仇為す鋼達と 願いの翼 その2

 巨大ロボット2機に対し、アイネたち3人もまた二手に分かれて迎撃に飛んだ。

 敵は多腕に16本の刀を持つ機体「斬鬼」と、大きめの筒を二門背負う機体「天鬼」。


「いい、ひよりんたち! 相手は大きいけど、それが弱点よ! 私が後衛を足止めするから、二人で前衛を片付けて!」

「うんっ! お父さんっ!」「は、はいっ!」


『愚かな。我らに立ち向かうか』

『報復攻撃開始。情け無用』


 武人のような声を発する斬鬼と、地獄の鬼のような低い声を発する天鬼。

 2機はアイネたち3人を撃ち落とすべく、それぞれの武器がうなりを上げた。鬼神機たちにとってみれば、約15メートルほどある自分たちの大きさに比べて、3人は蚊ほどの大きさ程度しかない。一発攻撃が掠りでもすれば木っ端みじんになる。そう確信していたのだが…………


「散開っ!」


 ジェット戦闘機のように超高速で散開した彼女たち。

 まずアイネが、斬鬼が振るう刀の軌道を大きく上に迂回して、後衛でビームを撃つ天鬼めがけて突っ込んでいった。斬鬼がアイネを斬ろうとするも、すぐにひよりん姉妹が真正面から攻撃に移り、アイネを背後から攻撃するのを阻止する。


『切り刻んでくれる』

「させないよ♪ 砂神剣、バーストっ!」


 長さだけでも5階建てビルほどの長さの、16本の日本刀が上下左右から迫る。

 それに対し、姉日和は両手に真っ赤な剣を握り、斬鬼を上回る驚異的なスピードで振りぬく。剣による一閃が、空に赤い線をいくつも描き、すぐに連鎖的な小爆発を巻き起こした。

 無数の爆発による衝撃が刀をはじき返し、同時に死を呼ぶ赤い砂嵐……『紅砂辰』がばらまかれる。


『目つぶしのつもりか』


 目のない機械兵器にはそのような小細工は通用しない。しかし、姉日和の狙いは目つぶしではない。彼女の攻撃はあくまで刀による攻撃を封じ込めるためのものだ。


「あああああぁぁぁぁぁっ!!」


 刀がはじき返された瞬間、別方向から飛んできた妹日和が、悲鳴のような叫びをあげて虹天剣αによる大斬撃を振るった。水でできた巨大なウォーターカッターは、骨のような形状をしている補助腕の一本を直撃。だが、わずかにへこませるにとどまった。


「お姉ちゃあぁん! やっぱりこれ硬いっ!」

「ありゃりゃ、全力の一撃でも壊せないの? 困ったね」

『笑止! 我が装甲は古代の英知によるもの。軟弱な者には傷一つつけられぬ』


 その割にはへこんだじゃないか、板金7万円コースだろ、といいたいところだったが、大したダメージになっていないのは確かだ。

 巨大な刀をはじきながら、めずらしく攻めあぐねるひよりん姉妹。以前のゴリラ兵器や虹色の鉄の塊とは違い、その圧倒的な巨体故に彼女たちの攻撃の威力が足りないのだ。


(どうしようかな。切り札を使えば攻撃を通せそうではあるけれど…………)


 がむしゃらに攻撃する妹の隣で、剣を振るいながら黙々と突破口を考える姉日和。

 退魔師の家系最高傑作と言われた日向日和のクローン体である彼女たちだが、実は意図的に封印している技術がいくつかある。その最たるものが――――「真名解放」

 その陽は撫ぜ愛でる調和の恩光。「北風と太陽」の如き太陽の力とは、この世の歪みを律し、和らげるもの。

 その力を使えば、目の前にいる敵の装甲硬度を落とすことも可能かもしれない。


(でも、その力を使えば、ひよりんたちは……オリジナルになれない!)


 日に日に濃くなってゆく、自分たちの「オリジナル」の影。見つかれば、問答無用で自分たちはなかったことにされる。

 生き残るために、自分たちもオリジナルにならなければならない。


 では、目の前の敵を突破するにはどうしたらいいか。

 その答えをくれたのは――――――やはり、父親であるアイネだった。



 斬鬼たちの背後で、金属が思い切り拉げる様な爆音が響き、天鬼の機体が建物を数棟巻き込んで地面に墜落していた。


『天鬼!』

『我、被害甚大。だが、無慈悲に報復を続行すべし』


「お父さん!?」

「すごい……どうして!?」

「ふふん、大きけりゃいいってもんじゃないわ」


 アイネはあちらこちらが若干焦げていたが、不敵な笑みを浮かべて、翼をはためかせていた。

 ひよりんたちが斬鬼を倒すまでの間に時間稼ぎをするはずだった彼女は、いったいどのような手品を使ったのだろうか?

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