仇為す鋼達と 願いの翼 その1

 生体ブラックボックスを回収したアイネとイヴは、クライネを連れたままディスクの隠れ家まで虹天剣へのワープで戻ってきた。


「ただいま、ひよりんたち! いい子にしてた?」

「おっかえり~お父さんっ! でも声は戻してほしいかな?」

「お父さん、もう声もどしてぇ…………」

「あ、そうだった」


 戻ってきたとたん、いつものように抱き着くひよりん姉妹だったが、アイネはボイスチェンジャーをオンにしたままだったので、声を戻してほしいといわれてしまう。

 そして「お父さん」と呼ばれているアイネを見て、クライネが目を丸くして驚いた。


「アイネ……そ、その、お父さんって……いつの間に子供を!?」

「まあそうなるよね……要はまあ、この子たちは私と同じ境遇なのよ」


 アイネがひよりんたちのことをクライネに説明している間、イヴが生体ブラックボックスが入った水筒をディスクに手渡す。


「やあDさん! 生体ブラックボックス、何とか回収したぞ」

「ああ、飲み物持ってきてくれたのね、ありがと。ちょうど喉乾いてたの」

「…………うっかりさんとガレット・デ・ロワという逸話を知っているなか?」

「冗談よ冗談。でも、別に真水に漬ける必要はなかったんだけど」

「そうなのか?」

「真水に漬ける必要があるのは、海水に没した時だけだから」


 水筒の中から取り出されたのは、コメ粒ほどの大きさの、黒いマイクロチップ。脊髄に埋め込まれたこのチップから情報を抜き出し、新たなチップを複製することになる。


「時間はかかるかしら?」

「いいえ、もとになる情報があるならそこまで時間はいらないわ。さっきは0から全部書いていく必要があったから時間がかかっただけ」

「それはほんと……申し訳ない」

「まあいいわ。ハッキングのついでに抜いたオークション会場の残高の半分を報酬としてもらうわね」

「その半分って、ほとんどアイネさんが払ったお金……」

「何か文句ある?」

「滅相もない」


 こうしてアイネたちは、満を持して第10エリアにある異界生類総研の本部に立ち入る用意が整ったが、その代償として十数兆円というとんでもない成功報酬を支払う羽目になったのだった。



××××××××××××××××××××××××××××××


  ――――《Misson11:仇為す鋼達と 願いの翼》――――

 ――――《Target:斬鬼 & 天鬼》――――

  ――――《Wanted:★★★★》―――― 


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「やはり、行ってしまうのですね…………アイネには、もう一度マリミテに戻ってきてもらいたかったのですが」

「ごめん、クライネ。私にはやらなければならないことがあるし…………それに、もう本格的にハンター稼業始めちゃったから。その代わり、クライネ達にはしばらく安全なところに避難してもらおうと思うの」


 アイネが救出したクライネと、黒龍騎士団に救出されたマリミテの女生徒たちは、アイネを追い出してしまったことを反省し、もう一度一緒に学生生活を歩みたいと申し出てきた。だが、アイネはもうあの学生生活に戻ることはできなかった。

 その代わり、アイネはかつての友人たちを信頼がおけて、なおかつ安全な場所に避難させることにしたのだ。


「いたいた。やっと見つけたわよ新入り! どこで道に迷っているのかと思ったら、こんなところをほっつき歩いていたなんて!」

「あはは……ごめんなさい、レティシアさん。帰還要請無視しちゃって」


 ディスクの拠点から少し離れた広場。

 ウルクススフォルムの先輩ハンター、レティシアが目を尖らせてアイネを待っていた。


「あんたがいない間に、あやうくウルクススフォルムはなくなっちゃうところだったんだから!」

「え゙!? どういうこと!?」

「詳しい話は帰ってから話すわ。とにかく、今のあんたのご主人様は別の人間…………いや、あれを人間といっていいのかしら? とにかく、ヘッドが変わったの」


 どうやら、アイネがあっちこっちに行っている間に、拠点では何やらとんでもないことが起こっていたらしい。ぶっちゃけいうと、ウルクススフォルムは別勢力に無条件降伏していたのだが、アイネは全く知らなかった。


「あんたの荷物、戦いの余波で全部なくなっちゃったけど、たぶん話せば弁償してくれると思うわ」

「そうですか……。でもレティシアさん、ごめんなさい。私、ちょっと行かなければならない場所があるの。だから、私の親友をウルクススフォルムに避難させてほしいんです」

「はぁ!? なんで私がそんなこと!?」

「ひよりんの妹が……見つかりそうなんです」

「その子たちの、妹、ね…………」


 アイネは先輩に精一杯頭を下げた。それに対しレティシアは何か言いたそうにひよりん姉妹を見たが――――彼女はため息一つついて


「…………アイネ。必ず戻ってくると約束できる」

「約束できます」


 レティシアの言葉に、アイネは迷いなく強く頷いた。


「いい度胸ね。いいわ、あとは先輩に任せなさい。い、言っておくけど、私は新しい主が若干気に入らないだけなんだから、女学生くらい受け入れさせるわ!」


 どこまでも素直ではないエルフだったが、彼女はアイネの代わりに友人たちをウルクススフォルムまで送ってくれると確約してくれた。


「よし! じゃあ改めて……ひよりんたちの妹を探しに行くわよ!」

『おーっ』


 すべての懸案事項を片付け、いよいよ敵の本拠地へ乗り込む――――そう意気込んだアイネたちに、実にタイミング悪く次なる試練が訪れた。



 ウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


 第8コロニー一帯に、空襲警報のようなサイレンが鳴り響いた。


「これ、大規模攻撃警戒サイレン!?」

『アイネさん、緊急事態! 私の拠点が狙われているみたい!』


 ハンター以外は屋内に避難せよという警報が鳴り始めた直後、アイネたちがいる場所めがけて、幾筋もの光線が降り注いだ。


「防御展開っ!!」

「はいっ!」「ひぃっ!」


 アイネとひよりん姉妹が、即座に自分たちの属性武器で巨大な盾を展開し、無数のビーム攻撃からクライネたちと拠点を守った。幸い守る対象に被害はなかったが、その周囲の建物はあっという間に蒸発した。

 そして、巨大な黒色の人型ロボットが二機、轟音と土ぼこりを舞い上げてアイネたちの前に降り立った。


『標的確認。虹翼天使アイネとその娘、および情報屋Dの拠点。十二鬼神が一機、斬鬼が、命により、殲滅を遂行する』

『十二鬼神が一機、天鬼。報復攻撃を実行する』


「うっわ、またロボットなの!?」


 機械系の敵が苦手なアイネは、二機の敵を見て思わずげんなりした表情を浮かべた。

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