負け犬アベンジャーズ その4
第5コロニーの中心部にそびえる悪魔樹に向かって進軍する、アイネと難民兵たちの一行は、その道中で地平を覆いつくす屍兵の大群とぶつかり、順調に拮抗していた。
ショッピングモールにいた人間は総勢5万程度であり、対する屍兵たちは1000万ともいわれている。話半分だとしても自分たちの100倍もいることになる。
しかもアンデットたちはかなり統率が整っており、前衛が抑えている間に後衛が飛び道具を投げてくる。気合だけで戦う気になっている難民兵たちにも負傷者が出始め、じりじりとその数を減らしていた。この状態で悪魔樹に到達するなどまず不可能なのだが、アイネにとってはあくまでも予定通りであった。
「順調すぎる……こういうのはまぐれと思わないと」
まるですべてが予定調和で動いていくかのように戦況は推移している。
アイネは時折飛んでくる巨大な炎による攻撃と、アンデットたちの飛び道具を撃ち落としつつ、白い羽根をばらまいていく。相変わらず白い羽根の嵐は、アンデットたちを面白いように消し飛ばすのだが、やはりといおうか…………時間が経つにつれて彼らも強化されているのか、当たっても生き残る個体がちらほらと見え始めてきた。
アイネは、手元の端末に表示された情報を見た。
「屍神オグン―――火、鉄、法、物流……そして戦を司る軍神。道理でゾンビたちがよく動く。しかもそれだけじゃない」
端末のページをめくると、次の画面にもう一体のターゲットの情報が現れる。
「異世界再生機構の「塔」――――アカシックという名の魔術士。詳細は不明、だが世界を破滅させる力を持つ……こいつの言霊は生きる者に絶望を与え、逆にこの世を憎む者たちに活力を与える。なるほど、最悪の組み合わせだ」
いるだけでアンデットたちを本能的に傅かせ、その能力を大幅に上げる「塔」と、アンデットを手足のように自在に組織して操る屍神。もはや負ける気がしない、ドリームチームならぬナイトメアチームだ。
ただ、こんな相手ですら、異世界再生機構にとっては単なる時間稼ぎに過ぎないのかもしれない。
エルによると、異世界再生機構の情報がこれほど短期間に一気に沸いたのは、何か別の目的を隠す狙いがあるのではないかということだった。もちろん、単なる偶然の可能性もあるし、確たる証拠はどこにもない。
だが、大勢の人間が異世界再生機構のことを話さないと死ぬ呪いにかかっているという噂もあり、単なる偶然と考えるのはあまりにもバカげている。
(だとすれば、エジリ・ダントの育て親はいったい何を考えていた?)
ゾンビを操るという性質は、目の前の敵とよく似ている。
いや、それどころか屍神という名前から察するに、ほぼ確実に同族だろう。そんな大それた存在が、エジリをほとんど捨て石のように扱ったのが、アイネにはどうにも解せなかった。
(つまりこれもまた、本来の目的を達するための陽動)
だとしたら、なんという皮肉だろうか。
アイネたちが今まさにやっていることも「陽動作戦」なのだから。
けれどもそれは、結局は戦術レベルの話でしかなく、戦略的に見ればアイネたちが今ここで戦っていること自体「敗北」ではないのか。
勝つのは簡単だ。逃げればいい。
茜と葵を見捨て、異世界につながるゲートをくぐるだけでいいのだから。
(勝つこと自体に価値なんてない! 何を手に入れたかだけが全て!)
虹天剣を握る手にぐっと力が入る。
赤と青の光が鞭のように踊り、一度に数千のアンデットたちが吹っ飛んだ。
その直後に、紅蓮に燃える竜が5つ、アイネに向かって一直線に飛んでくると、それを掌底による衝撃波一発で4つ消し飛ばし、残り一つを破流で軌道を逸らし、アンデットの群れに突っ込ませた。
着弾と同時に大爆発が起き、約1万のゾンビが地形ごと纏めて蒸発した。
かつてののほほんと過ごしていたアイネでは、受け流すどころか、防いだら塵一つ残らないような攻撃だった。アイネは自分の成長を実感するとともに、もう戻れないところまで来てしまったという思いをにじませた。
そのような具合に、第5コロニーの中心からやや離れたところで押し合いへし合いしているうちに、エルから無線連絡が入った。
『マスター、聞こえるか』
「エル。準備が整ったの?」
『レティシアさんのグループが青龍に入った。これで「苦情対策」も万全だな』
「住民全員が死んだら、いったい誰が苦情をいうのでしょうね」
『さあな。だが、この世界は死んだ奴も普通に生きているんだから、死体が苦情を言っても不思議ではないな』
「それもそうね。さ、軽口はここまでにしておきましょう」
少し時間がかかったが、舞台はすべて整った。
さあ、ここからはアイネの独壇場だ。
「消し飛べ。セプテントリオン!」
虹天剣が7つに分身し、前方に向かって極太の虹のビームが放たれた。
コロニー全体に巨大な雷が落ちたかと思われる轟音が響き、悪魔樹めがけて一直線に地面が抉れた。もちろん、射程内にいたアンデットたちは残らず全滅。その被害は数十万にも上った。
モーセのエクソダスの如く、アンデットの海に強引に道を作ったアイネは、
躊躇うことなく一直線に敵大将の元へと突っ込んでいった。
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