幕間2-2:彼女たちの事情

「リルヤだ、今戻った」

「おかえり。どうだった彼女たちの様子は?」

「まあ、色々あったよ」


 アイネたちと共にウルクススフォルムに戻ったリルヤは、彼女たちがコンドミニアムに戻ったのを見計らって、オリヴィエ代表の執務室を訪れた。オリヴィエは相変わらず、リルヤを一顧だにすることなくノートパソコンに向かい、せわしなくタイピングをしている。


「ふぅん。あの子たちがトイレに行かないのがそんなに驚きなのね」

「……確かにそれもあるけどさ、それよりなんなのあの子供二人。日向日和にそっくりなのはまだいいとして、なんで一個人の魂が四分の一ずつしか入ってないわけ? ありえなくない?」


 そう言ってリルヤは肩をすくめた。

 リルヤが直接アイネたちに接触した時、リルヤは二人の女の子の魂の歪さに、思わず度肝を抜かれた。はっきり言って、魂を圧縮しているエルの存在を見た時以来の衝撃だった。


「魂の分割で感情が欠落するとあんなになるんだね、初めて知ったよ。しかも、それぞれ対応する感情は一種類ずつしか術が使えないみたいじゃん。いつも笑っている子は土術だけ、めそめそしてる方は水術だけ…………わけわかんない。術とそれに伴う知識なんて、魂だけじゃ不可分のはずでしょ」

「あのね。わかんなかったら自分で調べなさい。ここは図書館なんだから」

「あんなのの知識が過去にあるわけないじゃん。僕をバカにしてるわけ?」


 リルヤは明らかにいらだっていた。

 彼女たちの存在は、イレギュラーと呼ぶには明らかに異質すぎる。

 それはショートケーキを包丁で四分割しても、卵とミルクと小麦粉と砂糖に分かれることはまずありえないのと同じことだ。


「とにかく、あれらのお守は僕はもうごめんだね。見ているだけで気分が悪くなるよ。でも、また何か別の依頼があったら言って。内容次第で引き受けるから」

「ええ、お疲れ様。当分は好きに動いていていいわよ」


 オリヴィエは最後までそっけなかった。彼らは本当に仲間同士なのか怪しくなるほどだ。現に、リルヤはオリヴィエの部下ではない。あくまで力を貸しているだけだ。

 リルヤが去った後も、オリヴィエは黙々とキーボードを打つ。

 興味なさそうにも見えるが、彼からもたらされた情報は彼女にとっては非常に有益なものが多かった。オリヴィエには魂の形を見る力はないが、リルヤはその道の専門家であり、彼がわからない分野があることが判明したこと自体、大きな進展だ。


「……なるほど、あれはたしかに魂の専門家だわ。けれども、人間の根本的なところがわかっちゃいないわね。あの日向日和バケモノがニコニコ笑ってメソメソ泣くようなタマじゃないのに、クローンがああなった。それはただ単純に、魂の複製に失敗したと考えるのが自然だわ」


 生物には不要な感情などない。それが四分の一しかないというのは、なるほどかなり歪だ。喜びの感情しか持たない生物は、ストレスなく幸福に生きられるかもしれないが、危害を加える相手を危険と認識できず、迫りくる危険を恐れることができず、その上相手を労わることができない。そんな生物はいずれ自滅の一途をたどる。

 そうなると、彼女たちは自己防衛のために、ある手段を取り始める。


「あの子たちは……足りない感情をアイネから補っているわけね。自分たちの半身が見つかるまで、彼女を寄生先にする…………そして、用が済めば――――」


 オリヴィエは「ふぅ」とため息をつく。


「そうなる前に、アイネちゃんをしたほうがいいのかしら?」

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