VS屍神(初級編)
左の街路に足を踏み入れたアイネの前には、腕を組み仁王立ちをする筋肉モリモリマッチョマンの屍神と、赤い目をギラギラさせた不死者が立ちふさがった。
すぐさま先鋒のスケルトン5体がボロボロの剣と槍を装備し、アイネに斬りかかる。
「!!」
スケルトンたちの動きは今までと段違いだった。
まるで陸上選手のようなフォームで放たれた槍は、高速で飛翔し、寸分たがわずアイネの両手両足首、そして心臓に向かう。
一瞬驚いたアイネだったが、手足に虹のオーラを纏わせて、1,2,3,4,5本リズミカルに撃ち落とす。そして、間髪入れずに襲い来る5つの白刃を、回し蹴り3連でスケルトンごと粉砕した。
「私がこっちでよかったわ。急に死体が生き生きし始めたじゃない!」
不死者たちの目は、さらにアイネを憎むように、赤く明滅していた。
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――――《Misson3:VS屍神(初級編)》――――
――――《Target:屍神ソボ》――――
――――《Wanted:★》――――
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「あいにくだけど、あなたにはとっとと退場してもらうわよ!」
啖呵を切ったアイネは、翼を大きく羽ばたかせて白い羽を吹雪のようにまき散らす。実はこの羽、聖なる天使の力がこもっているせいか、不死者に対して触れただけでダメージを与えられるようになっており、羽に触れた不死者たちは、触れた部分の一部が消し飛ぶ。
だが、それでも不死者たちは怯むことなく、穴あきチーズのような状態でアイネに殴り掛かってくる。
「ちぃっ! こんなに気合の入ったゾンビは見たことないわねっ!」
虹天剣を両手に持ってビームソードにしたアイネは、殴り掛かってくる不死者たちを右に左にと切り捨てていく。ゾンビたちが繰り出す拳は重く鋭く、まるで大勢のボクサーと一人でやり合っているかのようだった。
(仕方ない、少し本気を出そう!)
幸い今回の敵たちは、以前のターゲットと違って虹天剣のレーザー攻撃が効くようだ。ならば、ちまちま格闘するよりも虹天剣で一掃した方が早い。
「とうっ!」
アイネは翼を広げ、10メートルの高さまで跳躍した。
彼女が両手に持っていた虹天剣を前に掲げると、彼女の周囲に虹天剣の分身のようなものが一気に30以上展開された。
「消し飛べぇっ! エンジェルバニッシュ!!」
赤、橙、黄、黄緑、緑、青、紫――――七色のレーザーが、虹天剣とその分身から一色ずつ一斉に発射され、無数の不死者たちに降り注いだ。
瞬間的な魔力消費はやや重いが、空中にいる彼女にすら飛び掛かろうとする勢いの不死者たちを一掃したのだった。
だが、その直後に――――アイネの頭上に雷が一発ドカンと降り注いだ。
「うぐっ!?」
強い衝撃と痺れがアイネの身体に走る。
雷が落ちたことに気が付いたアイネはすぐに回避機動を取るが、歩道橋や周囲の建物から跳躍してきた不死者たちがアイネの行動を妨害しようとしてくる。
(何をしているのアイネ! 敵の動きを見逃すなんて、初歩の初歩がなっていないわよ!)
一瞬、アイネの頭に師匠の竜舞奏の叱責が響いた気がした。
彼女は目の前の不死者たちの機敏な動きに気を取られすぎて、敵の親玉の動きを見ていなかったのだ。
頭上に広がる黒雲が光り、アイネ目がけて雷が降る。そして、その雷を操っているのは、青白い電流がバチバチ帯電している両腕を前に掲げている屍神ソボだ。
「ふっ、こんかいもまた殴り合いになりそうね!」
アイネも虹天剣で遠距離から攻撃できるが、相手もまたアイネを射程内に収めている。しかも、お互いの飛び道具は攻撃速度が速く、撃ち合っても時間がかる。ならば白兵戦を行うまでだ。
(相手はマッチョだけど……私には「竜舞式格闘術」がある! むしろ筋肉質な相手の方がやりやすいわ!)
必殺技「エンジェルバニッシュ」で前面の不死者は一掃できた。もはやお互いを遮るものは殆ど無い。
「さぁっ!!」
アイネは跳んだ。白い羽をまき散らして、数十メートルあるソボの距離を一気に詰めると、彼女は踊るように虹天剣をターゲット目がけて振りかざした。
それに対し屍神ソボは腕に電流を纏わせ、その腕で虹天剣を受け止める。
(腕で受け止められることはわかってたけど、実際にやられるとちょっと驚くわね)
瞬間――――アイネはソボのみぞおち辺りを思いきり蹴飛ばした。
腕で剣を防いでしまったソボは防御できず数メートル吹っ飛ぶ。
思いもよらない蹴りを受けたソボは、防御した両手を前にかざし、アイネに向けて電撃を放つも、アイネはまるでその攻撃が来るのが分かったかのように、姿勢を低く沈め、虹天剣を振るう。赤と青の光が交差し、ソボの両足を深く切り裂いた。
「あなたの攻撃なんてね、その立派な筋肉を見ればわかるのよ」
アイネがかつて師匠――竜舞奏から叩きこまれた「竜舞式格闘術」は、表向きは合気道だと名乗っている。だが、武術に精通している人間が彼女たちの構えを見れば、きっと鼻で笑われるだろう。
本来の合気道は、ほかの武術……すなわち空手や剣道、ボクシング等をマルチで高レベル修得して、初めて最低限の基礎技術を学べる。それくらい敷居が高くて、かつ難しい武術だ。だが、それでも「合気道」にこだわるのは理由がある。
竜舞式格闘術の真髄は、人体理解――――そこから発展する、敵対相手の構造理解にある。
特に相手が人型であれば、それがたとえ死体であろうとも、アイネは相手の外観から外観と筋肉の付き方を瞬時に把握し、その身体がどんな癖を持っているのかを見抜くのだ。
そして合気道とは――相手の力を利用して仕掛けるカウンター攻撃だ。だが、竜舞式格闘術は「先の先カウンター」を行うことで、敵の攻撃を「潰す」。
ソボは足に深刻なダメージを負ったことで、即座に脚部を回復させつつ、前方に広く電撃を放つも、アイネはオーラを纏った突撃で強引に突破。ダメージを受けつつも、今度は顔を切りつけ、反射的に上半身の防御に意識を向かせる。
こうなってしまえばもはやアイネの思うつぼ――――
竜舞式格闘術奥義…歪拳
アイネは剣で「格闘術」を再現して見せたのだ。
「そして、これでえぇっ!!」
今まで一色しか出して無かった虹天剣から赤、黄、青の三色のレーザーを放つ。
三色になって、威力も三倍になったレーザーが屍神の頭部を庇った腕ごと一気に消し飛ばした。
偶然にも彼女が放ったレーザーは、ソボが首から下げる、獣の眼球を固めてできた不気味な石を同時に吹き飛ばしたため、屍神はそれ以上再生することなく、残った肉体は虹のような砂となり崩れ落ちた。
「よぉしっ! やりぃっ!」
★1のターゲットにしてはなかなか強かったが、それでもアイネはあまりダメージを喰らうことなく討伐に成功した。
そして、かつて師匠から受けた教えが、いまなお自分の中に生きていることを実感しつつ、その真髄を新しい「弟子」に伝授するために――――別の場所で戦っているはずのわが子たちのところまで飛んだ。
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