金を喰らう 後編

 留守番を任されたひよりん姉妹は、アイネが外の様子を見に行った後、先ほどまでのテンションが一気に下がり、ひたすら無言でテレビを見ていた。


「…………」

「…………」


 しかし3分くらいたった頃、姉妹は示し合わせたかのように、座っていたソファーから立ち上がった。


「ふぇっ!? お、お姉ちゃん……もしかして同じこと考えてるの……?」

「うんっ! お父さんのところに行こうっ!!」


 どうやら二人は、アイネがいないことに耐えられないようだ。アイネがいないと不安で不安で、アニメの内容が全く入ってこない。

 二人は部屋の鍵を閉めて、駆け足でホテルの屋上へと向かった。



××××××××××××××××××××××××××××××



 ビルに突っ込まれたアイネに、虹色の鉄の塊がさらに唸る拳を叩きつける。

 その衝撃でビルは完全に粉砕されたが、アイネは間一髪で翼を広げ、上空に飛び立って回避できた。だが、その姿はボロボロで、服のあちこちが擦り切れ、いたるところから流血している。


「たたかわな………きゃ。わたし……は………」


 息も途切れ途切れに呟くアイネには、もはや飛ぶだけの魔力しか残っていない。

 だが、ここで逃げてしまえば、今度は地上にいる一般の人々に被害が及ぶ。


「なにやってるんだ!! 差し違えてでも倒せ!! ハンターだろ!!」

「ったく、これだから最近のハンターは……ぶつぶつ」

「おい、こら、勝てないなら土下座してでも仲間を呼べ! 仕事なんだから早くやっつけろ!」


 しかし、悲しいことにアイネが守っているはずの一般市民は、苦戦するアイネを応援するどころか罵声を浴びせている。確かに彼らはアイネに守ってくれとは頼んだ覚えはないが、それでも限度と言うものがある。


(私が……弱いから、いけないの…………? 私は……なんのために……)


 アバの攻撃を回避しながら、アイネはどんどん意識が朦朧としていく。

 そんな時、彼女の脳裏に文字が浮かんできた。


---------------------------------------------


Emergency : Positive

Malice : Positive

mode1 : Unlocked

mode2 : Lock...


Unlock?

---------------------------------------------


(繋がる?)


---------------------------------------------


Deactivation : Negative

.

.

.

Connection : Favorable

Deactivation : Positive

mode2 : Unlock


Purge

---------------------------------------------


「こんのおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」


 ぼーっとしているアイネを蹴りつぶそうとしたアバのキックを、アイネは空中でブリッジをして躱し、そのどてっ腹に3色ずつの虹天剣を叩きこんだ。3色ずつだと言うのに、先ほどの7色のレーザーよりも太く、威力があった。そして、吹き飛ぶアバに先回りするように高速移動したアイネは、アバが態勢を整える直前に、虹天剣でから竹割するかのように頭上に振り下ろした。

 アバはアスファルトに突っ込み、まるでギャグマンガのように人型の穴を作った。


「よぉーし……なんか知らないけど、体力と魔力が回復した気がするわ。レベルアップでもしたのかしらね」


 あながち間違いではないのだが、アイネはなぜ自分の魔力や耐久力が回復したのかわかっていないようだ。


 一方でアバも、まだ戦えるらしく、人型の穴から素早く立ち上がった。

 が、アバの受難は終わらない。

 アイネの後方から、アバに向かって赤と青の太い光が降り注ぎ、虹色の鉄の塊を貫いた。


「お父さああぁぁぁん!!」

「ひよりんたち!? 来てくれたのね!!」

「えっへへ~、いてもたってもいられなくなっちゃって、助けに来ちゃった!」

「ありがとう二人とも! ちょうどお父さんじゃ、アレが手に負えなくてね! さあ、とっちめてやるわよ!!」


 アイネに遅れること3分、ようやくひよりんたちが合流した。

 ただ、ひよりんたちは父親の様子に若干違和感を感じたが、今はその時ではないと判断し、すぐに攻撃に移った。


「いい、二人とも? アレの攻撃は前のゴリラ兵器の比じゃないわ! 距離を取って、確実に攻撃を当てるの! わかった?」

『うんっ!』


 ひよりんたちは二手に分かれ、アイネはその場を動かない。

 まず、アバは目の前のアイネに向かって全力で突進したが、その前に巨大な瓦礫の塊が現れた。


「地術『落鳳砲』っ!!」


 アバが今まで破壊した瓦礫の塊が、至近距離で散弾のように飛び散り、全体をまんべんなくボコボコにする。


「よくもお父さんをっっ!! ゆるさないっ!! 水術『魔導水牢』!!」


 かつてビルがあった瓦礫の下から水道水が一斉に吹き出して鉄砲水と化し、瓦礫の散弾を受けてよろめいたアバに襲い掛かる。

 前後左右、そして上から群がる水流がアバの全身を押さえつけ、そのまま水圧で押しつぶさんとする。しかも、水流はリサーキュレーションのようにアバに対して執拗にまとわりつく。無機物の塊であるアバは溺れはしないが、常に循環流リサーキュレーションの中でもがき続ける状態になるため、動きが極端に鈍くなった。


「さあ、この金食いお化けを成仏させるわよ!!」

「うん、お父さんっ!!」


 妹日和がアバの動きを止めている隙に、アイネと姉日和が虹天剣と砂神剣を容赦なく撃ちこんだ。

 この圧倒的な連携に、アバはついに音を上げ――――――最後は魔導水牢の中でぐしゃぐしゃにつぶされた。

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