強襲型ゴリラ 後編
3台のゴリラ型兵器から放たれるアサルトライフルとビームライフルの嵐。
アイネは、背中の痛みをこらえつつ、翼広げて空高く舞い上がり、立体軌道で縦横無尽に攻撃をかわした。
「っつつ! さすがに今のは効いたわ……でも、私はほかの軟弱な「第二世代」と違って、銃弾の十発や二十発喰らったところで死にはしないんだから」
「FPS」世界から来た異世界人たちから言わせれば、最近の第二世代は銃弾を喰らったらすぐに死んでしまう、モブ程度の根性しかない奴が多すぎるそうな。
だが、アイネは師匠に鍛えられたおかげでHPは万を超えている。そうやすやす死ぬことはない…………が、やはり痛いものは痛い。攻撃なんて喰らわないに越したことはないのだ。
「3台かぁ……何とか懐に潜り込んで、1台ずつ破壊するしかないか」
面倒なことに、ただでさえ相手のAIは非常に優秀なのでかく乱して同士討ちは狙いづらいうえに、飛び道具ではフレンドリーファイアしてもほとんど無傷で終わる可能性が高い。
もはや、多少のダメージ覚悟で突貫するほかない。アイネがそう決断した――――その時だった!
「お父さんをいじめるなーーーっ!!」
「お父さあぁぁぁぁん! 死んじゃダメえぇぇぇ!!」
「ちょっ! あの子たち!!??」
建物から、小さな人影が弾丸のように飛び出て、ゴリラ型兵器の一つに二人合わせて一斉に飛び蹴りを食らわせた。
茂みの方に吹き飛ぶ、黒いゴリラ兵器。ほかの2台も、なぜか近づくまで生体反応がなかった二人がいきなり出現したせいで、動きに若干のラグが生じた。
そしてなにより一番驚いたのは、おとなしくしているよう言い聞かせたはずの「日向日和」2人が戦場の真っただ中に出てきたのを上空から見ていたアイネだ。
まさかあの2人が戦えるとは思っていなかったアイネは、残り2台に銃口を突きつけられる彼女たちを見て生きた心地がしなかった。
「ひよりんたちに、手を出すなあぁぁぁっっ!!」
1台目がけて、アイネが脇目も振らず空中から急降下する。
しかし、間に合わない! 銃口を向けた兵器からアサルトライフルが発砲される。
「ぴえっ!? おねえちゃん!?」
「大丈夫っ! 地術『父背』」
銃弾が日和たちを襲うコンマ数秒前に、地面から硬い土の壁が盛り上がった。何百発もの鉄の暴風が吹き荒れるも、土の壁はびくともしなかった。
「はあああぁぁぁぁっっ!!」
2台のターゲットがひよりんたちに向いてしまったせいで、こんどはアイネがフリーとなっていた。女の子がなぜ術を使えるのか不思議ではあったが、今はそんなことを考えている暇はない。
白い羽をこれでもかと言うほどまき散らし、アイネはまず急降下して手前の1台の頭部を虹天剣で直接殴る。さすがにこれだけではほとんどダメージはないが、一瞬体勢を崩すことができた。そしてそのまま1台目は無視して、殴った反動を利用しすぐ近くにいる2台目の腕に踵落としを食らわせた。
とにかくアイネは、なんとしてでも兵器のヘイトを自分に向けたかった。
「ひよりんたちには、弾丸の1発たりとも向けさせないんだからっ!」
両腕をクロスして、虹天剣から赤と青の光を伸ばし、アイネは白兵戦の構えを取る。兵器たちもアイネを無視できず、装備をビームサーベルに切り替えた。
「父さんっ!」
「大丈夫よ二人とも! 私が何とかするっ!!」
前後から、ゴリラの長い腕と共にビームサーベルが振るわれる。それに対して互角に渡り合うアイネだったが、やはりなかなか直接攻撃のタイミングがつかめない。
そして、数発打ち合っていた時に、ビームサーベルの赤い光がアイネの大きな翼の先端を掠めた。
「あっつっ!?」
「!?」
アイネにとってはなんてことないダメージだが、それを間近で見てしまった泣き虫の妹日和が………
「お父さん死んじゃだめっ! 水術ーーーっ!!」
彼女が手をかざすと、海から太い水柱が天高く湧きあがり、放物線を描いて、アイネを傷つけた兵器を直撃した。
しかも、ゴリラ兵器はとっさに水の塊が自分目がけて降ってくることを察知し、その機動力でよけようとしたのだが……運悪くアイネの攻撃をかわすために、やや後退した瞬間だったため避けきれない。
自分の十倍近い量の海水の質量に、ゴリラ兵器は押しつぶされ、その場にクレーターを作った。なんというすさまじい威力であろうか。
「ならば私もっ! お父さん、援護するよっ! 地術『陥獄』っ!!」
ごきげん日和が術を唱えると、もう一方の兵器の足元の地面が泥のように柔らかくなり、足が徐々に沈んでいく。自身の足元の液状化に気づいたゴリラ兵器はすぐに脱出しようとするも、アイネがその隙を見逃すはずがない。
「竜舞式護身術秘儀『鉄底』」
虹のオーラで補強された掌底、間髪入れず蹴り崩し。
先ほどから何度も近接戦闘を繰り返したアイネは、なんとこの兵器の機械的構造を大体見抜き、動力部のウィークポイント目がけて一点集中衝撃を与えた。
これにより、兵器の部品が内部で破壊され、立ち上がることができなくなった。
あっという間に2台が戦闘不能になるも、先ほど2人が茂みの方に蹴飛ばした最後の1台が起き上がって戻ってきた。
ビームライフルがアイネを狙う。だが、アイネは今度こそ自分が狙われたことに気付いている。虹を盾の形に展開し、ビームを真正面から防ぐと、次弾が発射される前に跳躍。
「よくも二人を怖い目に合わせたわねっ!! 許さないっ!!」
地面すれすれをスライディングのように滑空し、武装を変えられる前に蹴り上げ! 頭部に衝撃を食らわせつつ間髪入れずに『鉄底』、そしてとどめにオーラを纏った突撃で、ミサイルのようにゴリラ兵器をどついて、島の崖から突き落とした。
怒りに燃えた父親アイネの渾身の一撃であった。
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