幕間1-2:ウルクススフォルム


「聞きたいことは山ほどあるけど、このケガを何とかする方が先! というか、背中はズタボロだわ足の指はグニャグニャにひん曲がってるわ……痛くないの?」

「そりゃ痛いけどさ……もうだいぶ慣れてきた気がする」

「やせ我慢はよくないわよ! 普通の人なら転げまわって気絶するくらい痛いはずなんだから!」


 女性たちが乗ってきたホバークラフトに同乗したアイネたち一行。

 ホバーが出発してすぐ、重傷を負ったアイネはエルフの少女に介抱され、二人のひよりんたちとともに傷薬を傷口に塗り込んでいく。使われたのはなかなかいい品質の薬だったようで、傷口に塗ればたちまち痛みが引いていき、アイネはようやく人心地つけた。


「よかったね、お父さん♪」

「いたいのいたいの、とんでけ…………」

「ふふふ、ありがと二人とも。それにエルフさんも」

「……礼を言われるほどのことでもないわ」


 エルフの少女はややそっけないが、それでも「まだ痛いところはない?」など聞いてきたり、喉が渇いていないか聞いてきたりと、意外と面倒見がよかった。


「それにしてもあなたたち凄いじゃない。あの対人戦闘用自動人形『パンゼ』を4台も破壊するだなんて」

「ふーん、あのゴリラ兵器「パンゼ」っていうんだ。なんで私たちが狙われたのかよくわかんないけど」

「あー……それはね、たぶんあの兵器は元々うちらの拠点を襲撃しようとしていたんだと思う。うちらの拠点はこのすぐ近くの島だからさ、生体反応があったから間違えちゃったのかもね!」


 そう言ってカンラカンラと笑うポニーテールの女性。

 アイネにしてみれば、とばっちりで死にかけたのだからたまったものではない。


「むぅ、笑い事じゃないでしょ! 私はともかくとして、この子たちも危なかったのよ! えーっと……」

「あ、そういえばまだ名乗ってなかったっけ。私はツィーテン。互助組織『ウルクススフォルム』に所属するバウンティーハンターよ」


 紫髪のポニーテールの女性……ツィーテンは、ホバーを操縦しながら白い歯を見せてニカっと笑って見せる。


「そしてこっちのツンデレエルフちゃんが――――」

「誰がツンデレよ! 誰がっ! あたしは都会派エルフのレティシア! そこらの田舎者エルフと同じにしないでほしいわ」

「都会派って…………」

「何よ、文句ある?」

「いや私は別にいいんだけど」


 「都会派」を自称し、豊かな胸を張るレティシアだが、その服装は大きめの木の葉や天然繊維で作られた服をまとっており、自然にやさしそうではあるが都会っぽさはさっぱりだった。


 二人のハンターが自己紹介をしてくれたので、アイネもまた名乗ることにした。


「じゃあ私は――――」

「あ、待った、お姉さんが当てて見せよう。その特徴的な青と白の制服は、私立マリミテ女学園の制服。そして、その背中に生えた4対の翼――――『虹翼天使』のアイネちゃんでしょ!」

「え、私のこと知ってるの!?」

「当然よ! あなたは結構な有名人なんだから!」

「そ……そうだったんだ。ちょっと照れるわね」


 なんとツィーテンも、レティシアも、アイネと会ったことがなかったのに、彼女のことを知っていた。

 どいうやらマリミテの守護天使アイネの名は良くも悪くもカンパニーの支配下では有名のようで、顔を知らない人たちにもその名が知られているらしい。思いのほか自分が有名人になっていたことを知って、アイネは嬉しさと恥ずかしさで赤面した。


「でもさ、マリミテの守護天使アイネちゃんがなんでこんなところにいたの? 学校はお休みなの?」

「あー……それがね、私はもうマリミテの生徒じゃなくなったのよ。ちょっと生徒会と喧嘩しちゃってさ」

「……何かのっぴきならない事情がありそうね。ま、その辺はあとで時間があるときに話してくれればいいわ。それより、私たちの拠点の島が見えてきたわ」


 ツィーテンが前方を指さすと、アイネは目を一瞬点にしてしまった。前方に見える島は、大火災があったか、爆撃を受けたのか、島全体が黒焦げで木々の焼け跡しか見えない。


「あの……あなたたちの拠点って、もう壊滅してるの?」

「お父さん、あれたぶん結界なんじゃないかなー? きっと中を見せないようにしてるんだよ」

「あら、よくわかったじゃないお嬢ちゃん。あれは島が世を忍ぶ仮の姿……あの中には楽園が広がっているんだよ! さあ、行こうか!」


 ツィーテンはエンジンを思い切り吹かして、島の一角にある崖の洞窟の中に突っ込んでいった。

 カーブする鍾乳洞を少し進むとすぐに光が見え、出口を抜けると――――――

そこには綺麗な砂浜と、常夏のリゾート地を思わせる美しい建物などが並んでいた。


「ようこそ、我らが『ウルクススフォルムふくろう広場』へ! 襲撃に巻き込んでしまったお詫びに、お客様として歓迎するわよ!」

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