幕間2-4:取られたくない!
ひよりん姉妹が突然扉を開けて現れたせいで、思わずアイネに飛びついてしまったエスティだったが、それを見た妹ひよりんがすぐさま手に虹天剣αを構えた。
「だめぇっ!! お父さんを取っちゃいやーーーっ!!」
「うえぇ!? ま、まって! 私はそんな!?」
先程大浴場で姉と語り合ったせいで不安がやや増大されてしまっていたからか、
妹日和はアイネがエスティに取られると勘違いしてしまった。
一方でエスティも咄嗟のことで混乱し、アイネから離れるどころかより強く抱きしめてしまった。
「はなれろーーーーーーっっ!!」
絶叫と共に、妹日和の手から七色の水分子のビームが放たれる。
「ひよりんっ!!」
直後、アイネが素早く動いた。
抱き着いたエスティを突き飛ばし、同時に虹のバリアを盾形に展開。
めちゃくちゃな威力の虹天剣αの光がバリアにぶち当たり、ドゴォという轟音と共に天井を吹き飛ばした。資料室から借りていた本の一部も衝撃で舞い散ってしまったようだ。
そして…………軽減できなかった威力の一部は虹の盾を貫通し、アイネの左肩を抉っていた。
「え―――――おとう、さん……?」
「ひよりんひよりん、いきなり普通の人に攻撃しちゃだめだよ♪」
姉日和はワンテンポ遅れて、笑顔で妹を後ろから羽交い絞めにしたが、どう考えても遅かった。攻撃はよりによってアイネに当たってしまったのだから…………
(お父さんを……攻撃、しちゃった……。お父さんを……攻撃)
怒られる。捨てられる。お父さんが死んじゃう。
様々な思考が混濁し、妹日和は頭が真っ白になって、動きを止めてしまった。
だが、負傷した肩を顧みもせず、その場にしゃがんで妹日和に目線を合わせ…………頭を優しくなでた。
「こらっ、ひよりん。お姉ちゃんの言う通り、普通の人を攻撃したらだめでしょ。
私は……お父さんはひよりんたちのことを見捨てたりしないから、大丈夫」
叱りはしたが、その口調はとても穏やかで、どちらかというと子供を心配するような雰囲気だった。しかし、肩からは容赦なく血が流れ、アイネの寝巻をじわじわ赤く染め上げていく。
「お父さん、今治すからじっとしててね」
「ごめんなさいごめんなさい! お父さん、ごめんなさい!」
「アイネさん、私も治療します。そしてごめんなさい、私のせいで……」
「だ、大丈夫……ちょっと痛いだけだから。みんなにけがななくてよかったわ」
やはり無理をして娘たちを落ち着かせようとしているのか、アイネの顔は若干青ざめていて、息もだいぶ荒い。
「ごめんなさい……ひよりん、ごめんなさい! だからひよりんたちのこと嫌いにならないでぇ!」
「大丈夫だよひよりん。泣いてたらそっちの方がお父さん心配しちゃうよっ」
「そうよ、大丈夫……大丈夫だから」
その後、騒ぎを聞きつけ、すわ襲撃かと駆け付けたウルクススフォルムのスタッフたちによって、なんとかその場は収まった。騒ぎの元凶となったエスティもやや気分が悪くなったのか、スタッフたちに抱えられて救護所に向かった。
オリヴィエ代表は一連の顛末を聞いて深くため息をついたが、アイネたちを組織から追放まではせず、実質お咎めなしだった。
「ただし、屋根と本の修理代は払ってもらうわよ。エスティと分割でね」
「「うへぇ」」
そして、最終的に喧嘩両成敗となったのであった。
××××××××××××××××××××××××××××××
今日も、大きなベッドで「小」の字になって寝るアイネと日和たち。
ただし上を見上げると、満天の星空が広がっている。そしてすぐそばからは海のさざめきが聞こえる。
「お父さん……本当にごめんなさい」
「それはもういいって。ま、たまにはこうして、開放的な場所で寝るのもいいんじゃないかしら?」
コンドミニアムの天井を破壊してしまった彼女たちは、一応他の空き部屋を使わせてもらえることになったが、アイネはそれを断って、野外にベッドを運んでそこで一夜を過ごすことにしたのだ。
「私、足手まといになってない? お姉ちゃんみたいに強くなった方がいいのかな?」
「こーら、それはもう気にしないって約束したでしょ♪ 逆にひよりんは、お父さんが足手まといになったら、お父さんのこと捨てる?」
「いやーーっ!」
「ほらね。お父さんだってそれはおんなじなんだから」
迷惑をかけまくってしまった罪悪感でメソメソ泣く妹日和を、アイネは笑顔であやした。初めのうちは面倒だなと思っていた時期もあったが、いまでは自分に甘えてくれるのがうれしくて仕方ない。
それに、妹は足手まといでもなんでもない。すでに戦闘力ではアイネに追いつきつつあるのも確かだが――――
(この子は私が気が付かないような危険に真っ先に気が付いてくれる。それがすごくありがたいわ)
妹日和は非常に憶病で繊細だが、逆を返せばそれだけ危機感地能力に優れているともいえる。また、正しいかどうかは別にして、とっさの時の行動力は姉を大きくしのぐ。
泣き虫の癖さえどうにかすれば、最終的に強くなるのは妹の方ではないかとアイネは感じていた。
(むしろ私が心配なのはお姉ちゃんのほうかな…………)
逆に、当初は完璧かと思っていた姉日和は、いくつか欠点が見え始めてきていた。
その中でも特に心配なのが、アイネ以上に前向き過ぎて人を疑わないことと。
善意の塊とも思えるほどの純粋な感情は、時として周囲を狂わせかねない。
もちろんアイネには、彼女たちを見捨てるつもりは毛頭ないが、自分の父親としての資質に疑問を持ち始めていることも確かだった。
極端な感情を持つ娘二人を、果たして将来軌道修正できるだろうか。
(よし、久しぶりに師匠に会いにいこう。ついでに修理代も稼ぎに行かなきゃね)
いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった妹日和と、幸せそうな顔で涎を垂らす姉日和をキュッと抱きしめながら、アイネも静かに瞼を閉じた。
ただし、この幸せは長く続かない。そのことに――――アイネも薄々気が付いているのだが。
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