幕間7-4:私は私でありたい

 アイネは今までずっと迷ってきたことがある。

 それは、日向日和のクローン姉妹を完全に自分の娘にしていいのかどうか、ということ。


 その答えの一端を示してくれたのが、皮肉にもクローン体という存在を脱却し「屍兵」になったエジリの存在だ。


 彼女の育て親は、恐らくアイネのようには迷わなかったのだろう。

 最終的に彼女を自分たちの足止めに使用したとしても、それは彼女が「日向日和」を越えるための必要なステップであり、いずれは避けて通れない道だったはずだ。

 エシュ――――いや、屍神レグパは、希薄な存在である日和クローンの一体を全力で後押しした。例えアイネと相いれない存在になったとしても、それは悪意からではなく、本物の愛情があったからこその決断だったに違いない。


 その点アイネは、自分への自信がなかったからか、この先ずっと二人に自分を追わせることが正しいとは思っていなかった。

 エジリとの戦いで、彼女の育て親は熟練中の熟練に達した戦士であることは理解できた。あれほどの使い手はおそらくコロニー内でも極めてまれであり、かの有名な黒騎士――須王龍野とその騎士団相手でも、一人で互角に戦えることだろう。

 一方でアイネはまだ20年も生きていない未熟者であり、伝説の存在である日向日和のクローン体を育てるには、あまりにも実力不足と見てよい。むしろ、アイネの存在が足を引っ張り、成長を阻害しているとすらいえるかもしれない。


(しかし、私にも出来ることはある。私は、まだ道をまっすぐに進めない二人の道しるべとなろう)


 そしてその先――アイネの元を飛び立つか、ずっとアイネに従うか……それは二人が自分で決めればいいことだ。



「最後に問う。あなたたちは、日向日和の名を捨てる覚悟が決まっているかしら?」

「はい、お父さん。私たちはこの先もあなたの娘。ずっと傍にいさせてください」

「もちろん! あたし……やっと、特別な存在になれるんだ……!」


 二人にはもう、日向日和という存在に未練はなかった。

 クローンという立場から脱却しないと、自分たちは長く生きられないというのもあるが、彼女たちは自分たちに定められた運命を打ち破りたかったのだ。


 二人の決意を受け取ったアイネは大きく頷くと、自分自身も覚悟を決めた。


「じゃあ、二人とも、その場で目を瞑りなさい。そして、何が起きても目を開けないように」


 アイネが諭すようにひよりん姉妹に目を閉じさせた。

 二人は期待と不安でお互いに目を見合わせたが、すぐに言う通りに目を閉じた。


「ほかの人たちも、決して口を出さないように」


 周囲にいる者たちも、アイネの醸し出す異様な雰囲気にのまれ、黙って頷いた。

 すべてが整ったと見たアイネは、1本の虹天剣から赤、黄色、青の三色の光を出し、左手で光の束を掴んだ。そして、すぅっと息を吸い込み――――


「――――っ!!!!!」




 背中に生える6枚の翼を、根元から一気に切断した。




「……ぅっ!?」「ひぃっ!?」


 目を瞑っていた二人にも、何が起きたかが分かった。

 けれども、彼女たちはアイネの言いつけ通り、その場から動かなかった。


(派手なことするねぇ!)

(ちょっ!? アイネさん!?)

(まさか本当にやるなんて!!)

(ふ……ぅ)


 周囲で見ていた人々も、あまりの思い切った行動に絶句し、クライネに至ってはその場で気を失って倒れてしまった。


 切り落とされた純白の翼が、地面にぼとぼとと落ちて真っ赤に染まり、翼の付け根からは鮮血が噴き出す。それはまるで、新しく赤く染まった翼が生えたかのようであった。


(ぐうぅぅ…………うぅ……ぁ)


 覚悟を決めていたとはいえ、今までにない激痛を感じたアイネは、視界が真っ赤に染まり、歯を食いしばって耐えるのが精いっぱいな状態だった。

 それでも彼女は、二人の為に耐えねばならない。



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Emergency : Positive

Malice : Keep

mode1 : Unlocked

mode2 : Unlocked

mode3 : Unlocked

mode4 : Unlocked

mode final : Locked


Unlock?


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(...denial !!)



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.

.

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.

.

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(私はこれ以上、私を失うわけにはいかない。今は亡き、お父さん、お母さん。

そして、おおいなる秩序の神よ。私は、ゆりかごから飛び立ちます)

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