#3 木に実った激おこ少女




「ふぅ、やっと風呂に入れる。……で、なんでお前が男湯の方にいるんだミルク。」


「シロさまシロさまっ! ミルクはシロさまのガイドですからっ! シロさまの変態願望を満たす為にミルクはここにいるんですよっ!」ドキドキ!


「何プレイだよそれ……それとドキドキすんな。お前の方がよっぽど変態だろ。何を想像して頬を赤らめて口元を緩めてやがる……

 ほれ、お前はあっちだ。おっと、その格好じゃよくないな。待ってろ、今変えてやるから。」


 俺はメニュー画面の【着せ替え】でミルクの衣装を【バスタオル】に切り替えてやった。瞬く間にスク水からバスタオル一丁の姿になったミルクは豆鉄砲でも撃たれたかのように目を丸くしている。


 俺はそんなバスタオル姿の妖精の首根っこを掴み女風呂の更衣室へと投げ込んだ。上の方が吹き抜けになっているのだ。

 ミルクは綺麗に帆を描き向こう側へ飛んでいった。


 これでゆっくりと風呂に入れるな。


 ここ、【カーネリアン】は知る人ぞ知る温泉の名所だそうだ。それを知ったからには宿に泊まって入りたくもなるってものだ。


 初期の所持G《ゴールド》もそれなりにあるし、初日くらいはゆっくり異世界を堪能しよう。因みにゴールドってのはこの世界におけるお金の単位を表す言葉だ。


 俺はタオルを腰に巻いて浴室のドアを開ける。すると、ヒヤッと冷たい空気が吹き抜ける。


 露天風呂だったのか……こりゃ中々いい。


 自然の多い村だと思ったが宿の風呂が露天風呂なのは驚いたな。しかも温泉で貸し切り状態ときた。


 俺は頭を洗いその後に身体を念入りに洗った。で、シャワーで泡を流す。


 あぁ、最高だ! お湯加減はどうかな?


 疲れた身体を岩で囲われた湯にゆっくりと沈めると冷えていた身体は一気にあたたまる。


 おお!! 極楽とはこの事か!


 俺、ここに住もうかな。


 そんな事を考えていると、隣から声が聞こえてくる。ミルクの声のようだが何やら騒がしい。


 ……


「あわわわ……」


「あら~可愛いわね~! 妖精ちゃん、こっちで一緒にお湯に浸かりましょうよ~!」

「あたし、妖精を生で見るの初めて! 小さくて可愛い~っ!」

「ほら~そんなとこで小さくなってないで、洗ってあげるからバスタオルなんか取っちゃいなさい~? えいっ!」

「きゃ~っ、いい、お、し、り! さぁ、隅々まで洗ってあげるわよ~!」


「ひえぇぇっ!? く、くすぐったいです~っ、だ、駄目ですっ、ミルクにはちゃんと殿方がっ…」


「あらあら~殿方ですって~、オホホホ~!」


「ノー!! マダムッ! ストップうぶぶっ!?」



 

 ……ドンマイ、ミルク。


 ……


 風呂から上がってきたミルクは部屋のベッドで伸びている。その肌は離れて見てもツルツルなのが一目でわかるくらいに磨き上げられていた。


 ……マダム、恐るべし。


「うぅ……もうお嫁にいけましぇん」チーン


 そう言ってミルクはベッドの真ん中で息を引き取った。じゃなく、眠りについてしまった。


 さすがにスク水で寝かすには少し肌寒いな。パジャマとかないのかな、どれどれ、


「ん? 【プレーン】って何だろ?」


 着せ替えの項目に気になるワードが……プレーン……プレーン? とりあえず着せてみるか。


 俺はそれをタップした。すると、


 何ということでしょう!

 ベッド上の妖精はありのままの姿に!



 ……っじゃねーよ? 変更変更っ!


 俺は慌てて【モコモコパジャマ】をタップ!

 プレーンってそういう意味だったのか。


 許せミルク。

 俺はお前の全てを知った。

 俺はそっとメニューを閉じて気持ち良さそうに眠るミルクに毛布をかけてあげた。


 えっと、俺は床ですかね? ま、いっか。




 ……

 

 翌日、俺達は軽バンでジェムシリカの町を目指していた。ガソリン確保の為である。因みにジェムシリカは鍛治の有名な町だとミルクが言っていた。


 しかしさすがは異世界、景色も中々だ。

 会社の軽なのが少し残念だけどドライブにはもってこいだな。


 これで助手席が水着美女なら文句はなかったんだがな~……


「むぅ……シロさま、視線がエロいです!」


 何を勘違いしたのかダッシュボード上の妖精が膨れてる。そんなミルクはおしりの食い込みが気になるようで頻りにそのラインをなおすような仕草を見せる。

 時折羽をパタパタする仕草も相まって落ち着きの『お』の字もない。


 そういや他の妖精達はちゃんと妖精らしい服装だったな。やっぱり固有システムのせいでミルクだけが水着妖精になったんだな。

 当の本人は全く気にしてないみたいだが。


「もう、シロさまったら!」


 引き続き勘違い中のミルクは頬を赤らめて俺の胸ポケットに隠れてしまった。


 間違ってもお前をエロい目で見た覚えはない、と言ってやりたいところだが、どうやら眠ってしまったようだな。


 ガイドする気ねーなコイツ。


 胸ポケットから首だけ出して眠る妖精はどんな夢を見ているのやら。


 ……


 途中、丘の上で休憩を挟み、その後は丘を下り森を走り抜ける。

 この軽バンのおかげで移動が快適だ。


 この森、【モーシッシ大森林】を抜ければジェムシリカの町はすぐそこである。


 ミルクはダッシュボードの上でハンバーガーに食らいついている。

 カーネリアンの村で買っておいた食材をメニュー画面の【料理】で加工したものだ。


 一度所持した事のある料理は量産出来る仕組みだ。しかし料理スキルのLVが設定されているから作れないものもある。

 ラッキーな事に一緒に転移してきた【まふもふバーガー】は料理スキルLV1の俺でも作れる。


 しかも作った料理もビジネスバッグに保管すれば腐らないときたから便利だ。

 食材さえ揃えればいつでもハンバーガーを食べられるんだから異世界は素晴らしい。今のところ俺が作れる料理はこれとポテトくらいだけどな。


 しかしミルクは小さい。まふもふバーガーにしがみ付いてかぶりつくがどうも上手く食べられないようだ。俺は見兼ねてハンバーガーを食べ易いサイズに千切ってミルクに渡してやった。ミルクはそれを両手で抱え嬉しそうに笑顔を見せる。


 こうして見ると中々可愛らしいものだな。


 ミルクはペタンと座り込み小さな口でハンバーガーを頬張る。パタパタッと時折羽を羽ばたかせる仕草は妖精特有の仕草なのか、それともミルクの癖なのか。


 心なしか口元が緩んでしまうな。こんな穏やかに日々を過ごすの、いつぶりだろうな。


 そんな事を考えながら運転していると赤い果実の実った木々が見え始めた。


 リンゴ、かな? それにしては大きいな。

 ……食えるのかな?


「ミルク、あの果実は?」


「はむはむ、あれは【アポーの果実】ですね! 話によれば中身は黄金に輝く絶品の果実と聞いた事がありますよ?

 シロさまっ、少しとっていきましょうよ!」


 まぁ、リンゴってとこだろうな。


 しかし食材は腐らないし、とっておくに越したことはない。この先、食い物に困る事があるかも知れないし。


 俺達は車を降りてアポーの果実を摘みビジネスバッグに保管していく。

 ミルクも一生懸命に実をとろうと奮闘しているが、上手くとれないみたいだ。見兼ねた俺はミルクごとアポーの実を摘み取る。


「わぁっ、凄いですシロさまっ!」


「いや、俺が凄いんじゃなくてお前が凄くなさ過ぎるんだよ。まぁこれだけ摘めばいいだろ。」


 と、その時だった。俺の視界に妙なモノが映り込んだ。ソレは木の枝に実っていた……


「シロさまシロさま? どうかしましたか? って……あれま、これは変わった果実ですね?」


「果実っていうか……女の子じゃね?」



 木の枝に、女の子が実っていた。



 というか、引っかかっている。何故、こんなところに女の子が? 異世界あるあるか?

 いや流石に異世界でも木に女の子が引っかかっているのは普通じゃないよな。


 その女の子は大きな瞳に涙を溜めて、俺達を睨み付けている。とにかく、めちゃくちゃ怒っているように見えるんだけど。


 いや、そんな事よりこれは……オッドアイ?


 【桜色】の左眼に【空色】の右眼。


 オッドアイの女の子をリアルで見るのは初めてだな。それに……綺麗な髪だな。

 鏡みたいな銀色の長い髪。流石は異世界といったところだな。


 そんな少女は膨れて涙を溜めている。


 まぁ、何があったか知らないが、この醜態を人に見られてしまったのは色々とショックだろうな。かなりシュールな絵だし。


 とりあえず、降ろしてあげようか。


 

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