負け犬アベンジャーズ その7

 悪魔樹のすぐそばで、仕切り直しと言った形で並ぶ天使3人と屍神3人。

 状況はいまだ屍神側の圧倒的優勢であったが、アイネたちの闘志は、いまだ衰えを見せていない。

 そんな中、アイネの通信機にエルから連絡が入った。


『マスター、どうやら全て俺の読み通りになったようだな。褒めてくれていいんだぞ?』

「そのマスターに一番危険な役目を負わせてよく言う」

『まあな。それで、俺の助力は必要そうか?」

「いいえ……茜と葵、そして私の3人で何とかして見せる」

『ふっ、了解だ。短い間だったが、ありがとう…………マスター』


 これ以降、エルからの通信が完全に途絶する。それと同時に、エルへの魔力供給が外れ、莫大な量を使用していた分の魔力が一気に使用可能となった。


「ここが踏ん張りどころ。茜、葵、今のうちに深呼吸しときなさい」

「うん、お父さん。苦しくなるかもしれないけど、最後まで笑顔で頑張る♪」

「あたしに任せて父さん! 今度こそギッタギタのメッタメタにしてやるんだからっ!」


「ふっふぅ~、天使の死に体を検分しちゃうよん♪」


 仲良くうんと息を吸うアイネたちと、両手の指をワキワキさせながら身構えるアイダと、武器を構えて油断なく目を光らせるオグンとレグパ。

 気合を入れなおしたところで、お互いが同時に動き出した。


「吹き荒ぶ煌き、敵へ叩き付ける滅び。世界を止めてみせよう――アルジローレテンペスト」


 対不死者特効の白い羽根が、嵐となって屍神たちを襲う。

 当たれば彼らにも致命打を与えられる白い羽根は、対するオグンの大規模な炎攻撃によって全て消し炭にされた。だが、その炎の間隙を縫って、茜葵姉妹が繰り出す属性剣の斬撃線が描かれる。


「さ~せ~る~か~!」


 すると、アイダの体を取り巻く7体の水竜が一斉に動き出し、無数に描かれる斬撃線を食い破る。

 それでもなお迫りくるのは、アイネからもらった一対の翼を紅蓮の野太刀に変えて、死の赤き粉塵の爆撃をまき散らす茜。周囲に散った瓦礫の構成要素を変換し、無数の鋭いルビーの塊を叩きつける。しかし、この攻撃はレグパに粉砕される。恐れを知らない戦士の掌底からの鉄山靠。突き、肘打ち、そして体当たりが、戦術によって強化された技巧で打ち付けられ、切り込もうとしてきた茜を大きく後退させた。

 その間葵は、やはりアイネからもらった翼一対を、自分の身長よりも長い「砲」の形に変え、虹のビームをバカスカ連射した。


 

(偽物だけど、こいつが妹を屍兵にした……姉として一発殴っておきたいところね)

(このゾンビが一番危険だ! オーロラ体の理論を逸脱してるっ!!)


 茜はレグパと、葵はアイダとそれぞれ分担するかのように戦いに持ち込んだ。ただし、よくしゃべるはずの二人は、先程の攻撃開始からいっさい喋ることはなかった。


((でも、そろそろ))


 二人が思いのほか慎重に戦いを進める頭上では、アイネの虹天剣と白い羽根の嵐が、周囲から湧き出るアンデットを巻き込んで四方八方に打ち込まれた。

 それに加え、コロニーの四方から歌声が聞こえる。


 蜘蛛の上、朝の栄光のように、天使は現れる

 天使は力強き人々には智慧、勇ましき人々には剣

 世界はかの御足台となり、悪しき魂は天使のしもべとなる

 我らの天使は進み続ける


 栄光あれ、栄光あれ、称えよ!

 栄光あれ、栄光あれ、称えよ!

 栄光あれ、栄光あれ、称えよ!

 我らの天使は進み続ける!


 どこかの電気店で流れているようなリズムで叫ばれる歌は、コロニー全体を覆い、アンデットたちをさらに不快にしていく。

 逆にアイネたちには、この歌はまるで応援歌のように活力を与えてくれる。


 かつて神に導かれし人々が、城壁の周りを反時計周りに7周回ると、城壁がすべて崩れ落ちたように……天使と彼女に希望を持つ人々の声が、屍兵の力を削いでいく。


「だーっ!! うるせーっ!! なんだてんだこの歌!? ガキ大将よりヒデェ!」


 まるで、黒板を爪でひっかいたような音を聞かされ続けるアイダは、顔を苦痛にゆがめる。レグパはあまり影響を受けていないようだが、オグンは目の奥に灯す憎しみの炎をより強くした。

 オグンは、アイネたちはこの大規模なデバフを掛けるために、仲間たちに四方の拠点を占拠させたのだと確信した。そして、アイネが途中まで難民たちを無理やり兵士にしてぶつけてこようとしたのは、アンデットの集団を全て西の拠点「白虎」で拘束し、その間にわずかな兵力でほかの拠点を制圧する為だった……。そう思っていた。いや、この状況では、そうだとしか思えなかった。


 だが、オグン自身は弱体化しようとも、彼が使役する精霊は影響を受けない。

 彼らが苦しんでるのを見て積極的に攻撃を仕掛けてくるアイネに対し、

オグンはまるで見せつけるかのように、特大の炎を巻き上げた。


 すべてを飲み干す巨大な炎が、今まさに彼の周囲から吹き上がった―――――次の瞬間。

 彼が意図しない大規模な爆発が、彼の背後で巻き起こった。

 驚いたオグンとレグパが振り返ってみれば…………



 悪魔樹が燃え上がっていた。

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