第9話 投稿がままならない今日この頃です。

地下から地上に上るとさっきまで燦々と照り続けていた太陽は雲に隠れ、暑さが少し和らいでいた。

夏休みということもあり辺りは学生がうじゃうじゃといた。見知った顔の1つや2つありそうなものだが、そう都合よく知り合いは見当たらなかった。この暑さの中外でぶらぶらするのは賢明ではないのでこの辺で一番大きい商業複合施設に入る。


 30分経ってないくらいだろうか。こういう施設に入れば何かしらで時間は潰せると思っていたが想像以上にすることがない。ファッションとかに気を使う方でもないし。それといった趣味がないのがこういう時に災いする。


「ねえ、そこの君、ちょっと遊ばない?」


不意に近くから男の声が聞こえた。ナンパされたかと思ってびっくりしたがどうやらターゲットは僕じゃなくて僕の近くを歩いていた少女だったらしい。趣味が悪いかもしれないが、ちょうどいいので見物することにした。こういう時に彼女持ちの優越感はやばい。


「すいません、今急いでいて」


少女の方は残念ながら脈なしのようだ。ていうか、よく見てみると電車で隣にいた子だった。こちらに気づかれると気まずいので去った方がいいな。


「そんなのどうだっていいだろ。ね、遊ぼうぜ。俺、水野晃って言うんだけど、君は?」


まさかの男の方も知り合いだった。用事が何かも聞いてないのにどうでもいいとかやばいな。さすが水野だ。


「私は冬崎舞弥です。じゃなくて、わりと大事な用事を抱えてるんです。私の人間としての尊厳と誇りとプライドに関わる一大案件なんです」


少女、冬崎さんはスカートを押さえながら慌てた様子でそう言った。今の状況と先ほどの電車の中でのことを合わせて考えてみると1つの答えが浮かんできた。


「ちょっとよく分からないけど、じゃあ舞弥ちゃん、俺がその用事付きあってあげるよ」


なぜか偉そうに水野はナンパを続ける。名前を教えられたのを脈有りと捉えちゃったのかな?


「いえいえ、結構です」


冬崎さんは慌てて断わる。それもそうだろう。僕の予想が正しければ彼女は今ノーパンなのだから。トイレかどこかで脱いでここの店のどこかで替えを買う気でいたのだろう。無防備すぎる。クラスメイトの蛮行をこれ以上続けさせるわけにもいかないし、冬崎さんの事情を知ってる身としては止めに入った方がいいだろうな。


「嫌がってるだろ、もうやめとけ、水野」


2人の間に割り込み仲裁に入る。


「そのテンプレじみた言い草は町田か。邪魔をしないでくれるか?」


水薙との件もあり決して良好とは言えない間柄の水野は敵意の籠もった視線で僕を睨む。テンプレじみたって言われてもこれ以外の言葉は思いつかないのだが。


「お前、部活はどうした。お前んとこの顧問には黙っといてやるからここは引け」


水野がまともに説得して聞く相手じゃないのは知ってるので脅しに入る。部内で男女に分かれてはいるがうちの学校は無駄にプールが2つあるので水薙が部活な以上水野も部活なはず。水泳部の顧問は厳しい人だと聞いてるのでこれは効果覿面だろう。


「水薙と付きあってるからって偉そうに」


水野は悪態を吐きながらも諦めて去ってくれた。スペックはいいんだし性格をなんとか矯正されたらなぁと思う。どこか抜けてるのが人間なんだとわからせてくれるいい例だ。


「あのー、ありがとうございます。電車の人ですよね。えーと、はい、えー、あー、うん。お名前は?」


冬崎さんは電車の中でのことを思い出したのか赤面しながら感謝の意を込めて頭を下げてくれた。


「僕は町田弥霧。ま、僕のことはいいから行っておいで。急ぎなんでしょ」


お互いこれ以上いても気まずいだけというのもあり、冬崎さんは頭を再度下げると駆け足気味に去っていった。冬崎さんと別れた直後、携帯電話に着信が来た。相手は水薙だ。


『もしもし、先輩ですか?』


「はい、もしもし、先輩です。どうぞ」


『今日急に部活休みになったのでデート行きませんか?今はご自宅ですか?』


思いもしない朗報だった。良いことしたら良いことあるんだな。


「今は学校の近くのあそこにいる」


僕らの学校に通ってる生徒に学校の近くのあそこと言えばここと通じるレベルでここは我が校の生徒御用達なのだ。


『わかりました。すぐ行きます』


僕は水薙に現在位置を教えると通話を切った。ここは入って数分もせずつける場所なのですぐに会えるだろう。どこかベンチでもないか周りを見回す。


「遅くなりました、先輩。はぁ、はぁ」


ベンチを見つけて座ろうとしたタイミングで水薙が到着した。通話を切ってからまだ1分も経ってない。一応説明しとくと水薙がはぁはぁ言ってるのは興奮してるんじゃなくて息切れしてるからだ。


「早かったな」


「はい、はぁ、偶然ここの入り口前にいたので先輩に会いたい気持ちを抑えきれず全力ダッシュできました、はぁ、はぁ」


ガチの全力疾走だったのか水薙は息切れしながら言った。再度補足を入れるが、水薙のはぁは僕に話しかけられたことへのため息じゃなくて息切れだ。


「とりあえずそこに座って休憩して」


僕はベンチの方を指し水薙に座ることを勧める。


「はい、ご主人様」


水薙はその場で床に座った。脳に酸素が回ってないのかな?


「ベンチに座って、ばっちいよ」


僕が言い直すと、水薙はハッと立ち上がり赤面しながらベンチに腰かけた。


「今日、部活はなんで休みになったの?」


水薙の息が整い始めたのを確認してから水薙に話しかける。水野の様子からして水薙が部活だと勘違いしてただけってことはないと思うので単純に興味があった。


「なんか男子の方で夏休み入ってからずっと部活サボってる人がいたらしく怒って顧問が帰っちゃったらしいんですよ。そしたら、女子だけ練習ってのもアレなので急遽休みになりました」


水薙の口ぶりから部活がなくなった戦犯が誰かは知らないようだ。うん、水野ですね。だが、ここでは礼を言おう、水野。今日はお前のお陰で水薙とデートだ。


「先輩はどうしてここに?てっきりご自宅に居るかと思ってました」


水薙の目には先輩の行動パターンが読めなくて悔しいとありありと書いてあった。


「あの、町田さん、お待たせしました」


特にやましいことなどないので水薙の質問に答えようとしたその時、背後から僕を呼ぶ声がした。振り返ってみると、そこには冬崎さんがいた。パンツを買いに行ったにしてはやけに早いな。お待たせしました?


「あの先ほ、ひっ」


用件を伝えようとした冬崎さんは最後まで言う事は出来なかった。なぜなら、彼女の前には禍々しいオーラ全開の夜叉がいたからだ。


「先輩、彼女は?」


水薙は口調こそいつも通りだがその言葉には隠し切れない怒気があった。これが大きすぎる愛の代償か。やばいですな。所謂一つの浮気を疑われてるってことだよな。


「彼女はさっきそこで困ってたところを助けただけの関係だよ」


水薙にありのままの事実を伝える。何も間違いはない筈。


「しかし、彼女はお待たせしましたって」


弁明による効果か怒気が少し抑えられた。


「それは僕が聞きたい」


説明を求めて冬崎さんに視線を送る。


「あれ?私言いませんでした?今からトイレ行くんで少し待ってくださいって」


「言ってないな」


えー、はい、うんとか意味のない言葉が実はどこぞの民族の公用語でトイレに行くから待ってくださいって意味じゃないなら間違いなく言われてない。てか、トイレだったの?


「あれ?すいません。え、言ってませんでしたっけ?漏れそうでテンパってたので、記憶が曖昧ですいません。くそ、これもすべてワッサーのせいですね」


諸悪の根源ワッサーじゃん。冬崎さんのまとまりのない話を聞いて誤解だとわかってくれたようで水薙は怒気を完全に消していた。それで短時間で感情に温度差が出来すぎたのか若干ショート気味で少しボーとしてる。


「ていうか、パンツは?パンツを買いに行ったんじゃないの?」


「わーい、先輩大好き」


「へ?あー、ああいうことよくあるんで替えのパンツ持ち歩いてるんですよ」


「わーい、先輩大好き」


「よくあるの⁉︎」


「わーい、先輩大好き」


ちょっとショートした水薙の言葉が邪魔だね。水薙は持参したペットボトルから水分を取るとようやく冷静さを取り戻した。


「すいません、取り乱しました。私、最近先輩と会えないので少し焦ってたのかもしれません。先輩が私から離れてくんじゃないかって。部活終了の写真送っても既読ついてから返信まで遅いですし」


水薙はどうやら僕よりも会えていないことにダメージを受けていたらしい。それに僕が普段とは違う行動パターンをしてたのも合わさって浮気と勘違いしてしまったのだろう。


「僕もごめん。恋人がいるのにやらしい気持ちがなかったとはいえ迂闊に他の女性と関わるのはよくなかったね。あと、返信遅いのもそのごめん」


正直僕は悪くないと思ってるけど一応謝罪しとく。あと、返信遅いのは捗っちゃうから仕方ないよね。


「けど先輩、気をつけてください。あの冬崎さん、でしたっけ?彼女のヒロイン度は74。ほっとくと確実にNTRしてくるタイプです。ちなみに私のヒロイン度は530です」


「ヒロイン度って何⁉︎」


要約すると、「私以外の女の子を見ないでください」ってことかな?うん、かわいい。


「私、なんか散々言われてません?町田さん、気をつけた方がいいですよ。あなたの彼女、やばいですよ。ヤンデレの気質ありですし、最後にマウントとってくる感じがそのやばいです」


冬崎さんが謎の対抗意識を燃やして僕に忠告してくる。うん、大丈夫。薄々勘付いてる。


「先輩、ヤンデレって何ですか?」


純粋な疑問を持って水薙が僕に聞いてくる。


「うん、まあ、要はかわいいってことだよ」


素直にいうのは憚られるので適当にお茶を濁しとく。


「あのー、私は邪魔以外の何者にもなりそうにないので去りますね。町田さん、今日は本当にありがとうございました。お陰で脱糞現場を見られるのが一回で済みました。あの、これ私のメアドです」


冬崎さんはパッと紙切れにメアドを書いて渡してくれた。そして、それをなぜか水薙が受け取った。冬崎さんは苦笑いしながら去っていった。


「私よりも先に先輩とスカトロプレイを」


水薙は謎の怒りを見せていた。それを見て水薙って嫉妬深いんだなぁと思いました。あと、ヤンデレは知らないのにスカトロは知ってるんだと思いました。

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