幕間6:時すでに遅し

 すべてを破壊しつくす勢いのあった十二鬼神――斬鬼、天鬼の二機は、その機能を停止した。

 最後の最後まで、無双の武勇で攻撃を押しとどめていた斬鬼は、Wひよりんの「骨貫」を中心部に喰らい、胴体が真っ二つに折れた。その体内からは赤く光るコアがむき出しになり、むなしく点滅していた。


「ふ……ぅ、よく頑張ったわね、二人とも。けがはない?」

「ふえぇっ……お父さん! 足の骨が折れてるよ! すぐに治療しなきゃ!」

「ひよりんたちは大丈夫なんだけど、やっぱりお父さんはボロボロになっちゃったね♪ いたいのいたいのとんでけ~」


 今回もひよりん姉妹はほぼ無傷だったが、その代わり二人の傷を背負ったかのようにアイネはまたしてもボロボロだった。

 今回は全体的に火傷がひどく、放っておくとあとが残ってしまいかねない。


「アイネさん! 生きてますか!? 手助けできなくてごめんなさい!」

「ちょっと! なんであんたはまたボロボロになってんの!? 少しは自分の体を大事にしなさいって、あれほど言ったわよね!!」

「アイネ! 私たちを守るためにこんなになるなんて……」


 ディスクと一緒に安全な場所に避難していたイヴとレティシア、それにクライネまでが心配になって駆け付けてきた。


「あはは……ごめんなさい。何とか生き残ったけれど、町が…………ふふっ、また守れなかったってみんなに怒られちゃうかな? 私の持ってるお金で、弁償足りるかな?」

「はぁ? なんであんたが弁償しなきゃならないのよ! いつから神様になったって勘違いしてるわけ? あんたは自分を守るために戦った、それでいいじゃない!」

「そうだよお父さん! お父さんを悪く言うやつは……ひよりんが許さないんだから!」


 瓦礫と化した周囲一帯を見渡し、自嘲気味になるアイネに対し、レティシアと妹ひよりんが必死になだめる。


 斬鬼、天鬼との戦いはすさまじく、気が付けば第8コロニーの10分の1の面積が瓦礫の山と化していた。斬鬼の振るった日本刀の衝撃波がアスファルトごと地面を切り裂き、天鬼のビーム乱射がクレーターを形成している。

 当然避難できなかった人員は多数いるだろうし、今頃死傷者とその家族たちは、コロニーを守り切れなかったアイネたちに、怒りの矛先を向けていることだろう。

 もちろん、アイネにはコロニーを守る義務などない。だが、ターゲットの攻撃から町を守るのもハンターの役目と思っている市民は少なくないし、そうでなくても人々は怒りをぶつける相手が欲しいところだ。


「大丈夫ですアイネさん。今、Dさんから連絡がありました。被害の方はコロニーマスターが修復するそうです」

「そう……それはよかった。賠償金は払わなくて済みそうだけど、さすがに逃げ遅れた人たちの命は――――」


 建物は直してくれると聞いて、さすがはコロニーマスターだと感心した一同。

 だが、次の瞬間にはまるで逆再生のように瓦礫があちらこちらに戻っていき、壊れた建物が一瞬で直っていくではないか。

 さらに、攻撃で死んでしまった一般人もたちどころに全員復活した。


「え? 何が起きたの?」

「第8コロニーマスター……リンド。謎だらけの人だけど、あの人にできないことはないって言われています。ですが、本当に訳が分かりませんね」


 気が付いた時には、周囲の景色はすべて元通りになっていた。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものでは断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だった。


「でもさ、建物を直せたんだから、お父さんのケガも治してくれればいいのにね!」

「人を治しちゃまずい理由とかあるのかなぁ。ま、いっか。ありがとひよりんたち、それにレティシアさん。またキックできるようになったわ」

「だーかーらー、そういう自滅技はダメって言ってるでしょ!」


 ひよりん二人の治癒術とレティシアの回復薬を併用して、なんとか短時間でアイネの右足は歩けるまで回復した。だが、立った瞬間に立ち眩みがして、思わずよろけてしまう。


「ちょっ……お父さん、まさか魔力が!」

「大丈夫大丈夫だから……ちょっと疲れてるだけ。それよりも、はやく第10エリアに行かないと」


 先程の斬鬼への一斉射撃で、アイネの膨大な魔力が枯渇していた。

 ケガは治ったとはいえ、彼女は当分まともに戦えないだろう。本当なら、1日くらい安静にしなければならないのだが、ディスクに作ってもらった偽造IDは、時間がたつとバレる恐れがある。

 アイネは無理してでも進まねばならなかった。


「イヴさん……悪いけど、ここから先は私たちだけで行くわ。リブートには私が一泡吹かせてくるから、レティシアさんと一緒にうちの組織まで避難して」

「…………わかりました。残念ながら、私はほとんど戦力にならないのは確かです。吉報、お待ちしてます」


 こうして、最後の武装探偵スタッフだったイヴもまた、ウルクススフォルムに回収されることになった。アイネたちは、少数精鋭で異生研の本部に殴り込みに行くことになる。


「あ、お父さん! その前にこれ持って行っていい?」

「ん?」

「ひよりんも…………これがほしい」


 いざ第10エリアに行く前に、ひよりん姉妹が気になる物品を拾ってきた。

 赤い光を放つ結晶のようなものと、斬鬼が使っていた日本刀を小さくしたものが16本、そして天鬼が装備していたビームキャノン1門だ。

 極限まで小さくすると、彼女たちでも持ち運べるようだったが……


(私の略奪癖までついちゃったかしら……)


 正義を標ぼうとするアイネの数少ない汚点を受け継いでしまった二人は、この先大丈夫なのだろうか。


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