幕間7-2:天使の帰還
ウルクススフォルムは無条件降伏したと、アイネたちはレティシアから聞いていた。
だが、状況は予想以上に良いともいえるし、悪いともいえた。
焼け野原の姿を映していた結界がなくなったフクロウ島には、何もない空き地だけが残っており、ただ一つだけ島の真ん中に、鉄製の扉が悠然と立っていた。
扉の前にいるのは、第8コロニーでアイネたちと別れたレティシアとイヴ、クライネのほか、食堂にいたエスティ、さらに扉の上にはアイネがまだ見たことがなかった金髪ツインテールの少女が腰掛けている。
彼女たちは何やら深刻な様子で話し合っているようだが、エスティが飛んできたアイネの姿を見つけて指さすと、他の人たちも驚いたようにアイネの帰還を迎えてくれた。
「今帰った」
「ただいまみんな! なんかずいぶんきれいになったね! 断捨離したの?」
「あたしたちの荷物や借りた家がない……! どうなってるのー!?」
「あらまあ、もう帰ってきたのですかアイネさん、それに娘さんたちも…………。随分と雰囲気変わられましたね」
舞い降りた三人を、まずはエスティが迎え入れる。
ちょっと見ないうちに、性格がかなり変わってしまった彼女たちを見てやや困った顔をしていたが、それでも無事帰ってきたことを心から喜んでくれていた。
「で、この惨状は?」
「はーい! それは私から説明するね!」
そう言って名乗りを上げたのは、鉄の扉の上に腰掛ける金髪ツインテールの少女だった。よく見ると彼女は足の先が黒く変色してボロボロになっており、もはやその脚では歩けないことは明白だった。
少女はエルと名乗り、ウルクススフォルム代表オリヴィエのさらに上司から召喚された「英霊」だと言った。
「まぁ、元はといえばマスターが欲を出して幻の神竜を確保しようとしたのがいけないんだけどね♪」
元々ウルクススフォルムと、その背後組織である「大図書館」はカンパニーの動向を調査し、あわよくばその高い技術の一端を解析しようとしていただけだった。
ところが、代表のオリヴィエが神竜をその手中に収めようとしたことで、余計な勢力の介入を招いてしまい、その結果大激戦の末ウルクススフォルムは無条件降伏となったそうな。
しかも、アイネが外出している間にひよりクローンの1人が来ていたことも明らかになり、彼らはウルクススフォルムから得た情報と、異世界再生機構の大幹部を傀儡化したことで、アイネたちに先んじて異世界再生機構の核心へと至ったのだという。
今頃彼らは異世界再生機構の中心たる何かをつかみ、そこへ足を延ばそうとしていることは明らかだった。
「なるほど。それで私の動きは後手後手になったというわけね」
「残念だったね! でもまぁ、そういうこともあるさ!」
大敗北を喫したというのに、エルはケラケラと笑うばかり。
それに対し、妹と戦わされたあげく撃破せざるを得なかったひよりん姉妹は、非常に不服そうだった。
「えー、ってことはそいつら私たちへの足止めの為に、妹たちをゾンビにしたの? ひどくなーい?」
「……許せないっ! 父さん、姉さん! あたしたちで仇を討ちたい!!」
「落ち着きなさい二人とも。復讐の連鎖は無意味なものよ。もう戦う理由なんてないのだから、放っておきましょう」
特に妹日和は、せっかく会えると思った妹たちをゾンビにされた恨みが強いようで、必ずや製造元を張り倒してやると息巻いていた。
「そうそう。世界はあと1日で滅びるんだから、そんな小さなことで争っていても仕方ないよね」
『え?』
少女エルは、サラッととんでもないことを口走った。
あと1日で世界が滅びる――――一体それはどういうことなのだろうか?
「アイネさん。どうか落ち着いて聞いてください」
「わかった、イヴ。どういうことか詳しく説明して」
「現在、第5コロニーと第9コロニーで非常事態が発生しております。
第5コロニーでは1000万を越える数のアンデッドの大攻勢が始まり、第9エリアには伝説の暗黒竜が復活しました」
「なん…………」
さすがのアイネも、これには絶句せざるを得なかった。
第5コロニーの方はまだしも、第9コロニーは伝説でしか聞いたことがないドラゴン――――それも、全てを破壊する暗黒竜が復活したとなれば、もはや被害はコロニー崩壊だけでは済まされない。
かつて師匠から「竜牙」の異名繋がりで、伝説の竜の種類について聞かされたことがあったが、まさか実在するとは思わなかったのだ。
「では第9コロニーに向かわなければ」
「いえ、それは問題ないわ。今向こうにはリルヤと、神竜ちゃんが向かってる。それに目に見える危機に対処しようと、各コロニーマスターが援軍を送ってるわ。けど、問題はむしろ第5コロニーの方なのよ」
次に説明を始めたのは、エルフの少女レティシアだった。
「タイムリーな情報だと、もう地面が全部アンデットで埋め尽くされる勢いで、各拠点が攻撃されているそうよ。
今は何とか拠点は持ちこたえてるけど、このままじゃ陥落は時間の問題ってわけ。
でもね、本当の問題はそこじゃないのよ」
「本当の問題?」
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