養殖幼女 その4
前の部屋は瓦礫で塞がれ、後ろからは正体不明の敵が来る。
アイネとイヴは戦闘を覚悟して背後を向いたが――――相手が近くまで来て、彼女たちはようやく彼の正体に気が付いた。
(あれ、この人ひょっとして…………)
生で見るのは初めてだったが、その顔は広くカンパニー世界に知れ渡っている。
もしやと思ったアイネが、相手に声を掛けようとした、その時
「待ってください、
アイネがわきに抱えたままだったクライネが、必死になってそう叫んだ。
黒鎧の騎士は、驚いて思わず目を大きくする。
「何だ? 俺は君を解放しようと……」
「この方々は、私の親友なんです! ですから、どうか剣をお納めください!」
呆然とするアイネの手をすり抜け、クライネが二人の前に立つ。だが、相手もどうしたらいいかわからず困っているようだ。
(あ、そうだ。私たちの格好が誤解されているんだ)
いかにも悪役っぽいマフィア二人が親友など、だまされてるとしか思えないだろう。それにこの先は顔を隠す必要もない。
二人は顔を見合わせて頷くと、顔を覆っていた特殊マスクをベリベリと剥がした。
すると、相手はようやく合点たようだが、アイネの顔を見て改めて驚いた。
「騙していてごめんなさい。私はこの通り、かつてマリミテ女学園に所属していた者です」
「そっちの……そっちの女性は、御勅使アイネ、か……!?」
「私を知っているのですね。そちらこそ、噂は伺っております。『黒龍騎士団筆頭』黒騎士こと、須王龍野さん」
やはり本物だったか――――アイネは毅然とした態度を取りつつも、背筋に汗が止まらなかった。
クライネが間に立ってくれたからよかったものの、一歩間違えれば虹天剣なしで交戦せねばならず、ひよりん姉妹を呼び寄せる前に、その体は0.5ずつに分断されていただろう。
「黒騎士」須王龍野といえば、駆け出しハンターであるアイネから見れば大先輩であり、その強さは第8エリアの間でも、強さの基準としてよく引き合いに出されていた。そんなのが目の前にいるのだから、たまったものではない。
「実は私たちはかくかくしかじかというわけで――――」
「ああ、そうだったのか。かくいう俺たちも――――」
取り敢えずアイネは、自分たちがどうしてこんなことをしているか説明し、
龍野もまたここまで追ってきた理由を説明した。どうやら彼らは、カンパニーの上層部からの命を受けて、この違法な人身売買の現場を潰しに来たようだ。
クライネ以外の生徒たちも全員無事救出されたと聞き、アイネは心の底で安堵した。
「なるほど! この先が、人形制作者の根拠地だと!」
「こんな商売は二度とさせてはいけないと思うのです。ですから、ここは見逃していただけると助かります。急がなければ下手人が逃げる可能性が!」
「わかりました! 貴女達はこの奥に用事があるようですね、では少々散らかしますので、そこからどいて下さい」
「黒鎧の……いえ、須王様、何を!?」
自分たちの方に剣を向けられた三人は、慌てて通路の端に身体を寄せた。
次の瞬間、龍野が崩落した通路目掛けて、剣先からレーザーを放った。光の一閃は、崩落した瓦礫を一直線に吹き飛ばし、その上生体廃棄集積所の床に穴をあけて、隠し通路を無理やりこじ開けた。
「これでできました。あとは頼みましたよ、アイネさん」
「す、すごい……!」
アイネは改めて彼の放ったレーザーの威力に驚嘆した。たった一撃ですら、アイネのフルバーストよりはるかに威力が高そうだった。
「さて、俺は早く戻らないと、うちの姫様に心配されちゃいますから。その代わり、ターゲットに会ったら須王龍野が「お前の作品は0点だ」と言ったと伝えてください」
「あはは……わかりました」
さすが一流の騎士ともなると、ジョークセンスも一流なんだなと思いつつ、アイネたちは彼がブチ開けた通路を進んでいった。
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※今回の話の別視点
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889635326/episodes/1177354054889807987
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