第5話 謎が謎を呼ぶミステリー
「これが先輩の家ですか」
放課後、水薙は放課後の終わりに言っていた通り僕の家に来た。僕の家はよくある一戸建てで女子高生がうきうきわくわくする要素は皆無だがそれでも水薙は楽しそうだ。
「まあ、適当にくつろいでていいよ」
水薙をリビングに通すと僕はお茶を汲みに台所に下がる。うわー、なんか緊張する。水薙を信用してない訳じゃないけど、なんか目を離してたら何をするかわからなくて怖い気もするので急いで戻る。
「先輩、すごいですね」
僕と水薙はテーブル越しに向かい合って椅子に座っている。なんか水薙が我が家にいるとえらく不思議に思える。実際、付き合って2日っていうか知り合ってからも2日の女子を家に招くってだいぶ不思議な状況だよな。
「何がだ?」
この家に特にすごいと感想が出るようなことがあるようには思えなかった。あれかな?もしかして、すごい臭いとか?マジでそれだったら軽く死ねるよね。
「匂いですよ」
最悪の予想を笑顔で断定されちゃったよ。死んだ、死んだよ、僕の精神。よかった、精神と肉体がリンクしてる世界じゃなくて。
「あ、違いますよ。くさいとかじゃないですからね」
僕の死にっぷりを見た水薙が慌てて否定する。慌てぶりが可愛いいので僕の精神は蘇生しました。
「この家って当たり前ですけど、先輩の匂いとか先輩の匂いとか先輩の先輩の匂いで溢れてるじゃないですか」
「僕の匂いしかない⁉︎」
僕の匂い強すぎだろ。え、そんな匂うの僕?てか、先輩の先輩って何?
「先輩の匂いに包まれて私、おかしくなっちゃいそうです、いい意味で」
惚けた顔もまた可愛い水薙だったが、それでも少し引いた。ちょっとうちの彼女、上級者すぎない?
「あ、うん」
ちょっとなんて返したらいいかわからないので適当に相槌を打っておく。
「ところで先輩、一つ聞きたいことが」
「何?マイナンバーなら教えないよ」
「違いますよ⁉︎」
違うのか、よかった。この前知らないことはこれくらいって言ってたから。ワンチャン、家に来たのもマイナンバーを直接確認するため説があったからね。いや、マイナンバーの保管場所知らんよ。
「まあ、そりゃそうか」
聞かれて教えるもんじゃないし、知ってもどうともならないもんな。
「わざわざ家まで来たんですもん。聞きたいのは、先輩の好きな部首ですよ」
「いや、それこそ家まで来て⁉︎え、好きな部首?」
え、何?好きな部首?心理テスト的なアレなの?好きなブッシュとかの聞き間違いじゃなくて?いや、好きなブッシュの方が余計意味わからんけど。パパブッシュが好きとかないし。
「はい、好きな部首です。それだけはいくら調べても分からなくて」
「だろうね」
だって、人生で一回もそんな話したことないもん。
「いやー、先輩について知らないことはマイナンバーだけかと思ったんですけど、いざ付き合ってみると分からないことだらけです。世界は広いですね」
「なんて限定的な広さなんだ⁉︎」
ちょっと混乱してツッコミがよくわからなくなってしまった。
「さあ、何ですか、先輩の好きな部首は?氵ですか?冫ですか?しんにょう?何ですか?」
水薙が何かに期待するかのように僕を見つめる。え?これは何を答えるのが正解なの?え?フィーリングで答えていい感じ?
「しめすへん、かな?」
なんとなくパッと出てきた。微妙にかっこよくない?
「しめすへんですか、さすが先輩です」
水薙は大変お喜びのようだ。どうやら正解のようだな。いや、僕のパーソナルデータを知りたいだけで部首なんてどうでもいいのかもしれないけど。
「え?ホントにそれが聞きたくて家まで来たの?」
違うよね?その質問だったら直接会う必要すらないもんね。
「違いますよ、先輩。私が今日わざわざ来たのは先輩のアルバムが見たかったからです」
何が嬉しいのか笑みを浮かべて水薙は言った。ホント、なんか今日この子楽しそうだね。
「僕の幼少期までしっかり知っておきたい的な?」
言ってて思ったけど、うちの恋人の愛まじで重すぎない?これ、別れるとかなったらどうなるんだろう?そんな気さらさらないけど。
「ああ、いえ。別にアルバム自体はもう見たことあります」
水薙はさも当然のことのように言い切りよった。ヤベー、愛が重すぎてもはや一種のハラスメント。もう何で見たことあるかは聞かないぞ。聞いたらダメな気がする。
「でもならなんで見たいの?」
なんか僕と一緒に見ることに意味があるとかか?よくわからんけど。
「昔の写真に先輩と一緒に知らない女が写り込んでないことを確認するんですよ」
水薙は笑顔で言いきった。もうこれは狂気。なんか今日の水薙さん、ぱねぇっすわ。
「確認してどうするの?」
一応聞いておく。ほら、斬新なNTR的な趣味を持ってるのかもだし。
「いえ、先輩にそういう女性がいないことは知ってるんですよ」
そりゃそうか、見たことあるんだし。
「でも、それをこの小説中で再度確認する事で作者が書くのに行き詰まってテコ入れで幼馴染キャラを出すことを事前に潰せるんです」
「そんなこと考えてたの⁉︎」
確かに水薙についての情報はかなりこの小説内でも出たが僕についてはあまり語られてない。僕の周りの設定はいとも簡単に弄れるのだ。
「先輩は私とだけイチャイチャしてればいいんです」
まあ、僕も水薙以外とイチャつく予定はないけどさ。断る理由は一応ないのでアルバムを別室から持ってくる。もう長いこと見たことないので埃被っていた。何故この状態のアルバムを水薙が見れたのか本当に謎です。
「あ、先輩のアルバム見たことあるってのは嘘です」
だよね。リビングに戻ると謎は全て解けた。
「そう言っとけば先輩がアルバムを見せる抵抗が薄まると思って」
僕にはそもそも抵抗はなかったが、アルバムを見せたくない人は一定数いるだろうしわからなくもない考えなのか?
「別にそんなこと気にしなくていいのに」
「そうですか。まあ、ぶっちゃけ本当に見たことがあるって設定にしてたけど流石にサイコ過ぎるので作者が途中で設定変えただけなので」
「それは言わないでほしかった」
いろいろ思うところがあるが堪えてアルバムを水薙に渡す。僕もしばらく見てないし少し楽しみだ。
「では、失礼します」
そう水薙は一声かけると、ものすごく高速でページをめくった。そうまるでパラパラ漫画を見るかの如く流し見である。
「え?」
いや、あんなに見たがってて実際は見たことないんだよね?何がしたいの?
「不思議に思ってますね、先輩」
少し得意げに水薙がこちらを見つめる。不思議だなぁ、なんでうちの彼女さんはこんな可愛いのだろう。
「私、先輩に関することだったら一瞬でも見たら忘れませんよ」
「それ、凄すぎない?」
水薙は勉強できないとか言ってたけど、そのチートを使えば定期試験なんて楽々なのでは?完全記憶能力なの?
「自分で言ってて無理があったのでもう一回見てもいいですか?」
申し訳なさそうに水薙は言うと、今度は1ページずつ丁寧にじっくりその大きな目を開き刮目していた。何故そんな見栄を張った?
「先輩の幼少期の頃って、こうあれですよね。今の先輩を少し若くしたみたいな、そんな感じがします」
「事実そうなんだよ⁉︎」
なんというか語彙力が残念だな。
「可愛らしいですね、先輩は今も昔も」
うっとりとした目で見てる写真を見る水薙は性別が逆だったら完全に事案な表情だった。頰は緩みすぎだし、涎が垂れかけてるし。
「昔はまだしも今はそうでもないだろ」
「そうですか?先輩はとっても可愛いですよ」
これはあれか?最近のJ Kの語彙力のなさが生み出す魅力的なモノは全て可愛いで表現するという日本語の放棄行為ですかね?
「この時の先輩の下も可愛いですね」
「え、急に何⁉︎」
もしかして下半身丸出しの児童ポルノ的な写真があった?それとも、新手のセクハラ?
「妹さんの話ですよ?」
「あー、妹のことね、はい」
うん、妹のことを下のだけで表現する?
「妹さんと言えばそろそろ帰ってくる頃合いじゃないですか?」
まあ、僕が家に着いてから30分近く経ってるしいつ帰ってきてもおかしくはないな。水薙をどう説明するかね。まあ、親への箝口令をひけば妹になら紹介してもいいか。そのとき、玄関の戸が開く音がした。
「噂をすればなんとやらだな、帰ってきたみたいだ」
そのままドタバタと慌ただしい足音が僕らのいるリビングに迫ってきた。
「ただいまー、お兄ちゃん。エチオピアのボンゴレビアン…誰、その人?」
そのまま勢いよくリビングの戸は開かれ妹がリビングに飛び込んできた。当然、すぐに水薙の存在に気づく。
「水薙、紹介するわ。妹の汐菜だ」
水薙の表情から察するに知ってたな、これ。ところで、帰宅早々に始まるエチオピアのボンゴレビアンの話ってなんだったのだろう?
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