仇為す鋼達と 願いの翼 その3
娘であるひよりん2人は、もうそろそろ戦闘能力でアイネを追い越そうとしている。だが、2人がどんなに頑張ってもアイネを上回れないものがある。
それは――――戦闘経験。
意識を持ってからまだ1か月たったかどうかすら怪しい彼女たちは、オリジナルの技術と記憶を引き継いでいるとはいえ、積み重ねた経験はまだ真っ白に等しい。それに比べアイネは、まだ若いとはいえ、竜舞奏に死ぬほど鍛えられた歴戦の勇者。
今回の戦いは、その差が顕著に表れた。
「さぁて、向こうはきっとひよりんたちが倒してくれるはずだから、その間私はこっちを引き付けないとね」
『総攻撃開始』
天鬼が、背中の砲から白いビームを乱射。ビームは弧を描いて誘導され、アイネに向かって怒涛の如く押し寄せる。
対するアイネは両手に虹天剣を両手に構え、それぞれ4色ずつ引き出すと、こちらもまた一色ずつ、計8色分散させ、ビームと相殺させた。
(相手はビーム以外の兵装は持っていない。完全に遠距離特化型。しかし、近接攻撃はきっと対処済みね)
無数のビームを弾き掻い潜りながらじわりじわりと距離を詰めていくアイネに対し、天鬼は後退しつつも、アイネの動きに合わせて腕を動かしているのが見えた。どうやら、機械のくせにいっちょ前に武道の心得があるようだ。
「ならこれでっ!」
『防壁展開』
「うあっ、そこにも!?」
ビームを回避した隙に、右手の虹天剣をある程度の距離で撃ち込んでみた。だが、その一撃は胸部装甲を開いて現れたもう一門のビームキャノンから放たれたビームが、盾の形状を形作って無効化した。
逆に胸部のビームキャノンがそのままアイネに襲い掛かる。彼女は間一髪直撃は避けられたが、放射された熱がプラズマとなって滞留し、アイネを焼いた。
「虹天剣の光線もだめ、か。でもまぁ、突破口は見えたわ」
相変わらず一方的に攻撃されるアイネ。一見すると防戦一方にも見えるが……
「いっくわよーっ!!」
『無謀、無謀。自殺行為也』
三門の砲が降らすビームの弾幕が降り注ぐ中、以前からさらに強化された速度で翼をはためかせ、アイネが突っ込んでいく。天鬼もできれば遠距離で戦いたいので、マッハよりやや低いくらいの速度で後退するが、なんとアイネはそれをはるかに上回る速度で突っ込んでいく。
この時天鬼は、アイネが突っ込んできた理由を、僚機(斬鬼)から自分を離すことが目的と判断。そして実際その判断は一方では正しかった。
弾幕の中を音速で飛ぶのは、天鬼が言う通りとてつもなく無謀で、虹天剣の魔力をすべて自分の前面に展開するシールドに回したせいで、アイネはあちらこちらに被弾し、浅くない傷を作った。それでもアイネは止まらない。
そしてとうとう、彼女は天鬼のビームキャノンの最低射程内まで突入。が、天鬼はやはりこのことを見越していた。
『小人の考え、浅き事』
遠距離特化の兵器は、常識的に考えて近接戦闘に弱いのが常だ。だが、十二鬼神兵器は――――近接戦でも隙はない。天鬼は、満を持して巨大な拳をアイネに叩きつける。
のこのこ突っ込んできた天使は、これで粉砕され、蚊トンボのように墜ちる……そう確信した拳は、きれいに回避された。
「浅いのはどっちだっての!」
15mの巨体を誇る天鬼にとって、確かにアイネはトンボ程度の大きさでしかない。だが考えてほしい。人間はパンチでトンボを仕留められるだろうか。
竜舞式格闘術奥義「破流」――――相手の力のベクトルを受け流し、アイネは拳を食らうことなく、天鬼の右腕に乗った。
『猪口才な』
右腕を駆け上がってこようとするアイネを叩き潰そうと、人間が無視を叩き潰そうとするかのように左手が右腕を叩く。が、アイネはそれを難なく回避。むしろ叩かれた右腕にひびが入る。よほど強く叩こうとしたのだろう。
(このロボットを設計した人は何を考えていたのかしら? 遠距離兵器は図体が大きい方がむしろ不利なのに)
先程アイネは、ひよりん姉妹に「大きいことが弱点」と言ったのは、巨大になればなるほど攻撃を避けにくくなるうえに、小さすぎる標的に物理的な有効打が入れにくくなるというデメリットがある。
今回の場合、斬鬼は近接特化なので巨体のデメリットはあまり感じないが、遠距離の場合はむしろコンパクトになった方がいい。
アイネはその齟齬を突いたのだ。
「はあぁぁっ!!」
腕から跳んだアイネの跳び蹴りが、天鬼の胸部装甲を直撃する。
竜舞式格闘術奥義「骨貫」――以前アイネがゴリラ兵器に披露した秘義「鉄底」が昇華し、ついに師である奏の領域まで達した瞬間だった。
虹色のオーラを纏った蹴りが共振現象を起こし、対象物が固ければ固いほどダメージが跳ね上がる。人体に対しては単なる蹴りでしかないが、竜の鱗ほど硬さとなれば、共振で内臓をずたずたにできる。
もし、装甲の下にゴムなどの緩衝材が挟んであればまた違ったかもしれないが…………絶大な防御力を誇る古代の超合金は、その構造が仇となり、威力を逃しきれなかった。
『天鬼!』
『我、被害甚大。だが、無慈悲に報復を続行すべし』
「お父さん!?」
「すごい……どうして!?」
「ふふん、大きけりゃいいってもんじゃないわ」
そう言って不敵に笑うアイネだったが、実は蹴りを入れた彼女も、反動で右足の骨が破砕してしまっていた。
しかし、この一撃はひよりんたちの戦い方に、大きな転換をもたらしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます