#2 勇者候補と水着のガイドさん



 

 トラップ? ストリップ? ノンノン! トリップラジオ! でのやり取りを経て俺は遂に異世界への扉を開けた。というより、

 気付いたらそこにいた……

 俺は乗っていた軽バンから降りる。


「お前も一緒に来たのか……

 はっ、俺とお前には切っても切れない縁があるようだな。【ヨロシク号】。」


 俺は会社の軽バン、ヨロシク号のボンネットをポンと叩く。ナンバープレート4649、コイツとの付き合いはかれこれ四年、もはや相棒だ。


 辺りを見回すと、


 そこには俺より先にこの世界へ転移してきたであろう、ゴッドゲームのプレイヤーらしき人物が集まっていた。


 その場所は、協会のような造りの立派な建物だ。法衣に身を包んだ神官らしき男が一人と、綺麗なお姉さん方が数人並んで立っている。で、

 あと、転移者だが、


 まず、明るい茶髪を可愛らしい赤リボンで結ったふんわりツインテールが特徴的な女の子。彼女はラフな部屋着姿でそこに立っている。


 女子高生、いや…中学生くらいかな? 多分、部屋でゆっくりしていたのだろうな。この子もラジオでも聞いてたのかな?


 気弱そうな表情だが、顔立ちは色白で綺麗だ。

 細い身体にそぐわない立派な胸にどうしても視線が……男って不憫な生き物だな。

 大事そうに気味の悪いぬいぐるみを抱いているのが少し気になるが、そこは触れないでおこう。



 その隣で腕を組んでいるのは若い男子だ。短い黒髪の爽やかスポーツマン、といったところか。

 礼儀正しい話し口調で神官に質問をする姿が好印象な奴だ。


 男の俺から見ても普通にいい男と感じてしまう。高校生くらいかな。体操服をきっちり着こなした真面目そうな男だ。



 で、あとは無口で根暗そうな男がいる。

 正直、第一印象は良くない。説明を受けている間も気怠そうに横を向いている。


 多分、引きこもりかなんかじゃないかな。

 もしかしたら俺みたいに半ば無理矢理ここへやって来たのかも。あの女神ならあり得る。というか、皆んなそうなのかも知れないな。


 黒くて長めの髪は目を隠すくらいの長さで表情もろくに拝めないときた。

 散髪くらい行けっての。

 俺よりは歳下かな? わからん。



 で、俺達はそこでそれぞれのガイドを紹介された。そう、ガイドと言えば水着のガイドさん。


 俺は何気ない表情を装ってそのガイドさんの登場を待った。成り行きでガイドさんが水着仕様になったわけだが、少しばかり胸が高まってしまう。

 それと同時にドキドキする自分がちょっと恥ずかしくもなった。


 すると、俺の前にキラキラと何かが光っては、その光の粒が人の形を象っていくのが見えた。それはやがて手のひらサイズの女の子となり俺の前を忙しなく飛び交い始めたのだった。


 小さな半透明の羽を一生懸命に羽ばたかせ、俺の目の前で飛んでいる。…その子はつり目がちな翡翠色の瞳で俺を見つめて言った。


「シロさまシロさま! この度、シロさまのガイドを務めさせていただくこととなりましたっ【ガイド妖精協会】から派遣された、ガイド妖精の【ミルク】と申しますっ!」


 ガイド……妖精?


 褐色の健康的な肌、真っ白な内巻きショートヘア。そして左右非対称な前髪の妖精はしっかりと水着を着用していた。

 ……スクール水着だけどな。


 というか、前髪切るの失敗したのかな?


 スク水の褐色妖精……前髪切り過ぎ仕様?


 とてつもなくカオスな存在だな。


 妖精の頭には落ちそうで落ちない絶妙なバランスで小さな水泳帽が乗っかっていて、スク水のお腹の辺りには、ひらがなで【みるく】と書いてある。


 小さな胸に細い身体、立派なおしり。

 ザ・幼児体形のスク水妖精が俺のガイドさんだったようだ。


 まぁ、確かに水着の女の子ではあるな。


 他の勇者候補達の元にもそれぞれの妖精が充てがわれたようだ。妖精達は仲が悪いのかピーチクパーチクと騒いでやかましい。

 それを鎮めるかのように髭面強面の神官らしき人物が声を荒げた。その声で妖精達は一気に静まり返るのだった。


「ほらほらぁ~静粛にっ! んもぅ、これより、ゴッドゲームを開始するわよん。クリア条件はただ一つ、魔王の討伐ってことで宜しくね~。

 討伐にはいくつかの注意点があるんだけど~、説明が面倒なので各々現地で確認するように。

 とりあえず説明書ガイドブックもあるしねんっ…

 んじゃ、頑張ってね~ん! 応援してるわよ~」


 コイツらの説明は基本適当か。しかもまさかのオネエか。あんな髭面で……オネエか……


 髭面の神官らしき人物がお茶目に決めた瞬間、視界が暗転……

 いよいよ異世界での旅が始まるようだ。


 正直、不安しかないんだが。




 ……


 転移した先は見渡す限りの平原と舗装されていない道が一本だけ伸びるひらけた場所だった。

 俺はそこで簡単なチュートリアルを受けて近くの村へ向かうこととなった。


 徘徊する数匹の魔物を倒し戦闘時の流れは大方把握した。簡単な事で、相手の頭上に表示された黄緑色の横棒、つまりHPゲージを0にすればいい。

 HPが0になった敵にトドメを刺せば完全に撃破したことになるみたいだ。


 勿論、自分のHPも存在していてそれが俺の生命そのものだから常に残量を気にしながら闘えとミルクは再三同じことを言っていた。

 

 通常攻撃に関しては自由に行動して繰り出すイメージで普段通りだが、

 スキルの発動にはメニュー画面を開く動作が必要で少しばかりコツがいるみたいだ。


 この辺りは慣れが必要かな。


 ……


 因みに俺は軽バンのヨロシク号と一緒にここへやってきたわけだが……これはアリなのかな?

 移動が楽で快適だが、普通、こういうのってこの身ひとつで転移するものだと思ってた。


 チュートリアルを済ませた俺は近くの村へ向かって車を走らせる。ミルクはダッシュボードの上で羽をパタパタしながらおしりを突き出して騒いでいる。何がそんなに楽しいのやら。


 それはそうと、この世界は何かと便利がいい。持ち物は全てこの【ビジネスバッグ】に収納出来るのだ。取り出したい時はそれを思い浮かべて取り出すだけ。

 某国民的猫型ロボットのポケットみたいだ。


 因みにこの軽バンですら保管可能ときたから驚きを通り越して突っ込む気も起きない。


 それにさっきも言ったが、メニュー画面も存在する。目の前を二回、ツンツンと突くと半透明のウィンドウが開き、そこでアイテムの管理やステータスの確認も出来る。

 戦闘中はスキル使用をスムーズにする為、これを表示させたまま闘う事も可能だ。


 システムはゲームを模したものとする、それはあながち嘘ではないようだ。


「シロさまシロさまっ! シロさまの馬車は凄いですね! この馬車があれば移動も楽々ですっ!

 さすがはシロさまっ! 勇者になる男はひと味もふた味も違うのですねっ!」


 ミルクはダッシュボード上で時折羽をパタパタと羽ばたかせながら嬉しそうに言った。


 落ち着きのない妖精だ、なんかこう、ちょこまかと忙しないっていうの?

 妖精ってそんなものなのかな?


「これは馬車じゃなくて会社の軽バンだよ。名前はヨロシク号だ。移動が楽で助かるんだが、問題はガソリンがこの世界にあるか、だな。

 来る前に満タンにしておいたが、こう悪路が続くとすぐにガス欠になってしまうだろうし。」


 確か俺以外の候補達もぬいぐるみやら何やらと一緒に転移してきてたな。自転車もあったな。


 人ごとにシステムが少し違うのかも知れない。例えば俺のアイテムボックスはビジネスバッグだが、他の奴らは違うだろうし。


 たまたま俺はヨロシク号とセットだったわけ、か。もしかしたらラッキーかも知れないな。

 と、なると……やっぱ何とかガソリンを手に入れたいんだけど。異世界にそんなものあるか?


「なぁミルク、この近くにガソリンは売ってないのか? それかその代わりになるようなものがあればガス欠せずに済むんだけど。」


「そのガソリンというものがイマイチわかりませんが、少し調べてみますねっ!」


 ミルクは自分の身体と変わらない大きさのタブレットのような端末を何処からか取り出し電源を入れる。見たところ普通のタブレットっぽい。が?


「ヘイ、ミル?」

『ピピッ、ハイ、御用件ヲ、ドウゾ。』


 タブレットが喋った……ヘイSiri的なやつか。


「この世界に【ガソリン】というものはありますか?」

『ピピッ…イイエ、コノ世界ニハ【ガソリン】トイウモノハ存在シマセン。』


「なら、その代わりになるものはありますか?」

『ピピッ…現在検索中、、、、、ピピッ…

 …【ジェムシリカ】トイウ町ニ隣接スル鉱山ニ、同成分ノモノガ存在シマス。』


「……だ、そうですよ?」


 便利なアイテムだな。欲しいわそれ。

 それはそうと、

 同じ成分ということは何とかなるかも知れないぞ。こりゃ行ってみる価値はありそうだな。


 今夜はこの先のカーネリアンの村で一泊だ。


 明日にでもそのジェムシリカって町に向かってみるか。


 ……







 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る