#6 オーロベルディの闇
「シロさまシロさまっ! 急がないとっ!」
「お、おう。そうだな! ミルク、俺のポケットに入って掴まってろ!」
「はいっ!」
俺はメニューを開く。このスキルなら。
「大天使の翼、頼む。俺をあの場所まで連れて行ってくれ。」
スキル【大天使の翼】
使用者に一時的飛翔能力を付与する光属性の上位補助魔法。スキルを使うのは不思議な気分だ。
タップした瞬間に俺の頭の中へ流れ込んでくる技のイメージ。
知らない事柄が、知っている事柄に書き換えられる感覚というか……
脳に直接インストールされていく感じ。
俺の背中には光輝く七枚の翼。これが、大天使の翼か。——意識を集中させると一枚一枚自由に動かせるのが分かる。何とか使えそうだ。
「ふり落とされるなよ!」
俺は翼を広げて飛んだ。
今更だけどやっぱり驚いた。何せ空を飛んでいるんだから当然か。
モーシッシ大森林ってこうやって見るとめちゃくちゃ広いんだなぁ。あれは……ジェムシリカか。
町の人が俺を見て騒いでるな。そりゃそうか。
空飛ぶ人間みたら俺も同じ反応するだろうしな。っと、それよりも……
あそこか。オーロベルディ鉱山!
「シロさまシロさま! あそこ!」
いた! 邪龍だ!
俺は邪龍の降り立った頂上へ着地した。邪龍は俺達に気付いたようだ。
あの子は……あそこか。
少女は地面にうつ伏せで倒れ伏せている。
意識は……駄目か。
まさか……いや、考えるなって。
その時だ、
俺の鼓膜が激しく揺れるのを感じる!
咆哮……っ!? 凄まじい衝撃だ!
その見えない衝撃派で飛行のバランスが崩れそうになる。これは危険だ。
「ミルク、離れてろ。」
ミルクは頷きタブレットを持って俺の後ろへ回避した。そして、
「シロさま! 邪龍は攻撃手順通りに攻撃しないとダメージが通りませんっ! まずは三つある頭の角を破壊して瘴気を祓って下さいっ!」
頭を狙えと……やっぱ武器いるよな。
俺は周囲を見渡してみた。すると鉱山で使用されていたピッケルが転がっているのを見つけた。
アレでもないよりはマシか。
すかさずそれを回収し、一気に跳躍して邪龍の左頭にピッケルをぶっ刺してやった。
俺の身体に生暖かい液体が降り注ぐ。
か、返り血か……気持ち悪い……
そんな思考を吹き飛ばさんと邪龍は強烈な咆哮を放ってきた。 その衝撃波をモロに喰らった俺はバランスを崩し見事に地面を跳ねる。背中に激痛が走り一瞬視界がボヤけた。
俺はすぐに立ち上がり再び大天使の翼を発動させたのだが……身体全体に激痛が走る……
頭上に表示されたHPゲージが削られていく。しかも一定時間に少しずつ、確実に……
これって……まさか!?
俺は先程浴びた邪龍の血の跡を見た。皮膚に染み込むように俺の身体を侵食しているかに見える。
痛みの原因はこれか。
毒みたいなものか……くそっ、
とにかく何か解除する方法を考えないと。
俺がそんな事を考えているとミルクが慌てて降りてくる。あたふたしながら羽をパタつかせるミルクはタブレット両手に言った。
「シロさま、大丈夫ですかっ!? あ、あの邪龍のステータスが一部発覚しましたっ!
邪龍アジ=ダハーカ、黒龍種の亜種で推定LVは120、あくまで推定ですが。
正体は古代より三頭の黒き悪魔として恐れられている伝説の黒龍です!三つの頭はそれぞれ、
【苦痛】【苦悩】【死】を司っているようで、今シロさまが受けているのはその内の苦痛の効果で厄介な継続ダメージですっ!」
やっぱりそうか。
LV120とか……ボーナスバトルなかったら手も足も出ない怪物じゃないか。運が良いのか悪いのか、これじゃわからないぞ。
アドバンテージは、あちらにあるか。
どうする……
邪龍は攻撃の手を休める事なく鋭い爪を振りかざしてくる。何とか反応した俺はミルクを握りしめて邪龍の頭上へ回避した。
そしてミルクを胸ポケットに入れて左頭に突き刺さったピッケル目掛けてスキルを発動させた。
ゆっくり説明を読んでいる時間なんて勿論ない。とにかくがむしゃらにやるしかない。
光属性の攻撃魔法、【フォトン】を発動した俺は左手を邪龍に向けそこに力を集中させた。すると光が俺の左手に集まり一つの光球を作り出した。
「撃ち抜け、フォトン!」
シュン! と光のレーザービームが俺の左手から放たれ邪龍の左頭を見事に貫いた! 角はピッケルと共に砕け、身体の痛みが消えた。
よし、いける!
これでまず一つ。続けてフォトンを右頭目掛け放つとこれも見事にヒット。
こちらの角も砕けた。この技いいねぇ!
邪龍は堪らず地面に落下した。これはチャンスだ。このまま三つ目の角も……
……!! なんだっ……!?
邪龍の眼が真っ黒に光った……?
駄目だ、意識をしっかりもたないとヤバい!?
俺は邪龍との距離を取り一旦地面へ着地した。大天使の翼の効果が切れる時間でもあったからだ。
頭上のHPゲージはまだ余裕がある。
しかし、な、なんだこの表示は?
頭の上に数字 ……10……?
「あわわわっ大変ですっ!? シロさま、それは死の宣告ですよっ!」
「なっ、それってカウントがゼロになったら死にます的なやつか?」
《……9……》
「そ、そうですよっ! しかも喰らってしまうと相手を倒す以外に解除する方法はないです!」
ミルクはあたふたと慌てて飛び回る。
十秒しかないだと?
スキルでの状態異常回復は不可能……
つまり、アレを倒すしかない?
《……8……》
あの子は……駄目だ、全く動かない……くっ
《……7……》
迷ってる時間はない!
「大天使の翼っ! うおおぉぉぉっ喰らえフォトン! フォトン! フォトンッ!」
死んでたまるかっ! 死にたく……
死にたくないっ!
《……6……》
無数のレーザービームは邪龍を捉え貫いた。
だが、角を砕かない限り相手の弱点は露出されない。……ならば!
俺は夢中でフォトンを放ちながら邪龍の頭まで一直線に飛んだ。相手も抵抗して攻撃を仕掛けてくるがそれをかわしながら一直線に!
《……5……》
いける! 頭の目の前に辿り着いたぞ!
俺はゼロ距離でフォトンを充填しようと左手を伸ばす!
やった……! ……っ? えっ?
《……4……》
《……3……》
《……2……》
MP枯渇……だと?
そうか、フォトンは上位魔法……あれだけ乱発したらそりゃ枯渇するってか!
《……1……》
ドジを通り越して馬鹿だ……俺は……
「シロさまぁっ!」
ごめんミルク、
しくじっ、た……みたいだ……
《……0……》
そこで俺の意識は途絶えた。
……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます