VS屍神(完結編)
真っ先に気が付いたのは妹日和だった。
「お父さんっ! あの死体また動いたあぁぁぁっ!?」
「は? なんですって!?」
数十m先で、首と腹部に穴の開いた屍神アイダが、ビクビクと蠢動している。
姉日和ですら感知できなかったわずかな復活の予兆…………どうやら妹日和は姉に比べて戦闘の積極性はないが、その分警戒心が強いのだろう。
同じ人物からここまで違う性質が現れることにアイネはやや疑問を覚えたが、再び立ち上がるのなら撃退せねばならない。
「クヒヒヒ…………アタシはもう、死んでるんだぜ? お前たちは……不死者を甘く見すぎなんだよぉぉぉぉぉっ!!」
妹日和がぶち抜いた穴から水を滾らせ……本当の屍神が立ち上がる。
「…………っていうか、あれ喋るんだ」
そんな異常事態にあっても、アイネはどこか抜けていた。
××××××××××××××××××××××××××××××
――――《Misson6:VS屍神(復活編)》――――
――――《Target:屍神アイダ》――――
――――《Wanted:★★》――――
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ゆらゆらと立ち上がった屍神アイダの姿は、先ほどに比べて明らかに異様だった。その身体は水風船のように歪に膨らみ、四肢は肉体から分離し、粘りついた水分で繋がっている。
彼女の周りは、妹日和が戦った時に比べても明らかに多くの水柱が廻り、水圧で相手を潰さんと目を光らせていた。
「やるしかないわね……! 行くわよ、二人とも! 特訓の成果を見せてやりなさい!」
「うんっ! お父さんっ! いくよ、ひよりんっ!」
「まってぇおねえちゃぁん!」
アイネの合図で、二人の日和は同時に飛び出した。
二人の手には砂神剣と虹天剣αがそれぞれ握られ、アイネと瓜二つの姿勢で屍神アイダに突貫していく。対するアイダも、引きちぎった水道管に水を満たし、砲弾の代わりに日和たちへと撃ち込んだ。
スコールのように降り注ぐ高圧水流の雨嵐と、四方八方から押し寄せる水道管の破片の弾丸――――二人の日和はこれをよく捌き、物の数秒で屍神アイダに肉薄した。
だが、二人がそれぞれの剣を振り下ろし、アイダがそれを分離した両腕で受け止めた時…………屍神アイダが、急に二人の存在に何かしらの違和感を感じとった。
「なんだぁ、お前ら? 「死」の香りがこれっぽっちもしないじゃねぇか。人間でもなければ、死体でもない。お前ら………いったい、なんだ?」
「「!?」」
二人の動きが一瞬止まった。
その直後、アイダの顔がグルンと180°後ろを向いた。
「なぁ、あんた保護者だろぉ? 教えてくれよぉ!」
「なんっ!?」
屍神アイダは目をぎょろっと開き、不意を突いて背後に迫ったはずのアイネを見据えた。
アイネは急激にその場でターン……瞬間、彼女がいた位置に雷が降り注いだ。
チッと舌打ちしたアイネが、アイダの方ではなく、気配を感じた方角を見れば、象の足と瞳のような岩を両手に持った屍神エリュズリがいた。アイネは彼女の存在を完全に忘れていた。
(こうなったら………二人はきっとわかってくれるはず!)
アイネはいつの間にか自分一人だけ窮地に陥っていたことを認識すると、ビルの上に立つ屍神エリュズリに向かって大きく翼をはためかせた。
「無駄無駄ムダァ! 天使なら神様に従うのが道理だろぉ!」
前からはエリュズリの雷&樹木の槍衾攻撃、背後からはアイダの魔導水牢が襲い掛かる。
四方八方から異なるタイミングで来る攻撃を、アイネは反撃もせずに避け続けた。日和たちも、水攻撃をやたらとまき散らす屍神アイダに有効打が入れられない――――かのように思われた。
(お父さん! ひよりんたちのために、あんなに危ないことを……!)
(お父さんが死んじゃうっ! 早く止めなきゃ!)
思っていることはだいぶ違うが、二人がやろうとしていることは同じだった。
姉日和と妹日和は一瞬だけアイコンタクトを交わすと、なんと同時にアイネ目がけてそれぞれの剣から赤い光と青い光を放った。
「ばかめっ!! どこに向かって撃って―――る?」
ひよりん二人に同時攻撃されたかと思われたアイネだったが、まるで初めからわかっていたかのように、その場でひらりと回避。
そして、躱された光は…………アイネが視界を遮っていたせいで攻撃の予兆を読み取れなかった屍神エリュズリに直撃。あっさりと爆散させた。
アイネはあえて屍神アイダとエリュズリの目線を自分にひきつけることで、日和たちが攻撃する隙を作ったのだった。
「よぉしっ! 二人とも、ナイスタイミングっ!」
「…………よくも、よくもおおぉぉぉっ! ぇエリーをやってくれたなあぁぁっ!!」
ターゲットの片方を撃破して高揚し、ギュンギュン飛翔するアイネに対し、屍神アイダは妹分が撃破されたことでさらなる怒りをあらわにした。
だが、屍神アイダがいよいよ本気を出そうとした時……戦いの幕切れはあっけなくやってきた。
「残念、そろそろ終わりの時間だ。作り物とはいえ、お前の魂、いただくよ」
「!?」
どこからか不気味な声がした。
それと同時に、屍神アイダの背中に途轍もない衝撃が走る。
顔を真後ろに向けて向てみれば、背中に巨大な鎌が突き刺さっているのが見えた。
「――――魂に安息有れ。『落魂幡』」
崩壊した建物の陰から現れた銀髪の少年がぽつりとつぶやくと、巨大な鎌は禍々しい光を発し、屍神アイダが保有する魂を吸収し始めた!
「ぬああぁぁぁぁっ! こ、こんなの……こんなのはっ!? ま、まだ私は……なにもやっちゃいない! なにもやっちゃいないんだ………!」
体内から大量の魂魄が抜けていく悍ましい感覚に、屍神アイダはすさまじい苦痛と絶叫をあげた。アイダが操っていた水は、彼女の操作を離れて地面に流れ、辺り一帯を踵辺りまで水没させる。
その光景を、アイネと日和姉妹はただただ呆然と眺めるほかなかった。
「あはは、お父さん。横取りされちゃったね」
「ふええぇ……せっかくお父さんたちががんばったのにぃ……」
「ま、まあこういうこともあるわよ」
やがて、パンパンの水風船のようだった屍神アイダはカラカラに干からび、最後に頭蓋骨だけを残して消滅した。
そして、その頭蓋骨も……謎の少年が振るった鎌で両断された。
仕事を終えた少年は、改めてアイネたちを見定める。
その鋭い視線に、アイネは警戒して武器を構えた。
「なによ………人の獲物を横取りして、まだ戦いを挑もうっていうの? せこい男は嫌われるわよ」
「ああ、ごめんごめん。横取りする気はなかったんだけど、これほど魂満載の敵は珍しかったから、ついつい貰っちゃった」
そう言って少年は悪びれずに手を振ると、胸元のポケットからフクロウの形のアクセサリーを取り出した。
「僕の名前はリルヤ。――――死神だ。代表から言われて、君たちの援護に来たんだ」
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