VS屍神(見習い編)
くるくると優雅に踊る謎のゾンビの姿を見たアイネは、何か思うところがあったのか、懐からスマホを取り出してとある画面を開いた。そこには、カンパニーに寄せられるバウンティーハンターの一覧が表示されており、アイネはその中から目の前のターゲットの情報を見る。
「ふぅん、あのリンドさんからの依頼ね。ちょうどいいわね、特訓の相手になってもらおうかしら」
「えぅぅ……お父さん~…………あれ怖いぃ」
「よしよし、大丈夫。お父さんが付いてるから、一緒に戦おうね」
(この子が怖がるような相手とも思えないんだけどなぁ……)
以前撃破した
それを何故怖がるのか…………その答えをアイネが知るのは、だいぶ後になってからのことだった。
「じゃあひよりんがやるーーーーっ!!」
妹日和をあやすアイネの横を、姉日和が意気揚々と駆け抜けていった。
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――――《Misson2:VS屍神(見習い編)》――――
――――《Target:屍神エリュズリ》――――
――――《Wanted:★》――――
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相手が無害かどうか、この際関係ない。ターゲットなら倒すのみ。
姉日和は屈託のない笑顔で――――まるでおもちゃを持った友達を見つけたかのように、一直線にエリュズリに向かっていく。
だが、彼女の前に大勢のゾンビやスケルトンが立ちふさがった。
しかも今まで好き勝手に動いていた不死者たちが、突然ターゲットを守るようにスクラムを組んでいた。
「はいどーーーんっ!!」
姉日和は掌底で一気に10数体のゾンビを吹き飛ばし、さらに数歩進んで槍のような鋭い蹴り! そして、手近なゾンビを掴んで投げるなど、まるでアイネさながらの格闘を繰り出していく。
「ひよりんったら、もう私の『竜舞式護身術』をモノにし始めているわね! すごいじゃない!」
アイネはもとより、まだ師匠ですら極めていない竜舞式護身術を、わずか数日で肩を使いこなすまでに成長したひよりんたちの戦闘センスは非凡どころでは済まない。まさに天才と言うべきだろう。
そのようにアイネが感心している間にも、姉日和は不死者たちをガンガン蹴散らしていく。
だが、肝心のエリュズリは時々思い出したように魔法を撃ってくる以外は、まるで蝶のようにふらふらとアイネたちから距離を取ろうとしている。もしかしたらターゲットは、日和の勢いに恐れをなして逃走を試みているのかもしれない。
「おねぇちゃぁん………あんまり行くと、あぶないよぉ……」
「大丈夫よひよりん。お姉ちゃんは強いし、私もいるから!」
それに、アイネはあまりターゲットを追い詰めないでもう少し利用してみようとすら考えていた。
なぜなら、あのターゲット………屍神エリュズリが現れてからというものの、いままで中身のないスイカのようだった不死者たちに、見る見るうちに死相が浮かび上がってきたのだ。
(これよ………かつての私が経験した「死の中にある生」が……!)
アイネはぐずる妹日和を背負うと、翼を力いっぱいはばたかせ、姉日和がいる場所までミサイルのように突っ込んだ。
「さあ、お父さんの背中から、私の戦い方をよーく見てなさい!」
「う、うみゅ……」
着地点にいる不死者の顔を踏み抜いて潰し、その反動で空中回し蹴り。まるで義経の八艘飛びのように、不死者の肉壁を飛び越えようとする。
やや危険な戦い方だが、臨機応変に対応する能力のない集団にはかなり効果的だ。空からくる攻撃に安全地帯などない。そう思わせるような立体軌道で、逃げる屍神に迫っていく。
殴り、蹴る……そのたびに、アイネの脳裏に一瞬一瞬、不死者たちの「生前」の姿が浮かびがるように感じた。
かつて部族の戦士だった男
かつて会社員だった女
かつて猟師だった男
かつて栄養失調で亡くなった子供
かつての名もなき王だった人間
ついさっきまでは浮かんでこなかった、彼らがかつて生きていた証が……今ははっきりとアイネの目には見えた。
やがて、アイネと日和たちは不死者の集団をかき分けて、歩道橋のあるやや幅広の交差点まで来た。するとそこは、なぜか不自然に不死者がおらず、ぽっかりと開いている。
「お父さん……だから、危ないって言った……」
「…………なるほど、ただ逃げていたわけではないようね」
右の道を見れば、そこには屍を率いた初老の男性が立っていた。
左の道を見れば、そこにはきつい表情をした筋骨隆々の男性が立っていた。
そして正面には、エリュズリをかばうように女の子が立ちふさがる。
「ふふん、こっちも3人だからちょうどよかったわ。私、弱い者いじめは好きじゃないの。さ、ひよりんたち、いくわよっ!! 危なくなったら術も使っていいからね!」
「はーいっ、頑張るよお父さん!」
「ふえぇぇん! 早く終わらせるからまってて~」
アイネたちは3手に分れ、それぞれが見定めた相手に向かっていった。
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