負け犬アベンジャーズ その3
召喚霊エルクハルトは、大図書館によってこの世界に何度も召喚されてから、大きく疑問に思っていたことが一つある。
この世界は、いったい何なのか――――と
通常の世界とは「世界定数」、つまり世界を構成する情報の基礎が違うことは、かつてのマスターだったオリヴィエが観測していたが、それにしたって不可解なことがあまりにも多すぎた。
その最たるものが「人が生きているようで生きていない」ということだった。
アイネ一家もかつてこの地で特訓していたころに感じたが、そこらで動いている生者も不死者も機械も、まるで中身がないかのように思えてならない。
それ以外にも――――――
普通なら生きられないような、極端な生命がいる。
まるで生まれてから役割が決まっているかのような人間がいる。
何をどうやっても壊れないものがあるのに、壊れてはいけないものは壊れる。
そしてカンパニーはなぜ、矛盾するような組織の在り方を求め続けるのか。
世界滅亡までには、恐らくまだ余裕があるのだろう。
白虎に襲い来るアンデットの群れと、時折飛んでくるすさまじい威力の炎がそれを証明している。
(俺はこの世界にあと1日しかいることができない。おそらく世界の真実にはたどり着けないだろう。ならばせめて、この天使に最後まで追わせよう。たとえ残酷な結末が待っていたとしても、彼女なら――)
元凶を断つだけなら、膨大な犠牲を払えばすぐにでも片が付く。
しかし、それでは何の解決にもなりはしない。
「よし、アンデットたちが釣られた。打ち合わせ通りプランCでいく。各員の奮闘を期待する」
『了解』
人が殆どいなくなり、静まり返ったショッピングモールの屋上で、エルが他のメンバーに無線で指示を出す。クライネ、レティシア、イヴがこれに応答し、それぞれが率いている人員と共に、バスに乗ってショッピングモールを後にした。
まずクライネは、かつてアイネと共に戦っていたマリミテ女学園風紀員たちを率いて、南にある拠点「玄武」へと向かう。東の拠点「青龍」に向かうレティシア率いる生き残りエルフの集団も一緒だ。
アンデットがまばらになった幹線道路を、何台ものバスが進む。途中にはまだまばらにアンデットが徘徊しているが、護衛についている葵が上空から彼女たちを守った。
「父さん大丈夫かな……こんなの早く終わらせちゃいたいなぁ」
父親がいる方角では、幾重もの虹の光と巨大な炎が、轟音と共に飛び交っている。見ただけでもエジリが放ってきた炎の何倍も大きく、喰らったらひとたまりもなさそうに見える。
心配性の葵は、すぐにでも父親の元に飛んでいきたい気持ちをぐっとこらえ、長距離の護衛に専念した。
一方で反対側、北側拠点の「朱雀」に向かっているのは、イヴと一度解散したはずの有栖摩武装探偵の集団だった。
彼女たちはトラックで幹線道路を疾走し、その上を茜が厳重に護衛している。
「北の方は大変なことになってるって聞いたけど、思ってた以上にヤバイねこれは!」
茜は「あちゃー」といった風な表情で、やや先の方にある巨大複合施設を見た。
実はショッピングモール「朱雀」は、現在別の勢力同士が衝突しているらしく、絶え間ない閃光と爆発が見える。正直なところ、この拠点の生存者は絶望的なので、特に向かわなくてもよかったかもしれないが……
それでも、味方が大勢残っていたら大変なことになる。彼らの邪魔にならないように作戦を遂行するのはやや難しいが、不可能ではないはずだ。
茜は無線機を手に取り、朱雀への到着をエルに知らせた。
『茜だよっ! イヴさんたちは何とか所定の位置につけた!』
『葵はまだ移動中っ! クライネさんたちはいいけど、レティシアさんたちがまだ』
『焦らなくていい、お前たちの父親を信じろ。マスターは君たちを全力で信頼しているからな』
結局、作戦のかなめはアイネの動きに懸かっている。
ここでアイネが敵の大将に負けたら、作戦は中止して、エルが死ぬ気で突っ込んでいくしかなくなるのだから。
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