なんと『魔王の娘』がなかまになりたそうにこちらをみている。〜約束、プロポーズは『異世界』で!〜
カピバラ
prayer【白】
#1 DJアルマのトリップラジオ
はじめに言っておこう。
俺は異世界からの帰還者だ。
そして今は世界各国を飛び回る旅人、
旅をする理由は、ただ一つ、
いつか交わした、
出来事の始まりはいつも突然、
俺の場合も例外ではなかった。
そして、
この出来事が、俺の平穏な日常を変えた。
いや、俺自身を変えたってところか。
……それは何の変哲も無い日常に起きた。
……
それなりの家庭の一人息子として生まれた俺は、それなりの高校を卒業して、それなりの大学を出て、それなりの会社に就職する、
……筈だった。
しかし現実は甘くなかった。
俺の入社した会社は超が付くほどのブラック企業で休み無し、残業手当無しという生活を強いられていた。
俺はそんな会社の営業として死に物狂いで働いた。それは両親が無理をして大学に通わせてくれたからだ。簡単に辞めるわけにもいかない。
そもそも俺はあまり営業向きの風貌ではないのだが、希望の製造部ではなくまさかの営業部へ配属された。
毎朝鏡に映る自分を見て思う。
つり目がちな一重の細い目は目付きが悪いと皆の評判だ。同僚の提案で前髪をオールバックにして明るいイメージを出そうと努力はしているのだが…厳つさに磨きがかかってるような気がする。
ま、この髪型、気合い入るから俺的には気に入ってるんだが。
悪いのは所謂この目つきだ、うん。
二◯XX年 とある夏の日、
俺は今日もハンドルを握る。会社の軽バンを走らせ、朝から休憩もせずに得意先へ出向き、作り笑いを振り撒きながら。
得意先の事務員さんに挨拶をする度に身構えられるのにはもう慣れっ子だ。
この満面の笑みを見て身構えるとか……
どうかしてるわ。
おっと、ガソリンが尽きそうだ。とりあえずスタンドに寄っていくか。
俺は経費で燃料を満タンにした後、町のハンバーガーショップへ向かった。
そして華麗にドライブスルー。
そのまま軽バンを走らせて向かった先は海のよく見えるお気に入りの休憩スポットだ。
しかし車内は灼熱地獄……
俺はネクタイを緩めてシャツのボタンを一つはずし、砂浜を眺めてみる。
夏休み中の女の子達が惜しみなく張りのある肌を露出させてはしゃいでいる。
こっちは休み返上してまで仕事してるってのに、あちらは夏の海を満喫か。いいご身分だな。
まぁ、悪態ついても仕方ないか。
実際、羨ましいかどうかと聞かれれば羨ましいに決まってる。俺も水着美女と遊びたい。
はぁ、暑いなぁ……
部長には経費削減でクーラーつけるなって言われてるが、昼飯の時くらいはいいだろ。
エアコンのスイッチを入れると、一瞬ヤニ臭い空気がモワッと吹き出しその後に涼しい風が吹く。
うん、快適快適。
さて、ハンバーガーでも食うか。
先程ドライブスルーで買ったまふもふバーガー、これがまた美味い。
ふっくらとしたバンズに分厚いパティ、特製ソースにトマトとチーズが絶妙だ。しかも、
セットにすればポテトとコーラがついてお値段たったの五百円、お財布にも優しい。
お、そうだ。ラジオも聞こう。
無音ってのもさみしいしな。
そう思って俺はラジオのスイッチを入れた。
しかし、
「あれ? 故障か? おかしいな……」
ラジオが故障しているのか、音が鳴らない。
と、その時だった。
車内に爆音で女の声が鳴り響く。
『呼ばれて飛び出る女神っ!
び、びっくりしたぁ……な、なんだ?
故障ではなかったみたいだな。ちょっとイラっとする甲高い女の声だ。
『さぁ、今日も元気に始めるよ! DJアルマの~、トラップ? ストリップ? ノンノン!
トリップラジオ!! はっじまるよ~!』
ん? 新番組か? 聞いたことないぞ?
『皆さぁ~ん? 退屈な毎日に飽き飽きしていませんかぁ~? そんな貴方に朗報ですっ!
遂にこの企画が帰ってきた!
そう! 【ゴッドゲーム】ですっ!
何ちゃらを持て余した神々の遊び、ですね!
異世界にトリップして~最初にクリア条件を満たした者には~、な、なんと! 主神さまから賞状と記念品を贈呈! 更にさらに~豪華特典も!? こ、これは逃す手はありません!
さ、行きたい人は手~あ~げて!』
……意味がわからん。他の番組は、と?
『ちょ! 待ちなさいよ! そこのちょっと顔のこわいお兄さんっ! 賞状と記念品、欲しくないの? 参加賞ももらえるし、生きてれば。
それはそうと! 優勝者の豪華特典とは!
何でも望みを叶えてもらえる権利! こりゃ~逃す手はないって! お兄さんっ! 異世界、行こう? あのっ……というかお願いします行って下さいっ!』
どうやら俺は、夢を見ているようだ。
女の声が俺に語りかけてくるのだから。
女の話を要約すると異世界転移の勧めである。異世界でゴッドゲームというゲームにプレイヤーとして参加してほしいといった内容だ。
自称女神のアルマが言うには、
・ゴッドゲームの参加者は四人、残り一枠
・クリアの景品は望み一つを叶えられる権利
・システムはゲームを模したものとする
・説明は現地で。
・急いでいるから早く決めてくれ!
・というかお願いします!
だ、そうだ。
早く決めろって言われてもな……
どうせ夢だし、適当に話聞いてやるか。
「で、そのゴッ……」
『わぁ! ありがとーーっ! 最後の一人が中々決まらなくて……このまま決まらなきゃ、ね、……おっと違った主神さまに叱られちゃうとこだったんだぁ、
あ、ごめんごめん!
お兄さんはそのまま何もしなくても大丈夫だよ! 私の方で手続きはしておくよ。うんうん、
それと、向こうに行けば異世界をガイドしてくれる女の子がいるから、わからない事は現地でその子に聞いてね! 説明書も一緒に送っとくよ!』
「あ、いや、まだ行くとは……」
というかわからない事しかないのだが!?
しかし女神には俺の声は全く届いていない。
そして勝手に話が進んでいくのだった。
『えっと……白のプレイヤーだから……よし、お兄さんの名前は【シロ】で決まり! あ! そ、そうだっ! ゴッドゲームに参加するプレイヤーには一つだけ好きな【固有システム】を追加出来るんだけど、何がいい? あ、急いでるから巻きでお願いっ!』
固有システム? なんだそりゃ? そもそもコイツの説明は全く意味がわからん。
好きな固有システム。
またゲーム要素が……
さて、どうするかね? 真面目に悩んでいるのが馬鹿みたいだけど。
俺はふと外を眺める。
砂浜には水着の女の子達……
「水着の女の子か。」
思わず言葉に……
『おっけいおっけい! 水着の女の子だね! それならガイドさんの着せ替え機能を追加しておくよ! デフォルトは水着ってことで!
はい、締め切りー! ごめんねマジで急いでるから許してにゃん!』
え? 何それ? 着せ替え機能って!?
おっと? 俺の身体が透けはじめたんだけど、こりゃいよいよマジだな。
俺、異世界に転移するみたいだ。あれ?
チートとかないんですかね? 着せ替え機能とか別にいいからさ……やば、完全に消えかけてる!?
あ、そうだ。
一応ネクタイ締めなおしとくか。
これでも営業マンだし? って、何考えてんだ俺は……流石にテンパってるっての!
『それじゃあ行ってらっしゃ~い! お兄さんの旅路に幸多からん事を! 以上、
トラップ? ストリップ? ノンノン! トリップラジオ! のお時間でしたぁっ!
DJは、天界屈指の美少女女神っ! 金色のアルマがお送りしましたぁ! それでは、来世でまたお会いしましょうっ! バイバーイ!』
……
こうして俺はゴッドゲームに参加する為、【シロ】として異世界へと転移したのだった。
半ば無理矢理、いや、強制的に、だ。
これが俺の物語の始まりだった。
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