#4 ボーナスバトル



 俺達が森でアポーの果実を摘んでいた時の事だ。その木に実って身動きの取れなくなったオッドアイの少女を見つけた。

 俺は少女を降ろしてやろうとしたが……


「シャーーッ!」


 威嚇された……猫かよ。もう一度っ


「シャーーーッ!!」


 これじゃ近付けないっての。


 というか、この子の目線と俺の目線は殆ど変わらないといった事実。

 つまりは、大した高さではないという事。この子の身長がもう少し高けりゃ地に足が着くくらいに低い位置であってだな。


「降ろしてやるからじっとしてろって。」


「……プンッ!」


「はいはい、あからさまに怒った顔をしない。」


 しかし強情だなぁ。


 と、その時だった! 引っかかっていた枝がバキバキと音を立てた! そしてっ……!


「危ないっ!」


 そう思ったのは束の間。


 目の前の少女はちょこんと地面に着地した。

 そして少し驚いた表情で大きな目をパチクリさせている。


 で、何故かこの上ないドヤ顔で俺を見上げてるんだが……そのドヤ顔は何ですかね?


 俺がそんな事を考えていると目の前の女の子が腰に手を当てて胸を張る。

 小柄な身体にそぐわぬ立派なアポーの果実が揺れたのを目で追ってしまったのは内緒だ。


「まぁ、こんなとこだし?」


 ……って、


「こんなとこだし? じゃねーの。大した高さでもなかったし、威張る事ではないだろ?」


「む、ウザし!」


「は?」


「ウザしって言ってるんだし! 私を誰だと思ってそんな口を聞いているのって、思ったりするし!」


 な、なんだコイツは……めちゃくちゃ生意気なんだが!?

 誰だとって言われてもな……


 俺は目の前の少女を観察してみる。

 確か、白いチュニックワンピースっていうのかな? 職場の女の子が雑誌見てそんなワードを吐いていたのが脳裏に浮かぶ。


 上からフワッと羽織るだけの丈が短い長袖のワンピースの胸元は少しあいていて、その少し下に真っ黒な紐リボンがあしらわれている。


 ふんわりとしたフォルム、

 それがファッションに疎い俺の最大限の表現だ。


 さて、

 地上に降りてわかったのは『コイツ』の身長が思ったより低いということか。


 俺より頭一つ以上は低いということは、

 多分150ちょいってとこだな。もしかしたらもう少し低いかもな。


 覗けば顔が映り込みそうな銀色の髪は腰のあたりまで綺麗に伸びていて、先の方は二つの黒い紐リボンで結っている。で、

 ぴょんと跳ねたアホ毛が時折吹く風で揺れる。


 少し病的にも見える真っ白な肌、そのくせ頬はほんのりと赤みを帯びている。


 よく見たらハーフっぽい感じで可愛い顔をしているな。これぞ異世界少女、か。

 残念ながら性格に難あり、だがな。


 そんな偉そうな銀髪少女にミルクが声を荒げて言い放つ。


「ちょっと貴女! 助けてあげようとしたのに、その態度はなんですかっ!

 シロさまは勇者になる方なんですからね? 魔王だってチョチョイのチョイッて倒しちゃうくらい強いんですからっ!

 感謝されても悪態をつかれる理由なんてありませんよっ! 素直にありがとうって……」


「む、勇者?」


 目つきが変わった……?


「む、無視!? シロさまシロさまっ!

 こんな失礼極まりないロリッ子なんて放っておいて先を急ぎましょう!」


「も~っウザし! ペチャパイのくせに生意気だし! 魔王を倒す? 笑わせないで! そんな事出来るわけないし!」


「ぺ、ぺぺペ!?」


「ペチャパイ! 何度でも言ってあげるし! ペーチャ、パイ! ペーチャ、パイ!!」


 うわぁ……極めてウザいな……


「ひ、ひ、酷いでずぅ~気にしてるのにーーっミルクのことをペチャパイ尻デカ女って! ふえぇ~ん、シロさまシロさまぁ~っ!」


 いや、尻デカまでは言ってないぞ?


 ミルクはショックのあまり俺の胸ポケットに飛び込み丸くなってしまった。


 確かに少し言い過ぎだな。

 ミルクは胸もまな板でお尻は立派だが、それでも一生懸命生きてるんだ。たぶんな。


 それに貧乳だって最近は需要があるんだ。これは少し説教してやらないと。


「こらお前……ちゃんとミルクに謝れ。でないともう一度木に引っかけるぞ?」


 俺が言うと少女はプイッと横を向いた。

 限りなく生意気だな。


 少女は俺との距離をとり足をパッと広げた。

 で、腰に手を当てこの上ないくらい生意気な顔で俺を指差す。


「貴方もアイツの仲間だし……それなら! 私がパパ様の代わりに闘うし! 覚悟っ!」


 はい? これってもしかして……

 強制イベント発生みたいな展開ですかね?


 俺の頭上にHPゲージが……

 強制的にバトルに移行した?


 だからって、こんなちびっ子相手にしろって? 異世界とはいえ女の子殴るのは抵抗あるっていうか……って、言ってる側から襲ってきた!?


 少女は両手をブンブンと振り回しながら襲いかかってくる。しかしこのスピードなら俺でも楽に避けられそうだな。てな訳で、

 それをヒラリとかわすと、少女はクイっと旋回して再び迫ってくる。それならばと、俺も再びヒラリとかわしてやった。すると、

 少女は少し蹌踉めきながら何とか旋回しては頬を膨らませ迫る。しかしながら俺はそれを軽くかわし、後ろ頭をツンと突いてやる。

 するとすると、


「うぅ~ウザしウザしぃっ!」


 少女は垂れ目がちな瞳に涙を溜めながら頬を赤らめ、凄い形相で迫る!


 そんな顔されたら避けられないだろ。


 とか考えていると、遂に少女の攻撃が俺にヒットするのだった。しかしまぁ、


 半端なく弱ぇ……!


 相当な事がなければやられる事はなさそうだ。現に俺のHPゲージは殆ど減っていない。


 俺は少女の両手を掴み拘束した。

 どうやら振り解こうと抵抗しているようだが、この程度の力なら簡単に制する事が出来た。


 すると丸くなっていたミルクがポケットから顔を出し、ここぞとばかりに言った。


「ぷぷっ、大口叩いていた割には弱っちいんですね~っ!」


 ミルクが嫌味を放つと心底腹が立ったのか、顔を真っ赤にして少女は騒ぎ出した。


「…は、放してぇっ! こ、こんな事してっ……知らないんだから! パパ様に言いつけてやるしっ!

 ぺしゃんこにされちゃうんだし!」


 俺は今にも泣き出しそうな少女の手を放してやった。これ以上虐めても仕方ないしな。


「はいはい、わかったから子供は家に帰れ。こんな森で遊んでると魔物に襲われるぞ?」


「こ、子供じゃっ……」と、言いかけた少女は言葉を呑み込む。で、思ったより素直に

「……わかったし。」と頷いた。


 と、思いきや!?


 パッと顔をあげ俺を上目遣いで見つめる。淡い桜色の瞳が光を放ち、その光が俺の視界を一瞬だけ奪った。


 ……なんだ、今のは?


 少女は口元を緩め本日二度目のこの上ないドヤ顔を炸裂させながら言った。


「かかった、かかったしぃ! これで貴方は私の操り人形だし! 私が命令するまで動けないし!」


「……っ!?」


 何だとっ!? か、身体がっ


「さぁ、どう料理しちゃおうかな~?」


 目の前の少女は身体を左右に振って悪戯な笑みを浮かべている。


 しかしだな、身体、動くんだけど。


 俺は手刀で調子に乗っている少女の頭にチョップを打ち込む。若干イラっとしたのもあり少しばかり力を入れ過ぎた。


 少女は「きゃんっ!」と尻尾を踏まれた犬みたいに鳴き地面にへたり込んだ。

 そして頭を抱えて俺を見上げる。


「うぅっ、なんで~……私の魅了が効いてないし……痛ぅ、乙女の頭にチョップなんかしてサイテーだし。うぅ、ここで死ぬんだ私……


 く、悔しいけど負けたし、殺しなさいよ……」


 割りかしマジな表情で少女は言った。もしかして本気で死を覚悟しているのか?


 震えてる……

 えっと、何この罪悪感。俺が悪いのか?


 というか、

 あの光、魅了だったのか。全然効果なかったけど大丈夫か? コイツ……


「別にとって食ったりしないって。」


 お、ゲージが消えた?

 どうやらイベントはここらで終了のようだな。

 戦闘にも勝利したみたいだ。


 へたり込んでいた少女はフラリと立ち上がっては数歩後退りして、顔を真っ赤にしながら言った。


「な、情けをかけられるなんて!

 く、悔しいし~っこ、ここで私を殺さなかったこと、こ、後悔するんだし!」


 銀髪ロリ少女はそう言い捨てては俺に背を向けて走った。が、しかし、

 石ころにつまずき豪快に顔面から転ぶ。ズザザと数センチ滑っては起き上がり、砂埃をササっとはらっては今度こそ、森の奥へと走り去った。


 すると、

 戦闘で獲得したEXPが目の前に表示された。



 ◆獲得EXP 【99999999】


 ◆獲得G   【1】


 お、おい、何だこの数字は?


 そう思った瞬間、俺のレベルが一つ上昇。そして間髪いれずにもう一度、レベルアップ。

 レベルアップ、レベルアップ、レベルアップ。

 ひたすら俺のレベルが上がっていく。


「シロさまシロさまっ!? こ、これはいったいどういう事でしょうかっ!?」


 ミルクは慌てて飛び出してはタブレットを取り出した。そして状況を把握すべく電源を入れた。

 その間も俺のレベルは上昇の一途だ。


 もしかして、今のバトル……とんでもないボーナスバトルだったんじゃ?

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