養殖幼女 その2
一般人や学生たちは、ミスコンに出場していた女生徒たちを見るだけにとどまる。その素肌に触れるなどもってのほかだ。
宝石より貴重な、可愛い女子高生を見ることができるのは月一度……このミスコンだけというかわいそうな境遇の男子もおり、彼らはこの場でしっかりと彼女たちの姿を脳裏に焼き付け、一か月後まで脳内彼女として癒しのお供にするのである。
だが、そんな貧乏人たちを嘲笑うかのように、カンパニーのVIP達は、学校裏にある離れの研究棟へと向かう。ここから先は、きちんとした身分のものでなければ入れない決まりになっている。
「IDチェックをいたします」
「ルチアーノだ、IDカードはこれだ」
「あっしはヴォロシーロフでやんす、おっとIDはこちらですな」
ルチアーノと名乗ったアイネと、ヴォロシーロフと名乗ったイヴは、無事にゲートを通過した。どうやら協力者の作業は間に合ったようだ。
彼らは係員の誘導に従い、研究棟の地下に案内される。階段を降りた先はまるで高級ナイトクラブのようになっており、財界の大物や巨大スポンサー、それに貴族など、特に身分の高い者たちが高級ソファーに腰かけ、高級ワインやシャンパンを呷っていた。
二人は部屋のやや右寄りの二人掛け席に案内された。
「さーて、どう出てくるかな?」
「へっへっへ、いい掘り出し物があるとよいですなぁ」
彼女たちは適当に酒をグラスに注ぎ、飲むふりをした。特にアイネは未成年なので酒を飲むわけにはいかない。
『皆様、本日はようこそおいで下さいました』
5分ほど寛いでいると、アナウンスが流れた。それを合図に、騒がしかった部屋が一気に静まり返る。
『当校では、将来有望な学生たちにより良い学校生活を送るために、皆様のご支援を募っております。ですが、ただのご寄付では皆様もご不満でしょう。そこで、当校にご寄付いただいた皆様には、当校の学生たちが最大限のおもてなしをいたします。また、本日は当校の学生を精巧に模したお土産もありますので、ぜひご期待ください』
アナウンスが終わると、場内から万雷の拍手が巻き起こった。
「何が『ご寄付』だ。こんなところでまだ建前をくっちゃべるのか」
「へへ、まあまあ、これ~が貴族の嗜みってもんです」
二人がひそひそと話している間に、ピンクのライトで照らされたステージの幕が上がる。
そこには、首輪をつけられ、死んだような表情をした女学生たちが並んでいた。制服はバラバラで、様々な学校から連れて来られたことが一目瞭然である。
しかも彼女たちは――――――ついさっきまでミスコンに出ていたのである。
『ではまず001番から。3000万からスタートです!」
「4000!」
「4500!」
「いや6000!」
『6000出ました! ほかに手を上げる方は?』
そう……表向きのミスコンとは、VIP達が事前に女生徒たちを品定めするための場であり、ミスコンが終わればこの場で新たに「入札」が行われる。
モテない男子たちがミスコンの女子たちの顔を思い出して、情熱を迸らせている間――――金持ちたちは、悠々と「本体」を買っていくのだ。
「最近は悪質なブローカーが『密猟』や『乱獲』をしているせいで、質の高い女子が出回りにくくなりましたが、今回はあのマリミテが出品されるというのですから、期待が持てますな!」
「ヤスダ……とか言ったか? 最悪に悪質な奴隷商人が、我々の紳士協定を無視して活動しているらしい。制裁を加えねば」
「ふん、あの女生徒は『中古』か。あの値段ではだれも欲しがるまい」
アイネたちの耳に、あちらこちらから凄まじく下世話な言葉が入ってくる。
同級生たちのお披露目ダンスを見せられた時も心が荒んだが、実際に女学生たちをまるでマグロを競り落とすように落札していく様は、それ以上にアイネを不快な気分にさせた。
(く…………こいつら全員、虹天剣で吹っ飛ばしてやりたい……)
はやる気持ちをぐっと抑え、アイネは黙って人身売買の現場を見過ごした。
作戦の次の段階に行くには……まだ我慢する必要がある。
『えー、続きましては、本校の生徒をもした人形や、最近話題の人物を模した人形のご案内です』
途中、なぜか「人形」の販売が行われた。
だがこれは「異界生類創研」の活動資金回収の一環でもある。
本物を捕まえることができなくとも、ある人物を模した人形を相手にしたいという好事家は後を絶たないのだ。
そしてアイネたちは、さらなる地獄を見た。
「うっ…………奏さんの、人形!?」
「あっちは、かの有名なヴァイス王女……の人形。狂ってますね……」
二人はショックのあまり、一時的に演技を忘れてしまった。
なんと壇上には竜舞奏やヴァイスシルト王女など、途轍もなく強くて手が出せない人物の「人形」が出品されていた。しかも入札でどんどん高値がついていく。
強く美しい女性を人形で模して屈服させようとするその卑劣で悪魔的な考えに、二人は吐き気をこらえるので必死だった。しかも――――
「そんな、ひよりんが………売られて……」
「ボス、気を確かに」
「……あぁ、しかし……頭が痛い」
「もう少しの辛抱です」
なんとマリミテの制服を着させられた「日向日和」の人形が、競売にかけられた。この光景を本物が見たら、この地域一帯は焦土と化すだろう。神をも恐れぬ所業とはこのことか。
だが、地獄はさらに続き…………
「…………さて、私の値段は? いくらで売れるのかな?」
「…………」
アイネ人形が20億円で落札された。
そんなこんなで、人形の落札が続いた。アイネはだいぶ気分を害したが、逆に言えばこれで「異界生類創研」の人員が、この催しにかかわっていることが確実となった。彼女たちの賭けは成功しつつある。
『続いて、本日の目玉である、マリミテ女学園の皆様です! さあ、誰に「接待」してほしいでしょうか! もし女の子に気に入ってもらえたら、お家までついてきてしまうかも!? それではいってみましょう!!』
「ついに来たか……」
「ここからが正念場ですな」
ステージ上に、マリミテの女学生たちが並べられる。
踊っていた時とは違い、誰もが首輪をつけられ、無表情でうつむいている。
アイネは、この後の作戦のために、彼女たちの中から「一人だけ」助けることができる。
次々と仲間たちが高値で落札されていく中、アイネは初めからただ一人だけを狙っていた。
『続きまして514番、こちらはなんと! マリミテの生徒会副会長です! しかも生娘! これはご寄付の額は高くなりそうだ!!』
そしてついにその時が来る。
ステージの前に出たのは…………かつてのアイネの一番の親友だった、元生徒会長クライネ。同級生シシリアの口車に乗せられ、魅了チート男子の罠にかかった彼女もまた、マリミテ陥落と同時に副会長へと降格させられ、とうとう「商品」になってしまった。
『こちらは10億円からのスタートです! どうぞ!』
「30億!!」
「ワシは50億出すぞい!」
「いいや、80億だ!」
今までになくガンガン吊り上がる値段。その勢いは止まらない。
そしてとうとうこんな値段を提示する者まで現れた。
「ではこの俺は1兆出そう! どうだ?」
「1兆だと……また思い切った! あれはエライユ公爵家の公子様だ!」
「あの若さで1兆もの大金を動かせるのか!?」
黄金の鎧を着たイケメンの騎士が、1兆というにわかに信じがたい値段を付けた。どこかの大貴族らしいが…………ここからはアイネのターンだ。
「では、私は20兆で落札したい。よろしいかな」
『20兆!?』
会場が俄かにざわめく。いまだかつて、人間にこのような価格をつけた人物がいただろうか。さすがの貴族騎士も、20兆は出せないのか、悔しそうにその場に着席した。
「ボス、いくら何でも出し過ぎでは?」
「どうせ後で回収できる」
財産が数千兆円に達しているアイネにとって、20兆ですらはした金でしかなかった。
さあ、いよいよ本格的な潜入の始まりだ。
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