幕間4-1:有栖摩武装探偵社の最期

 マドカを気絶させて、簀巻きにして運んできたひよりん姉妹は、丁度高畷を倒したばかりのアイネと合流した。


「ただいまお父さん! ひよりんたちやったよっ!」

「お父さあぁぁん! ふええぇっ! またケガしてるっ!」


「よく……やったわ二人とも。ふうっ、こっちもなんとか……片付いたわ」


 マドカの能力チートで性能を底上げされた高畷門道との殴り合いは凄まじかったようで、アイネの体や顔にはいくつもの青あざができていた。対する高畷もボコボコになりながらも、まるで心筋梗塞で死んだかのように、土気色の顔で白目を剥いていた。

 アイネは、止めとして彼に竜舞式格闘術奥義「心壊」を打ち込むことに成功したのだ。


「さてと、こいつが有栖摩武装探偵社を乗っ取った元凶ね。随分早く倒せたじゃない」

「うん! 弱かった!」


 そうあっさりと言い放つ姉日和。

 その間妹日和は、泣きながら黙々とアイネの治療をしていた。

 姉妹から話を聞いたところによると、どうもこのターゲットは、戦闘は専門外らしい。その処遇をどうしようかと考えている三人のところに、下層に避難していたイヴがやってきた。


「アイネさん! いいお知らせです!」

「ん? イヴさん、どうしたの?」

「外にあふれていた紙幣の排出が止まりました!」

「本当に!? きっとこれもひよりんたちがこの女を倒したからだわ!」

「えっへへ~……多分そうだとおもう!」

「…………」


 イヴは知らなかった。この騒ぎの元凶が、本当は自分たちのボスであることを。

 そしてひよりん姉妹は、現場証拠から考えてマドカが犯人ではないと感じていたが、アイネのためにあえて黙っていることにした。


「これで………これで、すべて終わったんですね。私や奏様が愛した武装探偵社は、今日この時をもって無くなったのです」

「イヴさん……」

「下にいた残り2000人のメンバー全員に、コートと帽子を捨てさせました」


 それでも2000人も残っていたんだ――とアイネは心の中でつぶやいた。

 男性探偵たちは結局マドカを倒しても洗脳が解除されず、むしろ「主の仇を」とばかりに全力で襲い掛かってきた。そして全滅した。このP.W.ヒルズも近いうちに解体され、死体はどこか適当な場所に捨てられることだろう。

 この世界の弱者には、弔われる権利すらないのだ。


「で、なのですがアイネさん。このあと少しお時間ありましたら、私と組みませんか?」

「え? イヴさんと組む? う~ん、どうしよう……」


 しんみりした空気から一転、イヴはなぜかアイネと組みたいと申し出てきた。

 すぐにウルクススフォルムに帰る予定だったアイネは、彼女を連れて行っていいものか少々悩んだ。

 だが、彼女はすぐにとんでもないことを口にした。


「そちらの二人……日向日和さんのクローンですよね?」

「!」「!」


 ひよりん二人が身構える。まさかこんなところに、自分たちの素性を知る者がいるとは思わなかった。ただのモブと侮っていたら、とんでもない伏兵であった。


「まさか行方不明の4体のうち、2体がアイネさんに同行しているとは思いませんでしたが、これはすごい幸運です! 実は探偵社…………いえ、私の上司にしてアイネさんのお師匠様――奏様が4体のうちの1体の居場所を探り当てていました」

「何ですって!?」

「ひよりんたちの姉妹が」「ど、どこにいるのか知ってるの!?」


 三人は驚きの余り、思わず顔を見合わせた。


「ねえねえ! 協力しちゃおうよお父さん! やっとほかの姉妹に会えるんだって! 絶対行きたい!」

「まって、まってよぉお姉ちゃぁん…………すぐに信用しない方がいいかもぉ…………」


 ひよりん二人の意見は割れた。今すぐにほかの個体に会いたいと願う姉と、それ以前にイヴを完全に信用できないとする妹。

 二人は結局、父であるアイネに決断をゆだねることにした。彼女たちはまだ父親行動するのに父親の指示が必要なのだ。


「一つだけいいかしら。私たちと組んで、イヴさんは何がしたいの? 私たちに何をさせたいかによって、返事は決めるわ」

「…………復讐です。この女が所属する非公式組織――――私たちの探偵社を壊滅させた『異世界再生機構reboot』を、潰すとまではいかなくとも、一泡吹かせたい。返り血の一滴でも浴びせられれば、私は満足です」

「異世界再生機構……初めて聞く名前ね」


 イヴによれば、異世界再生機構はカンパニーが設立された当初からある古参の派閥であり、スクラップ&ビルドによる新たな世界の構築を行ってきた。高度に組織化された派閥でありながら、近年まではカンパニー上層部ですら、その存在を知らないほどの隠匿性を誇っていたという。


「そして、日和さんのクローン体の存在には、異世界再生機構が関わっているのです。ですから…………」

「そう来たか。そこまで知っちゃったからには協力するしかないわね。いいかしら、二人とも」

「うん! そしてもちろん倒してしまってもいいんだよね?」

「お父さんがそう言うなら…………」


 こうして、アイネたちは一時的にイヴと共闘し、残りの日和クローンの行方を追うことになった。

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