養殖幼女 その3
クライネの落札に成功したアイネとイヴは、スタッフに案内され地下の美少女オークションがある階層から、さらに下の階に行く。
地下3,4,5階にはまるで高級ラブホテルのように、ピンク色の光に照らされた通路と、いくつかの分厚い扉に隔てられた部屋がある。
ここでは、入札した少女たちとすぐに「楽しめる」ようになっており、アイネたちは作戦上なんとしてもどこかの部屋に入る必要があった。なので、作戦の上では別に態々高い金出してクライネを買う必要はなかったのだが、誰か一人を助けられるのならと、アイネがわざわざ指名したのだ。
(今のところは順調。部屋に入ったら「合図」を出して、3分後に監視カメラのシャットアウト、そして停電……それが向こうからの「合図」……)
アイネは心の中でもう一度この先の作戦を反芻した。ここからは協力者とのタイミングがカギとなる。監視カメラと電源を遠隔操作で落とし、施設が混乱している隙に暗視装置と通信装置を素早く装備して、地下6階……生体廃棄集積所へと向かう。ターゲットはその先にいる。
(本当は出来る限り助けたかったんだけど……)
アイネの目的は、あくまで第10コロニーの奥地に踏み込むための情報を入手すること。なので、どうしても他の人員に構っている余裕はなかった。それこそ特殊部隊でも連れてこない限り、全員の救出は不可能だろう。
自分の無力さに歯噛みしつつ、アイネは目的の部屋へと向かった。
「では、どうぞゆっくりお楽しみを」
部屋につくと、スタッフはそう言って部屋から退出する。残ったのはアイネとイヴ、それと……マリミテの制服を着たクライネだった。
「クライネと……申します、本日は……よろしくお願い…………いたします……」
彼女たちを土下座出迎えたクライネは、恐怖で体をガタガタと震わせ、声が緊張で上擦っている。
そんなクライネをよそに、アイネはイヴと目を合わせて頷き合うと、懐からコインの形をした発信機を取り出し、一言――
「D」
とだけ言った。その返答は
《監視システムは遮断した。3分後に室内灯の電源を落とす》
と、少女の声が聞こえた。
「……………もう大丈夫よ、クライネ」
「――――!? え、そ……その声、アイネ!?」
「あ・た・り♪ 2週間ぶりくらいかしらね。ちょっとここに野暮用があって、そのついでに助けに来たわ」
アイネはボイスチェンジャーの電源を切り、自らの正体をクライネだけにばらした。クライネは「まさか」といった風に驚き、口をあんぐりさせる。
「いい? このあとすぐにこのあたり一帯が真っ暗になるわ。私とイヴは暗視装置で前が見えるから、その間クライネを抱えていくわ。だから……少し我慢してね」
「……! わかったわ。もうこうなっては…………アイネ、あなたを信じるしかないわ」
ところが――――ここでアイネたちの想定外の出来事が起きた。
上の階で轟音がとどろき、地下フロア全体が揺れたのだ。
アイネが様子を確認するために防音扉を開けてみれば、どうやら上の階で何か戦闘が起きているらしく、粉砕音や銃弾の発砲音が聞こえてくる。
「な、何これ!? 停電は?」
「わ、わかりません!」
《アイネ、イヴ、聞こえる!?》
「Dさん!! なんか上の方が騒がしいんだけど!?」
《別のハンターが上の階に突入したみたい! 今は詳しく話してる暇はないけど、作戦変更よ!》
「別のハンターですって!?」
自分たち以外にこのような場所に突入するハンターがいるとは思ってもみなかった。
いったいどこから情報が漏れたのか……いや、場合によってはアイネたちと同じ獲物を追っているのかもしれない。だとすると非常にまずい。
《下手すると巻き込まれるわ! その子を置いて、地下6階に急いで!》
「わかった、ただしクライネは連れていくわ!」
《え、いやそれ―――》
アイネは通信を切ると、クライネの体を乱暴に掴んで、まるでひよりん姉妹にそうするようにわきに抱えた。足手まといではあるが、彼女を連れて行ったのは正しい判断だったと後でわかる。
どうやら想定外のことが起こったようではあるが、当初の作戦以上に地下組織が混乱しているようだ。
「とにかく逃げるわよ! イヴ、脇目も振らずチェックポイントへ急行!」
「ええ、了解!」
「え!? ちょ、ちょっ……!」
アイネとイヴは部屋を飛び出し、逃げ惑う人々を殴り倒しながら、入口とは逆方面……地下6階へと急いだ。
変装を解くわけにはいかない彼女たちも、もしかしたら攻撃されるかもしれない。必死になって廊下を駆け抜けるアイネとイヴ。大混乱のさなか、どさくさに紛れて奥に進む二人を、ある者の双眸が目敏くとらえていた。
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「くっ! シークレットブーツって、メッチャはしりにく~いっ!!」
「普通に走れる分マシですっ!! 私なんかこのオー脚ですよっ!」
「う、後ろから何か来るっ!?」
関係者用の扉を蹴り破って、地下6階へと進む二人。足回りにまでカモフラージュをしたせいで、無様にバタバタ走りをする彼女たちに、背後から何者かが追い付いてきた。
二人が振り返ってみれば――――そこには、大きな剣を携え、人間とは思えない猛スピードで近付いてくる黒い人影があった。
「うわっ……なにあれっ!? 敵!? 敵なの!?」
「あんな鎧を着て大きな剣をもって、それであの速さ……詐欺じゃないですか!?」
「Dさん! 私たち地下6階で正体不明の敵に追われてるっ! もしかしたらひよりんたち呼ぶかも!」
《二人とも、なんとしても生体廃棄集積所に飛び込んで! 入ったら私が隔壁を閉めるわ!》
なおこの時点で、Dさんは襲撃者が何者かを把握できていなかった。そのため、イレギュラー出現で計画の修正を余儀なくされ、若干苛ついているようだった。
生体廃棄集積所はもうすぐ目の前だ。ここに飛び込み、シャッターを下ろせば少しは時間が稼げるはず。
「止まれ!」
追いかけてくる黒い人影が警告を発する。だが二人はこれをスルー。
待てと言われて素直に待つ奴などこの世にはいない。
が、あと少しのところで、二人は後ろから攻撃の気配を感じ、前方に低く屈んだ。彼女たちの頭上を光線が閃る。だが、どうやら彼女たちめがけて売ったわけではなかったようだ。
ビームは天井を抉り、生体廃棄集積所入口の上部隔壁を破壊したのだ。瓦礫が入り口をふさぎ、逃げ切ることは絶望的になってしまった。
「諦めて止まれ! そして、黙ってその女子生徒を解放しろ……!」
男性の声が通路に響く。
果たして、アイネたちの運命やいかに
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