負け犬アベンジャーズ その6

 昔々――――この世界の「歪みバグ」を監視し、悪しきものがこの世の理を捻じ曲げないか取り締まる天使様がいました。

 世界のゆがみを検知した天使様は、自らを創造した主がすでに居ないにもかかわらず、自らの使命を実行しようとしました。

 けれども、そんな天使様の前に、一人の青年が現れました。

 彼はこう言いました「僕が君に世界のすばらしさを教えよう。僕にチャンスをくれないか」と。天使は半信半疑で青年と付き合ううちに、次第に欠けていた人間性と愛を与えられ、そのまま結婚しました。

 子供を残した二人は、その後――――カンパニーの実験を止めようとして犠牲になりました。その子供は今………………





「う――――うあああぁぁぁっ!!」


 観える。未来が観える。

 人々のすべてが悪意に変わり、すべてを憎しみ合いながら崩れ落ちていく世界が観える。


 「塔」が唱えている呪文の正体は、世界定義アカシックに干渉するもの。

 それが分かったとき、アイネは瞬時に発狂寸前まで陥った。



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Emergency : critical!!

Malice : Unmeasurable

mode1 : Unlocked

mode2 : Unlocked

mode3 : Unlocked

mode4 : Unlocked

mode final : Locked


It is recommended to unlock

Unlock?


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(...denial !!)



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It is recommended to unlock

Unlock?

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(denial !!!!)



 アイネの意識が真っ赤に染まっていく。

 そして……閉ざされていた、幼いころの記憶が一瞬だけよみがえった。

 自分は「秩序」の天使。ただしそれは、犯罪を許さないだとか、本来はそういうものではない。それは、この世界のゆがみ。

 アイネ自身、その歪みの中から生まれた存在なのである。


 ここで人間性を捨て、すべてを破壊して消え去ることができれば、どれだけ楽なことか。残されたものさえいなければ―――――



「よう、目が覚めたか? クソアマの天使様よぅ!」

「…………」


 気が付けば、アイネは突っ伏した状態で地面に墜落しており、背中の翼が長さ1メートル強の杭のような氷柱ツララで縫い付けられていた。今のアイネは、さながら昆虫標本に虫ピンで止められている蝶のようだ。

 そして、目の前で勝ち誇った表情をしているのは、青いワンピースを着た少女だった。


「屍神アイダ……消したはずでは」

「残念だったな、トリックだよ」


 彼女の後ろには、先程まで戦っていた小柄な少年と、動物の骨を被った大男がいる。筋骨隆々の大男が、半月刀を片手に担ぎ、ゆらりゆらりとアイネに近づいてきた。


「あんた、よくも俺っちの仲間たちを好き放題消し飛ばしてくれたな。そしてわれらが王に傷をつけようとした! ヒヒヒ、これはもう生かしておけねぇな! なぁレグ兄!」

「私を殺すの?」

「そうともさ! 首をちょん切れば、いくら天使様とは言えども再生できまい!」

「そう。でももう遅い」


 次の瞬間、屍神三体のいる場所に、複数の赤と青の線が走り、大規模な連鎖爆発を起こした。アイネにかかりっきりだった屍神たちは、攻撃こそ防いだが、思いきり吹き飛ばされた。


「お父さ~ん! 遅くなってごめん! 茜、ただいま帰りましたっ!」

「父さん!! 翼に穴がっ! おのれ忌々しいゾンビども!! 片っ端から破壊してくれるわ!!」

「よく来てくれたわね二人とも。ちょうどいいタイミングだった!」


 二人が攻撃した余波で、アイネの翼を縫い付けているツララは破壊された。

 そして、完全に奇襲を食らって屍神3人仲良く吹っ飛んだせいで、悪魔樹の下にいるアカシックが完全に無防備になった。


「枝を切り払って」

「「はいっ!!」」

「それと、プランC-2用意!」

「「おまかせっ!!」」


 アイネは娘二人に指示を出しつつ、自身も翼をはためかせ、跳んだ。

 アカシックを守るように絡まる悪魔樹の強靭な枝が、砂神剣と虹天剣αの斬撃でボロボロに切り払われ、コンマ1秒後に満を持してアイネが飛び込んだ。


「期待はしてないけど、これでもくらえ!」


 呪文を聞くとまだ頭痛がするアイネだったが、決断敵に飛び込んだことで、アカシックの本体を虹天剣の確殺の間合いにとらえた。

 オグンの火炎と、アイダの高圧水流がアイネに襲い掛かるも、マッハで動いたことによるソニックブームを、ハイゼンベルクストライクで威力を上乗せして相殺。


 アカシックを虹天剣で両断した――――かのようにおもわれたが?


 悪魔樹の枝が無数の槍となってアイネを襲う寸前で、虹天剣を駆使して範囲から離脱。見れば、アカシックはぴんぴんしており、相変わらず呪文を唱え続けている。


「ムダムダムダァっ!! 王は俺たちが生きている限り不滅なんだよぉ!!」


 しゃべらない屍神オグンに代わり、よくしゃべる屍神アイダがそんなことを言い放つ。

 ただ、アイネもぽろっとこぼしたが、彼女も初めから今の攻撃で終わるとは期待していなかった。あくまでも試しただけだ。結果は、思った通り。


「これまたエルの言ったとおりね。アイツ、何らかの食いしばり効果が付いているわ」

「えー、つまりそれってもしかして」

「ここに居るゾンビ全部を、身代わりのストックにしてるってこと!?」


 茜と葵は気が付いていたが、アイネがアカシックを攻撃した際、自分たちを包囲する屍兵が8体消滅した。

 つまり、この周囲に屍兵がのこっているかぎり、アカシックは致命傷を食らっても何事もなく詠唱を続けられる。軍神たる屍神オグンが「塔」本体という弱点に、何の対策も施していないはずがない。

 そして、屍神の性質といえば…………内包する多数の魂による、自らの入滅の回避。オグン自身はその効果を失っているようだが、屍神の権能により、彼が指揮する屍兵は、王の安全の礎となって死ぬのだ。


「茜、葵。見事に考えうる限りの最悪次に悪い状況になったわね。それでも、最悪よりだいぶマシ。だいぶだいぶ、マシ」

「えっへへ~、そうだねお父さん♪ 俄然面白くなってきちゃった!」

「あたしは早く終わらせたかったな。父さんが傷つくの見るのはやだし」


 状況は最悪に近い。それでも、アイネと姉妹たちは諦めない。

 いや、むしろ望むところだと気合を入れなおしていた。

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