を出してしまうくらいに綺麗だ。
「って、うわぁっ落ちる!」
脱出成功と共にトロッコは地面に叩きつけられ大破。で、俺達は見事に地面に投げ出された訳だ。
「痛ぅ……くそ……あっ、あの子は!?」
俺は立ち上がり地面に力無く転がる少女を抱き上げ必死に呼びかけてみた。
しかし反応はない。
身体は……大丈夫だ。まだあたたかい。
……脈も、ある。
俺はビジネスバッグから回復薬を取り出し、少女の口に流し込んだ。しかし、口から回復薬が溢れてしまう。
意識を失っていて飲めないのか?
ならばと少女の頬を掴むようにして、もう一度回復薬を口に流し込む。
溢れないように手のひらで押さえて無理やりにでも飲みこませた。少女の喉がゴクリと鳴る。
よし、いい子だ。もう一度……
小さな身体を震わせた少女の傷は少しだが徐々に回復していく。
良かった、ちゃんと効いてる。
俺は同じようにもう一度、少女の口に回復薬を流し込み、手のひらで塞ぐ。
それを何度も、何度も繰り返した。
ミルクは俺の膝の上で心配そうにそれを見つめている。時折羽をパタパタと羽ばたかせては「頑張って!」と声をかけている。
ペチャパイ呼ばわりされても心配出来るミルクは本当に優しいんだな。こりゃ起きたらマジで謝らせないとな。
覚悟してろよ、銀髪ロリ少女!
……
「よし、これで命の危険はなくなったと思う。とにかく一旦町へ降りて医者に見せよう。
宿をとってこの子を楽な体勢にしてやらないとな。ミルク、宿の情報とか出せたら確認しておいてくれ。なるべく早く横にしてやらないと…」
「シロさまっ! ふふっ!」
ミルクは悪戯に笑い俺を見つめる。
「な、なんだよ……?」
「いえ。シロさまって、顔に似合わず優しい方なんですね! ミルクは感服ですっ!
さ、急ぎましょう! 勇者シロさま!」
ミルクは大きなおしりをこちらに向けて町の方へと飛んでいき、クルッと振り返って「はやくはやく!」と、手招きをする。
「顔に似合わずは余計だ!」
両手で抱き上げた少女の息遣いは安定している。
傷も完全ではないが、
何とか出血は止まったようだ。
しかし、軽いな。ちゃんと食べてるのか?
少女の顔から少し視線を下げるとそこには揺れる立派な果実が二つ、たわわに実っていた。
前言撤回、
ちゃんと食ってなきゃ、こんなに立派には育たないよな。
……
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