第.話 よくわからない恐怖が僕を襲う!効果は微妙にバツグンだ!

 校門前の水薙の僕超大好き宣言は瞬く間に校内に広がった。教室の自分の席で座っているだけで視線が全方位から刺さる。

顔を上げると堂々と前から僕を見ていた女子生徒と目が合う。女子生徒は気まずそうに目をすぐに逸らした。よかったな、僕が目を合わせるだけで妊娠させる異能を持ってなくて。


「なあ、町田」


そろそろ視線に耐えきれずにトイレにでも逃げようと思っていると、そこそこ仲のいいクラスメイトの田中が話しかけてきた。


「なんだ?」


僕が話し始めると一層視線の圧が強くなった気がする。何、みんなそんな僕の一挙一動に注目してるの?僕のこと好きなの?某後輩は一週間僕を注視しただけですごい好意を抱いたぞ。この調子だと来週にはハーレムだな。名前、覚えきれるかな?


「お前、催眠術が使えるってマジ?」


アホみたいな質問だが、その中に冗談ぽさは全くなかった。さすがに泣くよ?



昼休み。半日も経てばいかに水薙がこの学校で有名で人気とはいえ所詮は他人、すれ違い様に怪奇の目で見られることはあるがあからさまな視線はほぼなくなった。


「先輩、噂によると催眠術が使えるってマジですか?」


待ち合わせにしていた屋上で水薙に会うと開口一番に言われたのがこれだった。


「使えるわけないだろ。それに類する異能も使えないぞ」


このくだりは今日、田中を筆頭としたクラスメイトと幾度と交わした。正直うんざりだ。


「その様子だと、やっぱり人目を引いちゃいました?すいません」


水薙が目に見えてしょんぼりする。うん、これも可愛い。


「大丈夫だよ。別に水薙が気にすることじゃないし、もう収束してきた。人気者の気持ちが知れてよかったよ」


まあ、もう勘弁だがな。


「そう言ってもらえると助かります。先輩のかっこよさにみんなが気づいちゃったら大変ですもんね。先輩は私だけの先輩です」


水薙が可愛いこと言ってくれるが、あいにく僕に半日で見つけれる魅力はないみたいだ。むしろ、水薙は僕のどこに魅力を感じてくれたのだろうか?


「野暮なこと聞いてもいいか?」


「エッチなことですか?」


聞き返す水薙の声が弾んでいるのは気のせいだろうか?


「それでいいなら是非ともしたいが、違う」


昼休みの屋上は夏の日差しを一身に浴びれる地獄スポットなので人は殆ど来ない。今日に限って言えば僕たちオンリーだ。そんな環境で可愛い後輩とエッチな話なんてしたら理性がいくつあっても足りない。残念だが、そういうのはもっと親密度を上げてからだ。


「残念です。それで何ですか?」


露骨にテンションが下がったのは気のせいじゃなさそうだな。まあ、今からの質問をハイになってテンションだけで答えられてもちょっと困るし、ちょうどいいや。


「水薙って僕のどこを好きになってくれたの?」


自分で言って少し恥ずかしい。自分の顔が赤いであろうことがよくわかる。


「恥ずかしいこと聞きますね、先輩は」


言葉とは裏腹に水薙は何故か誇らしげだった。


「朝のことがあったからな」


水野が頭おかしいだけってのもわかるし、意識しないようにしてる。それでも僕と水薙が釣り合ってないのは感じてしまう。だから、僕は多分安心できる要素が欲しかったのだ。


「そうですね。先輩のことは大好きで、詩にしたらルーズリーフが束になってファイルに入りきらない感じですけど、いざ口頭で言うのは難しいですね」


手を顎に当てうんうんと悩む水薙は当然可愛かった。まあ、悩むのは無理ないだろう。僕だって例えば好きなゲームの好きなところを言えって言われるとなかなか難しい。そして、惚れた腫れたは感情論だ。さぞ言語化が困難なことだろう。


「先輩ってよくもわるくも普通なんですよね」


悩んだ末の水薙の切り出し方は想像外のものだった。


「まあ、そうだな」


僕は容姿も学力も運動神経も並大抵。常識の範疇を外れた趣味もない。ラノベなら主人公になれても現実ではモブ。至って普通の男子高校生だ。


「けど、先輩は勉強もスポーツも大抵のことは人並みにできるんです。万能型なんですよね」


それは万能よりも器用貧乏という言葉がふさわしいと思うが、水薙の話に水をさすほどのことじゃないと思うので黙っておく。


「私は小さい頃からスイミングスクールに通ってて結構身体には自信があるんですよ。あ、なんかエロいですね、この言い方」


確かに僕も少し思ったが言わないでほしい。水薙はエヘヘと笑っているが僕がこれで笑ったら軽いセクハラ案件じゃない?どうですか?


「でも、私は不器用で成績も正直悪いです。要は身体だけの女なんですよ。それが私の中で若干コンプレックスだったんです。そんなとき、なんでも人並みにこなす先輩を見てたら憧れちゃったんです、多分」


「多分なのか」


「多分です。いつの間にか好きになっちゃったんですから。それに私が好きなのはなんでも人並みにこなす先輩だけじゃなくて先輩の全てですし」


羞恥心を知らないかのような笑みで僕を見つめる水薙を見ると、なんかこんな質問した僕がいかにバカだったかわかる。うちの彼女は可愛い。これでいいじゃないか。


「悪かったな、変なこと聞いて。昼休みも残り少ないしパッと飯食べようか」


僕も水薙も弁当派でここで一緒に食べるつもりで集まったのに変な質問で時間を浪費してしまった。


「まだですよ、先輩」


水薙が意地悪そうな笑みを浮かべる。おいおい、可愛いな。


「私、先輩が私のどこを好きなのか聞いてないです」


「マジか」


まさか、そう来るとは。


「マジです」


楽しそうに笑う水薙を見つめる。まあ、この可愛いさを伝えるだけだから、いとも容易い問題だ。問題は僕の国語力。人並みにしかない僕の国語力でこの水薙の絵にもかけない可愛いさを表せるかだ。

まあ、いうことは決まってる。


「僕が水薙を好きなのは、僕をまっすぐ見て好きって言ってくれるからだよ」


普通の男子高校生で美少女に真正面から好きって言われて惚れない朴念仁はいない。いるなら、職業適性に虚無僧とかありそう。


「さすが、先輩です。決めたように見せて割とありきたりなセリフです。でも、好きです、先輩」


満面の笑みで抱きついてくる水薙を優しく受け止める。うんうん、可愛い。


「僕も好きだよ、水薙。でも、最後に好きって言えば何言っても免罪符になるわけじゃないからね?」


なんか急にディスられてビックリしたよ。

その後僕たちは気の済むまで抱擁を続け、それから慌ててご飯を口に流し込む。時間がなかったので、会話もあまりなく、少し期待してたあーんイベントもなかった。残念。明日に期待。そして別れ際、


「私、今日も部活休みなので一緒に帰りましょうね、先輩」


可愛い彼女からの誘いだ。断る理由がない。あっても断らないけど。


「それで先輩。もしご迷惑じゃなかったらですけど、先輩の家に寄っていいですか?是非とも今日したいイベントがあるんです」


イベント?引っかかる言い方でやや急な話だが、まあ別にいいか。


「いいけど、今日親いるかもよ?」


いなかったからいなかったで問題だけども。


「ああ、大丈夫です。お母様は今日はお留守です」


「なんで僕も知らない家族の予定知ってるんだ⁉︎」


「彼女ですから。先輩のすべてを知ってたいですよね」


なんの悪びれもなく水薙は言うが少し怖かった。愛が重い。俗に言うヤンデレに近いのか?やばい、そう考えると可愛いな。


「という訳で、今日お邪魔してもいいですか?遅くはなりませんので」


「まあ、いいけど」


部屋きれいだったかな?ティッシュの処理したっけ?水薙の勢いに押される感じでOK出しちゃったけど大丈夫だよね?てか、母さんいないなら2人っきり⁉︎おいおい、マジか。これは、あれですか?肉体的なアレですか?いやでも、カクヨムって過激なエロ禁止だし、まだ早いっていうか。そういうタグをつけてないっていうか、え?え?

こうして僕は昼休みの後の授業を悶々として過ごした。授業に出てくる単語が不意にエロく聞こえたのは何故だろう。







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